愛のキューピッド隊
「ということで、兄とのデートが決まりました」
とある休日。
なんやかんや理由をつけてキサキさんを連れ出して繁華街へときた。
そこでようやく、今日来た本題を告げたのだった。
「え、えぇぇぇ!!」
不意を突かれたようにキサキさんは一気に顔を真っ赤にし染め上げて叫んだ。
「ででで、でぇと……!」
初々しい乙女の反応でとっても可愛いんだけど、既に体の関係を済ませてる間柄で何を恥じる必要があるのか甚だわからない。
もっと恥じるところがあるだろう。
「私なんかがソウタさんとデートなんてして良いものでしょうか」
「むしろあんな奴とデートしてくれるんですか」
あんなのでほんとにいいんですか。
と心の中で百回は叫んできたけれど。
それはもうとやかく言うまい。
「ということで、愛のキューピッド隊出動!」
と私が号令をかけると、背後から二つの影が飛び出してくる。
それはもちろん愛ちゃんと芽衣子ちゃん。
すみませんね。友達のバリエーションが少なくて。
ちなみにこの号令のすり合わせを愛ちゃんにすごくせがまれて何度かやった。ズーム会議だ。
おかげでアーケードのど真ん中で他の通行人にご迷惑をかけている。どんなポージングだったかはご想像にお任せしよう。はずい。
「おキサキ様のためとあらば、地球が天じゃなくて地が回りだしたとしても、駆けつけるわ」
え、愛ちゃん天動説信者だったの?!
この時代のこの国で?!
ボケなの?! マジなの?! どっち?!
「私も。キサキちんのためであらば、人類が猿から進化していたとしても駆けつける」
芽衣子ちゃんは人類創造論?!
この時代のこの国で?!
某宗教大国すら過半数は進化論派だと聞くのに?!
ちょっと怖いわこの2人。
これからうまく付き合っていけるかしら。
「そんなことあるわけないじゃないですかー! 地球は天が回ってますし、人類は神様が創造したんですからー。アハハ。2人とも面白いですねー!」
「そうよ愛ちゃん芽衣子ちゃん。さすがに冗談が――え?」
ん? 今の言い分だと、キサキさんはむしろ天動説と創造論を信じていると?
あちらの世界では、むしろそれがまだ主流だと?
いや待て。そもそも同じ理屈とは限らないのだから、科学的にそう証明されているのかもしれない。
だが。
だがだが。
よもやよもや。地動説も進化論もまだ現役真っ只なのかもしれない。だとすれば、安直にそれを覆すようなことを言うのはあちらの文明に重大な支障をきたすかもしれないではないか。
「さすがキサキちん。冗談がわかるようになったのね」
芽衣子ちゃんがそう言って居住まいを正す。
「漫才というものを見て勉強しました。ボケとツッコミの応酬はあちらの世界ではあまり見ないスタイルで、とても興味深いですね」
「関心関心」
あれ? なんかうまいこと噛み合ってる?
2人も冗談を言っていて、キサキさんも冗談に乗っかったと思われているようだ。
とにかくその件はできれば追及したくなかったからほっと胸をなでおろす。
「それで、恋のキューピッドとは?」
「ごめん。たいしたことじゃないの。私たちで、キサキさんをコーディネイトして万全の状態で兄とのデートに臨んでもらおうと思って」
「そんな……私なんかのために良いのですか?」
「もちろんです。キサキさんには是非兄とくっついて、私の義姉さんになってもらいたいですから。なーんて」
「つまり私の義姉にもなるってことか。すてき」
「黙って愛ちゃん」
私ちょっとこっぱずかしいこと言ってたの。
勇気出して。
一応キサキさんの反応も楽しみにしてた。
なのにあなたのせいで台無しよ。
「あいにく私は恋愛経験もほとんどないもんだから、不肖ながら恋愛マスター(自称)に手伝ってもらうことにした」
「まかせて。おキサキ様。私こと穂田愛の手に掛かれば、どんなブスでもレディーガガよ」
それは……いいことなのか?
美人だけど、奇抜なファッションのような。
「おー。レディーですか。なりたいです!」
「お任せなさい」
まさかのかみ合った。
さっきから勘違い系コントを見ているようだわ。
「私は男子が好きそうなことを教えるのね。冥竜王様との経験は、役に立てると思う」
富来くんは……うん。まぁそこそこ特殊な男子だけど。
でも兄も特殊だということを考えればむしろオッケー。
「こんな私たちだけど、キサキさんのためになれればと思って」
「~~~!」
キサキさんはジブリキャラのように毛をふわっと逆立てつつ、目を大きく見開いた。
「はいっ! よろしくお願いしますっ!!」
そう叫んで、めいっぱい首を垂れた。
よーし。がんばるぞ!
私は何もできなけど!
応援あるのみ!!
ていうか単純に楽しい!!
いぇい!!




