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高校生カップルあるある

 その後。

 ジャイアントキリングをした私たちが、大会の主役になることはなかった。

 優勝候補との死闘にすべてを出し尽くした私たちは、続く試合にウソのようにボロ負けした。

 浦くんは思うようにいかず暴走し始め。

 キサキさんはその浦くんと言い合いを始め。

 私は変わらず足を引っ張り続け。


 そして何より。


「あぁんベルザー様♡♡」

「おい、それはボイチャの時だけって言ったろ? 学校では名前で……あ、おはよー」


 部室に入ってきたそのお惚気(のろけ)マックスマッドの二人組。

 芽衣子ちゃんと富来くん。

 二人は腕を組みながら、チュッチュしながら遅れて部室に来た。

 そう。

 ウソのようにボロ負けした理由がこの二人。

 かいつまんで説明すると、芽衣子ちゃんは以前からネット上で知り合った富来くんとゲームをしていた。その時富来くんは冥王竜ベルザーという名前でゲーム界でブイブイ言わせており、ゲーム好きなら誰もが憧れるスターだった。芽衣子ちゃんはそのファンの一人で、ベルザー様に心酔していたらしい。

 しかし二人は同じ高校に入ることになり、同じゲーム研究部に入ったのだけれど、富来くんは典型的な内弁慶で、リアルでは人と視線を合わせて話せないほどのコミュ障オタクだった。富来くんはリアルで自分に好意を寄せてくれる芽衣子ちゃんにすぐに恋に落ちたれど、冥王竜ベルザー様としてふるまえるのはゲームの中だけで、リアルでは挙動不審な男子高校生その1でしかなかった。

 芽衣子ちゃんは冥王竜ベルザーとしての富来くんが好きだったけれど、富来くんは芽衣子ちゃんとの恋愛のためにオタクである自分を殺しリアルの富来として頑張ろうとしていた。

 すれ違い。

 だから芽衣子ちゃんは、「今は一緒にゲームをできなくなってしまった」と言っていたのだ。

 同じ人間なのだからしょうもないこだわり出すなや、とツッコミたくもなったけれど、それはすんでのところで抑えた。

 とにもかくにも、富来くんはあの試合を通して芽衣子ちゃんに気持ちを伝え、芽衣子ちゃんは冥王竜ベルザーであるところの富来くんと両想いだと知り、晴れて二人はくっついたのである。

 その結果。

 見ていてとても痛ましいほどに。

 ラブラブカップルが誕生してしまったわけだ。

 あ~えんがちょえんがちょ。


「とにかく、これで約束は果たせたかしら」


 富来くんの腕から離れようとしない芽衣子ちゃんに尋ねる。


「うむ! とても助かったのであります! お志津ちん、ありがとね。えへへ」


 確かにこれくらい可愛い子なら、独り占めしたくもなるわね。


「じゃあ今日でゲーム研究部とはさよならね」

「なんだ、もう来ないのか?」

「この大会の人数合わせで入っただけだしね。芽衣子ちゃんの頼みだったし」

「えっ」


 愕然、としたのはキサキさんだった。 


「いいぜ。部員としてはカウントしないけど、お前らはいつでもゲー研に来て遊んでくれよ。俺たちも二人だと寂しいからな」

「え~、ベルザー様さみちぃの??」

「ううん~そんなことなぁい! 芽衣子がいれば砂漠の真ん中でもオアシスだぞぉ!」

「あぁん嬉しい~!」


 殺すわよ。

 こいつら。

 

「はいはい。ご馳走様でした。私たちはお邪魔そうなので帰りますよ」

「ん、おお。そうだ。浦にも会ったら助かったって言っといてくれ」

「自分でいいなさいよ」

「駄目なんだ。あいつも、さっき退部届出してきたから」

「え?」

「急だろ? でも、そもそも入ってきたのも急だったし、そんな感じはしてたんだ。それに今後この部室に来て、俺と芽衣子の間に挟まれたんじゃ気まずいだろうし、ちょっとほっとしてる」


 あはは、と申し訳なさそうに割らす富来くん。

 彼は、浦くんは私を暗殺するために先回りしてゲー研に入ったのだと思っていた。

 どこから虎視眈々と、私の命を狙っているのだと。

 こんなところに身を置きながら、私は常にそのことを考えていたし、警戒していた。

 それが。

 どうして。


「ねぇ、芽衣子ちゃん」

「どしたの?」

「芽衣子ちゃんは、どうして私をゲー研に誘ったの? だってほら、プライベートで会う仲でもなかったし、私ゲームのゲの字も知らなかったし」


 私の問いかけに、芽衣子ちゃんは一瞬困ったように視線を斜め上へと持ち上げた。


「お志津ちんと親友になりたかったんだ」

「……親友?」

「うん。お志津ちんみんなに人気あるから、喋ってみたいなって思ってたんだけど、いつもは愛ちんと仲良しさんだったから近づけなくて。ベルザー様……富来くんとの関係に悩んでたのもあって、私ももっとリア充して人として成長しないとなって思ってたんだ。あはは、めちゃへたくそだったよね、誘い方」


 照れくさそうに笑う芽衣子ちゃんは。

 それはもう、抱きしめたくなるほどに可愛くて。

 そしてそこには、一切の偽りはなかった。


「親友よ、私たち。ゲー研やめたって、それは変わらないから。じゃあ、また明日教室で」

「うんっ!」

 

 精一杯かっこつけて、私はそう言って部室を後にする。

 我ながら、くさかったかな、なんて。


「よしじゃあ芽衣子、練習はじめっか」

「ん! でもちょっとだけ更衣室でにゃんにゃんしよ?」

「え~お前、ここ学校……」

「ん~~~! するのぉ!」

「わかったから引っ張るなってぇ!」


 扉を閉めた部室の中から、そんな声が響いてくる。


「……今、始まりましたね」

「キサキさん。解説しなくていいから」


 しばらく進んだ廊下の角で、律儀に報告してくれるキサキさんを私は黙らせた。

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