2話
「はっ!」
目が覚めた。異世界に無事到着したということだろう。跳ねるように立ち上がる。
「いや、暗い!夜なのかな?」
辺りを見回そうとするも、暗すぎてよくわからない。わずかな明かりすらもないので自分の格好も確認できない。
「うーん、やけに音が反響するなあ。…もしかして、室内?」
周りが暗いなら、耳を使って音を聞けばいいじゃない。よし、もっと耳を澄ませてみよう。
…ピチョン、ピチョン。
水滴が落ちるような音。
…カサカサ。カサカサ。
何かがうごめく音。
…グルルルルゥ。
自分の腹の音。
「…腹減ったなあ。すいませーん、誰かいませんかー?」
………。
応答なし。
「まじかあ、誰もいないかあ。となると、ここ、どこ?」
うーむ。暗くて、人がいなくて、音が反響して、水の音がして、何かが動いている場所。
「あ、もしかして洞窟?」
ありえる。なんとなくそんな気がする。まあ洞窟なんて来たこと一回もないのだが。
「てか異世界にきて洞窟といったら、やっぱダンジョンだよなー」
異世界ものでダンジョンは肝心な要素だ。そんなことを言って、もしここがダンジョンだったらやばい状況ではある。
「まさかまさか、異世界にきていきなりダンジョンなんてことは…。いや、ないとは言い切れない!」
というよりも、ぜんぜんあり得る。異世界ものの小説でいきなりダンジョンに行く展開は何度か読んだことあるぞ!進○ゼミでやったところだ!
「でも、俺には神様からもらったチートがあるはずだから、なんとかなるよな!まずはそれを確認だ。確認は大事!よっしゃ、ステータスオープン!」
…シーン。
「おっと、セリフが違ったようだな。えー、じゃあ、オープンステータス!」
…シーン。
「なら、オープンザステータス!」
…。
「カモン!ステータスカモン!」
…。
「うーん。…ステータスウィンドウ?」
…。
「ステータス、でておいでー。」
…。
「ダメじゃん」
うん、当てずっぽうでやろうとして当たることって、まずないよね。諦めよう。神様に予め聞いとけばよかった。チクショウ。
「こんな暗い中じゃ、むやみに動けないしなあ。…でも、何もしなわけにもいかないし。壁を手で伝って歩いてみよう」
試しに両手を前に突き出して、前進。するとデコボコしたかたい感触が手のひらに伝わる。岩肌だろうか。ますます洞窟っぽい。
「よーし、慎重に歩いていくぞ。慎重に、慎重に。」
慎重。慎重。慎重。慎重。…そういえば俺の伸長って何センチだっけ。このまえほんの少し伸びて、163.5センチだったかな。矢車くんって普通に背低いよねー。ハハハ。黙れ。
「おっと、思考が逸れた。いかんいかん。仕方ない、慎重になる歌でも歌うか。慎重~、慎重~、俺は~慎重~」
我ながらクソみたいな作曲センスである。苦手なことはたくさんあるが、特に音楽のセンスは壊滅的だ。学校祭の合唱で多くの男子が声の小ささを指摘されている中、俺だけが音程の酷さを理由に小さい声で歌えと言われた。
「歌で気持ちを上げたところで、自分がどこにいるかは分からん!」
今更だが独り言が多くなっていることに気づき…、いや普段から多いか。とにかく、無言になり歩き続ける。