6話
「て、天井が…」
大小さまざまな岩石が、ガラガラと、ゴウゴウと、凄まじい音を立てて崩れだす。
「くっ…!」
慌てて両手で頭をガードし、その場でうずくまる。
さすがにアラクネも予想外の出来事に戸惑っているようで、茫然と天井を見上げていたが、すぐにこちらを見てとびかかろうとしてきた。
「く、来るな!!」
その願いが通じたのだろうか、アラクネがいる通路側と自分がいる空間側を分断するように、大きな岩が落下してきた。さらにそれを皮切りに、大量の小石、土砂がアラクネに降り注いだ!
「ほえ…?」
みるみるうちにアラクネは埋まっていく。やがて、完全に姿が見えなくなってしまった。
「え…。俺、もしかして助かった?」
一瞬の静寂。いや、まさか、こうもあっさりいくとは…。
しかし次の瞬間、希望は完全に打ち砕かれる。
ザリッ、ザリッ。埋まったと思われた土砂の中から、音が聞こえた。
『クルシュシュシュ、ジャッ、ジャッ』
まだ、生きていた。しかも出てこようとしている。
埋まっているうちに逃げられると考えた。しかし…。
「通路が、完全に埋もれている。これじゃ、どこにも逃げられないじゃないか…」
運よく助かったと思っても、逆に退路を断たれて詰みました、という最悪なオチ。バッドエンド。本当に笑えない。本当に。
殺されるしかないのか。まったく、天井が崩れた時には期待したのに。
今思えば、神に期待していた優遇とやらも、期待するだけ無駄だったのか。
期待なんてしてもろくなことにならない。短い時間だったけどよくわかったよ。
あーもう、次生き返るときは何も期待せずに生きてやる。
まあ生き返れる保証なんてないけど。転生できる保証ないけど。
「そういや、なんで天井が崩れてきたんだ?」
なんとなく気になり、後ろの、空間の中心のほうを見る。すると…。
「こんなもの、さっきまでなかったよな…?」
空間の中心、そこには何かの像が存在していた。石像?銅像?わからないが、とにかく不気味だった。台座の上に胡坐をかいているが、サイズ的に、立ったら多分2メートルはある。
その像は鬼のような恐ろしい顔と大きな蝙蝠の翼を持ち、筋骨隆々の体に鎧をまとっていた。
さらに特筆すべきはその腕だ。なんと4本もある。肩の上のほうに太い腕が一対、下のほうにやや細い腕が一対。
太い腕は左右にそれぞれ玉を持っていた。暗いのでわかりづらいが、おそらく水晶玉。
細い腕は両手で四角い板を持っていた。自分の姿が写っている。鏡だ。
一体、これは何なんだろう。
「もしかして、なにか特殊効果があったり…」
そこまで言って、ハッとした。
「期待したって無駄だ。多分なにもない」
口ではそう言っておきながら、自分の足は、その像に引き寄せられていった。