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公共の場でやめてください

 てなわけで、女子デートを楽しみましたとさ。

 え? きゃっきゃうふふなデート内容? それは言えないわ。乙女の秘密だから。想像にお任せするわ。

 ということで、あれを買ったりこれを買わなかったりしていたらあっという間に日は暮れていた。

 笑いすぎて顔の筋肉が痛い。

 なんて幸せな時間だろう。

 変だけど、良い友達を持ったものだ。

 変だけど。


「ありがとうございました。私なんかのために」


 愛ちゃんらと別れで乗った地下鉄の座席で、キサキさんが私を見つめてはにかんだ。

 なんとも言えない幸福感に包まれ、私はキサキさんの腕にぎゅっと抱きついて頭を寄り添った。


「わわっ。志津香?」

「んふふ〜」

「なんですか怪しい笑いですね」

「幸せの笑いよ。キサキさんと知り合えて良かったなーって」

「私とですか?」

「うん」

「で、でも私は乱暴だし、女の子らしくないですし、危険を呼ぶ存在だし、ダメな女ですよ」

「キサキさんでダメなら、世の中の人間の9.9割は評価不能の低レベ人間になるわよ」


 キサキさんの豊満な胸が柔らかく心地よい。

 兄がこれを好き放題していると思うと嫌悪に満ち満ちた。


「あいつとのデート、頑張ってね」


 ぽつり、と。小さな声で言う。


「あははっ。こればかりは自信がありません。まだ1キロ先の標的に石ころを当てて爆散させる方が自信があります」


 怖い。

 私は今殺人兵器に抱きついてる。

 笑っていうことじゃないわよそれ。


「それに、私は志津香さんを守りにきた身分ですから。本当にそんなことを夢見ていいのか……私はいずれ帰ります。そしてソウタさんはこちらの世界を選びました」

「こっちに残ればいいじゃない。あいつと一緒に暮らせばいい。私も、できれば」

「……そんな」


 キサキさんは、そこで言葉をためらう。

 そしてしばらくのち、また口を開いた。


「そんな希望を、持っても良いのでしょうか」


 誰に。

 その許諾を求めているのか。

 それがわからなかったけれど、私は初めてキサキさんの陰を垣間見た気がした。


「キサキさん……?」

「あはは。すみません。ソウタさんとのデートを考えると億劫になってしまって。らしくないです」

「愛ちゃんが言ってた通り、目を見て真剣さを伝えるの。これが最後かもしれないって、それくらい本気で。男は去るものは追いたくなるから、いつでも付き合えると思わせたら負けよ」

「でも、振られてしまったら立ち直れないかもです」

「その時はその時よ。別の男を探しましょ。ほらどう? この間の合コンで出会った布衣さん。覚えてる?」

「もちろん覚えていますよ。ランク赤帯の人ですよね?」


 それゲーム上の設定よね。

 もしかしてむしろそんなことわそんなこと私が忘れてたわ。

 キサキさんの認識の大半がゲームに染まっていることに、一抹の不安を覚える。この人はあちらの世界に帰れるのであろうか。ゲーム無しの世界に。


「ゲームしたいなら、こっちの世界に残るしかないですね」

「むむっ。確かにそうです。困った」


 私が勧めた時以上に顔を歪ませて悩み始めるキサキさん。

 あなたの中でゲームはそこまで肥大化しているんだ。

 廃人まっしぐら。

 むにっ。

 と、キサキさんの頬をつつく。


「にゃ、にゃんです?」

「なんでもー」

「破廉恥ですよこんな公共の場で!」

「どうしてそうなるのよ」

「あちらの世界で頬を指で突くのは、性行為を意味する代替行為なんです!」

「えぇっ?! なにそれ?!」


 あれか。こっちの世界でいうところの、指の間をスコスコするやつか。ってなんで知ってんのよ私!

 そうこうふざけている間に、電車が目的の駅につき、乗り換えのために席を立ち上がる。

 私は一歩先に電車を出て、向かいのホームに停まる電車へと歩を進めつつ、キサキさんを振り返る。


「キサキさん。いい報告、待ってますね」


 照れつつそう言うと、キサキさんはしばらくの間呆然と私を見つめていたが、同じく恥ずかしそうに頬を赤らめた後、クチャッと顔を破顔させた。


「はいっ」


 あー。

 ごっさ可愛い。




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