7話
まず、鏡を覗き込んだ。暗くても不思議なことに、自分の顔がはっきり写っていた。そしてそこには、日本語ではない、謎の言語が書かれていた。
なぜか自分にはそれが読めたが、自分のオタク知識によって「ああ、異世界の言葉ね」とすんなり納得できた。勇者召喚系の作品でよくある、「強制的に脳に詰め込む」やつだ。
書かれていた文字はこうだ。
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ヤグルマ ランタロウ:レベル 0/3
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矢車卵太郎という自分の名前と、レベルの表記。レベル…そうか、これを上げればゲームのようにレベルアップできるのだろう。女神様がRPGのような世界と言っていたのは、レベルの概念のある世界だったからなのか。
3分の0とは一体…?
『シュー、シュー』
考察しようとした途端、背後から奴の鳴き声。
そう、自分には時間がない。俺は像の顔を見つめる。すがるような気持ちだ。
「力を、貸して…、頂けませんか」
像は反応しない。
「お願いします、どうか。悪魔、様、ですよね。何をささげればいいですか。魂ですか?」
像はピクリとも動かない。
「魂でも、寿命でも、記憶でもささげます、どうかっ…!」
やはり期待することは無意味だ。そう思ったそのとき。
像全体からオーラのような何かがほとばしる。
鏡に写る文字が変化する。
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ヤグルマ ランタロウ:レベル 0/3→1/3
魔神と契約し、レベルアップを行いますか?
はい いいえ
(一度実行すると、再実行までに時間がかかります)
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迷ったり、考える暇はない。タッチパネルの感覚ではいを押す。
すると、今度は像が手に持つ水晶が怪しいオーラを放つ。
右手(自分から見て左)の水晶にはオレンジ色の光のようなオーラを。
左手の水晶には紫色の煙のようなオーラを宿した。
再び鏡に視線を戻すと、こう表示されていた。
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ヤグルマ ランタロウ:レベル 0/3→1/3
選択してください
右手:ステータス効果 体力減少(微)敏捷増加(大)
左手:スキル【分身】
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二つの内から一つ選べ、ということか。
『シュルルルル』
アラクネの脱出は近いだろう。
判断力が試される。ここで選択を間違えれば、終わる。冷静になれ。
まず右手は、体力を少し失うことで敏捷を大きく上げる、素早く動けるということだが、この状況で意味があるのか?もし逃げ道さえ残っていれば、すぐさま選んだだろうが。
加えて、ゲーム的に考えて体力はHPのことと予想しているが、筋力的な意味合いはあるのだろうか。あるいは持久力か?
左手は、【分身】。デメリットはない。問題はどういう内容なのかだが…。はたして自分に使用できるのか?役に立つのか?
「詳細が分からない…、いや」
鏡をタップすれば選択してしまうだろう。
しかし機械に近いなら、タブレットのように特殊な操作をすれば詳細がわかるかもしれない。妙にゲームらしいレイアウトに促されるように、緊張しながらも【分身】を長押ししてみる。
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【分身】精神力を消費し発動。実体と微弱な意思を持つ自分のコピーを短時間生み出す。
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成功した。
実体を持った分身。幻影ではないということか。それに微弱な意思、要は勝手に動くということだろうか。精神力を消費とか、短時間というのが、どれくらいかわからないが。
加えて、具体的な使い方が示されていない。
右手と左手、それぞれの場合を脳内でシミュレートしてみる。
考えろ、考え出せ。
アラクネが現れてから今までの行動、そこから奴の特徴を予想して分析するんだ。
「もしかしたら…、そうか。であれば、俺が選ぶべきは…」
ちなみに魔神像起動のキーワードになったのは記憶です。