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世界を滅ぼす種

「異世界人であるソウタさんの介入により、あちらの世界のバランスは一気に傾きました。人も、世界も、すべてを巻き込んだ長い長い戦いの末に、世界は平和を望んだ人たちの望んだ通りの世界になりました。


 でも、それは長くは続かなかった。


 ソウタさんを送り出した後、まるでそれを待っていたかのように、息をひそめていた陰が表にあふれ始め、世界は以前の形に戻りました。結果論です。その過程の最中は、私も気づいていませんでした。

 自分たちが、世界のために永遠の平和の一路を歩んでいると、そう信じ込んでいました。

 これまでとは違う――と。


 でも、世界は人の手で歪められるほど甘くはなかったんです。

 長く壮大な歴史からすれば、ソウタさんによる一連の世界改変は、一時の地震のようなもので、世界はすぐさま元の進路に戻り始める。放っておけばあっという間に自然が街を飲み込むように。まるでそれが真実であるかのように。

 あるべき姿に収まろうとする。


 人というのは醜いんです。

 ソウタさんのおかげで手を握り合ったはずの国と国が、記憶を欠如したかのようにまた争い始めました。

 結局、息をひそめていただけなんですよね。悪意は。闇は。

 綺麗に掃除したように見えて、埃は家具の裏に隠れてただけ。

 ツブニサのように、首を切っても切っても、また悪意は生えてくる。

 当然、私たちの国ランバンも例外ではありません。

 古き悪習を未だに残すランバンでは、怒れる神々を抑え込むため生贄が当たり前のように行われていました。長く続いた雨を止めるため、私すら生贄の対象となりました。

 ソウタさん――アラガミ様がその原因を取り除き、事なきを得、我々は神ではなく自分たちの意思で生きていくことを決意した。

 ――はずでした。

 でもやはりランバンを取り仕切るのは古い老人たちなんです。そしてその人たちに幼少期から価値観を植え付けられて人たちなんです。

 何か困ったことが起こると、人はすぐに神を頼りました。

 自分たちではどうしようもない天変地異を、神の怒りだと恐れました。

 私一人が声を大にして叫んでも意味はありません。

 彼らは、私を異物として追い出そうとしました。

 

 そんな時です、ソウタさんによって、こちらの世界に呼ばれたのは。

 そう。志津香さんを助けた、あの。

 久しぶりの再会で、私の心は洗われるようでした。

 あの時の最終決戦のように、みんなと肩を並べて戦い、敵を打ち倒す。

 幸せでした。

 その幸せを感じるのもそこそこに、あちらの世界に帰ることになったんですが、あの後少しして、ワコクを治める天女――そう、プランさんによって招集がかけられました。

 最終決戦直後の、世界和平会談以来の大事です。

 各国の長と軍隊が新生ワコクに会しました。その場で、いま新たに歪んだ道を辿ろうとする世界を、今一度正そうという意思統一がなされましたが、やはり各国の思惑はそこでこじれ始め、会談はまとまらぬまま平行線でした。

 そんな時、プランさんからソウタさんと共に世界を救った七国妃――いわゆるセブンプリンセスたちだけが呼ばれました。そしてその中心には、七賢者のラーさんがいました。

 すべてを知り、すべてを司る彼女は、私たちに警告をしました。


 再び世界の崩壊が近づいている。

 それは以前よりも悪意と混沌に満ちた結末で、人類の半分が失われるだろう――と。


 ラーさんの占いは予言です。余程のことが無い限り、外れることはありません。

 ソウタさんにしても、リヒトさんの死は避けることができませんでした。

 だからこそ、軽々に占い結果を伝えることはしてくれないんですけどね。

 彼女は続けて言いました。

 しかし、その種はまだ芽を出してはいないと。取り返しのつかなくなる前に、その種を処分してしまわなければ、我々に未来はないと。

 デアドラゴン以上の災厄が訪れるだろうと。

 まるで私の――私たちの危機感を証明するかのような予言に、誰もがそれを笑いませんでした。

 ではその種は?

 この問題を抱えつつも、強く逞しい世界を滅ぼすほどの災厄とは?

 ためらうラーさんの代わりにと、プランさんが私たちに伝えてくれました。


 我々を滅ぼす災厄は、異世界であると。


 これまでは交わることのなかった異世界と私たちの世界が、今その繋がりを確かなものにしつつある。このまま行けば、異世界と私たちの世界が衝突することは避けられず、互いに深く傷つき多くのものを失う。

 衝撃な回答でした。

 よもや、おとぎ話とさえ思っていた異世界が、私たちの脅威となりうるなんて。

 でも私はこちらの世界に来てそれを確信しました。

 我々とはまた異なった方法で発達してきた文明は、驚異的なものです。テレビニュースを見ていても、恐ろしい兵器が今でもこの世界自身を燃やし尽くしています。

 ではそれが、私たちの世界に向けられれば?

 人の私欲で国と国との争いが絶えないのに、そこに異世界の存在があるとわかれば?

 それは火を見るより明らかでしょう。

 占わずとも、予想ができるものでした。


 だからこそ、我々はそうならないようにその種を見つけ処分したい。

 種が芽を出す前に。

 ラーさんに尋ねました。その種とは。問題の原因となるものはなんなのかを。

 そうです。

 もう言わなくてもわかりますよね。

 私もできれば言いたくはありません。

 でも、後悔の無いように伝えておきたいと思います。


 私たちの世界を滅ぼす種は――あなただそうです。

 志津香さん。

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