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結婚する気はありません

「暗殺者、見つけ方」


 検索しても求めた結果は出てこない。

 当たり前やないかーい――って。

 1人ノリツッコミは恥ずい。

 唯一実現可能そうな見つけ方が、探偵への捜索依頼だ。

 とはいえキサキさんらが見つけられない暗殺者を、町探偵が見つけられるとは到底思えない。しかも高いし。5万円~ってなによ。徳川の埋蔵金でも見つけてくれるの?


「ということは、最後の頼みは……」


 しばらく眠っていたゲーム機を起動させる。

 少しだけ間が空いただけなのに、私にとっては地下倉庫で眠っていたレトロゲームのジュマンジを発見したときのような気分だ。

 動き出した私を見て、シンディが餌でもくれるのかと飛び掛かってくる。私は片手で巧みにシンディを仰向けにさせお腹をさすって騙せつつ、画面に集中する。

 すると、通知にまさかの50件ものメッセージが届いていた。

 そのメッセージを確認すると、それは案の定――。


「出た。nekonekonyaon」


 私に暗殺者がキサキさんだと教えてくれたnekoさんである。

 とあるMMORPGにて、ノーヒスだかなんだかってギルドの幹部をしていたゲーム廃人だ。

 いかにも怪しい彼は、唐突にゲームのメッセで連絡を取ってきて、私をゲーム内酒場に呼び出しキサキさんが暗殺者だと教えてくれた。

 だがそれが、敵の巧みな揺さぶりであることは明白で。

 50件のメッセージをざっと確認するが、初めは雰囲気たっぷりで私を警告するような文章なのに、途中から返事が来なくなって焦り出す男子のような追いメッセが続いていた。

 数日前には、全く別ゲーの招待が来ていたし、その後すぐに「間違えたゴメソ」ときていた。ちょっとイラッとした。

 私は改めて最後のメッセに対し返信を打つ。例のMMOで待ち合わせして話そうと。

 返事を打ってからゲームを起動しようとして、思わぬトラブルに遭遇した。

 まさかのアップデートだ。

 初めて起動した時も1時間ほど待たされたあの、苦痛の待機時間だ。

 勢いを殺された気分で萎えつつも、シンディと遊びながら待つ。

 知ってる? ただのたまに出てくるペット化してるけど、この子はドラゴンで異世界を救った英雄の一人――もとい一匹で、とりあえずなんやかんやあってこちらの世界に小さくなって居座っているの。

 実は私はこの子に芸を教えていて、最近は下の階に行ってお菓子を取って来させる芸を覚えさせたのよ。すごいでしょ? だいたいカレーせんべいしか取って来ないんだけどね。好きみたい。あと他にはと言うと――あ、アプデ終わった。

 ということでローディングタイム終了。

 いよいよとゲームを起動させデジタルの世界へダイブする。

 しかし便利なもので、即座に私のフレンド画面にnekoさんがログインしていないことを示していた。

 どうやらやってない日もあるようだ。

 廃人なら一生ログインしてなさいよ。アイデンティティでしょ。

 仕方がないと、彼のギルドの敷地内を歩き回り情報をうかがう。しかしどうやら、彼のことは優秀なギルメンとして語られるくらいで、特段彼の素性について知ってる人はいなかった。

 とかくむかついたのは、どいつもこいつも私のタイプミスや動きのミスを『www』で笑ってくることだ。しかもほぼ半裸の衣装を気遣われて、ボロ衣を渡される始末。

 だれがゲームの中で物乞いせにゃならんのよ。

 もうっ。陰湿な人多い。私まで性格悪くなりそ。


『はじめまして。新規ですか?』


 そのとき、個別チャットで話しかけてきた人物がいた。

 その人物は、光る杖のようなものを持った、いかにも魔法使いっぽい人で、名前は『ぷいぷい』さんと言うらしく、他の人と違って温和な口調で話ができそうだ。


『そうなんです。nekonekonyaonって人のこと知りたくて』

『四柱の。あの人日中はあんまりインしないみたい。いつも深夜から朝方にかけてで、実はほとんどの人が活躍を見たことないんだって』

『いつ寝てるんですかその人』

『昼夜逆転してる人だろうね。珍しくはないよ。リアルで知り合いとか?』

『え、どうしてですか?』

『オンゲー内で、相手の素性知りたがる人ってまずいないから。そういうのが嫌で籠ってるからね。それに君、ゲーム自体に興味なさそうだし、別の目的で来たのかなーとか』


 するどい。

 この人は、できる人だわ。


『ゲーム以外で何のために来るんですかこんなとこ』

『単純にナンパ待ちとか?』

『ゲーム内で?』

『もちろん。結婚制度もあるしね』

『けけけ、結婚?! ゲームの中で?!』


 意味がわからない。

 なんのためにそんなことするのよそれ。


『今やゲームの中もリアルだから。アニメキャラと結婚するやつもいる時代だぞ? リアルと分けて別の人生を謳歌するのがこのゲームの醍醐味さ』

『結婚する気ないですから! たとえゲームでも!』

『待って待って! 俺はそういうんじゃないから!』

『だったらどうしてこんな半裸の痴女に話しかけてくるんですか!? まさか私で欲情ですか?!』

『落ち着いてって! ただその、リアルで好きな子に似てたから、気になって、困ってるようだったから力になれればって思って』

『リアルでこんなお団子ふたつ括りの武闘家みたいな髪型と風貌した女なんかいるわけない――』


 と、ここまで打って手を止める。

 ゲームを始める際、自分の分身=アバターの見た目を決める工程があった。私のアバターは、とりあえずなんでもよかったのだが、なんとなく身近にいた憧れの人の見た目を真似たのだ。

 そう。キサキさんだ。

 自分で言うのもなんだが、かなり似ていると思うし、結構気に入っていたりする。

 というかぶっちゃけ、キサキさんを超えたとさえ思っている。

 私の方が可愛い。なんて3分くらいは思っていた。

 だからまぁ、リアルにこんな風貌の女の子はいる。いるにはいる。

 よくよく考えたらフワちゃんとかもいる。結構いる。

 そして、この目の前の男のハンドルネームの『ぷいぷい』。

 ぷいぷい。ふいふい。ふい……

 あ――。

 もしかして。

 この人。


布衣(ふい)さん?』


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