4話
それから何時間か、あるいは何分か。その場でじっとしていた。
うーん、これからどうしようかな。空腹感というか、飢餓感がだんだん脳を蝕んできている。
いや、なんにせよやることは変わらないか。暗闇の中、やみくもに進む。それ以外にできることは、多分ない。というか思いつかない。
「よっこらせっ、と」
立ち上がり、また歩く。
そもそもこの洞窟の出口に向かっているのか。あるいは遠ざかっているのか。
もっと頭のいい解決策はないものか。
「はぁ、はぁ」
大分足も痛くなってきたぞ。
昔からマイペースといわれてきたこの矢車卵太郎だが、さすがに焦る。
焦って歩くペースを上げるが、すぐに裏目に出る。スタミナが切れて、その場にしゃがみこんでしまう。
「おうち帰りたい…」
引きこもりゆえの帰巣本能。
チクショウ、こんなことになるならもうちょっと体力つけときゃよかった。
いやいや、ちょっと待て。弱気になるな。俺はなにも悪いことしてないじゃないか。もとの世界で信号無視の大型トラックに轢かれてさ。せっかく来た異世界なのに、何もできずに死にかけてる。あんまりだ。きっと俺は、かなり不運な部類なのだろう。
俺を転生させてくれたあの女神様。あの方は俺の味方なのだろうか。なんか対応めっちゃ雑だったなあ。
もしかしたら、俺がこんな目に合ってるのはあの女神様のせいかもしれない。俺が思い描いていたのは、もっとこう、楽して無双することだったんだが。適当に優遇してやるといっていたが、丸っきり嘘だったのか?
「くそ、今度あったら文句言ってやる」
しかし今後会うということはあるのだろうか。それこそ、俺がもう一度死なない限り…
あ。
「もしかして、また死んでも生き返られるんじゃね?」
かなり甘えた考えだが、全くないってことはないんじゃないか?
俺はトラックに轢かれて転生した。だが、なぜ自分を記憶を保ったまま異世界転生させてくれたのか、理由は聞いていない。もしかすると、いわゆる「神の手違い」的な理由かもしれない。同様に、今この状況も「神の手違い」で危険にさらされているのだとしたら、最悪野垂れ死んでももう一度転生させてくれる可能性はある。
生きる希望は見えないが、死に希望は抱ける。もしこの考えが100%外れていて、生き返れなかったら、もうどうしようもないんだけどね。
「ハハハ、死んでもどうってことないって。生き返れる。生き返れる。どっちみち、この世界に未練なんてねーし」
なんとか自分に言い聞かせよう。
もうここから動く体力なんてほとんど残ってないんだし、大人しく死を迎えいれようかな。できれば、自分でも気付かないうちに、眠るように死にたい。
「さて、この辺で寝ちゃうか」
両腕を枕にして、のび太君スタイル。
床が固いから安眠はできな………
シュルルルル。ジャッ!ジャッ!キシャアアアア!!!
あれ、さっきの生物と同じ鳴き声がするんですけど。
もしかして、追ってきてた?