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ヤレばできる子

 ん~なんてこったい。

 私の画面には、赤く血文字で「死亡」と映し出されている。

 ここまでものの5分ほど。

 気が付いたら3回捕まって死んでいた。


「もうちょい粘れよ馬鹿!」


 いつも通り私を罵る浦くんの声が心地よい。

 そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。

 ていうかなんで、相手は私の位置が的確のわかるの? ずるしてない?


「クローゼットに隠れるのは愚策だと教えたでしょう!」


 今度はキサキさんだ。言ってることはまっとうだけど、声には怒りが込められている。

 だってクローゼットに隠れる方が確実だと思ったんだもん。

 ていうかそもそもなんで隠れてるのに居場所がバレるのかわからない。


「浦ちん! キサキちん! 集中!」


 リーダーの芽衣子ちゃんが叫ぶ。

 私はリザルト画面から、自分が死んだあとの試合を観戦することにした。


「しまった、来ないで! 隠密!」

「嘘だろ……!」


 隠密とは、殺人鬼のスキルの一つで、動かずにジッと立っていたら自分の居場所を明かす音が止まるというもの。本来、キャンパーと呼ばれる初心者に多い待ち型のプレイヤーが、知らずに仲間を助けに来たやつを待ち伏せて襲うために使う。

 なかなか上位プレイヤーの間では見ないスキルだ。

 むしろボイスチャットでやり取りしているのであれば、近くに立っていたらバレるからそのことを生存者同士で共有されるため誰も使わない。

 しかしその先入観を逆手に取られた。

 そんなはずはないという、熟練としての先入観で仲間を助けに行き、見事浦くんが捕まってしまう。


「芽衣子なんで気付かない!」

「ごめん! 気づくの遅れた!」


 浦くんが苛立ち任せで叫ぶ。

 女の子にひどいと思うけど、まぁゲームに女も男もないか。

 しかしあっという間に形成は不利になった。主に私のせいだけど。

 今芽衣子ちゃんと浦くんが捕まり、残っているのはキサキさんだけ。しかも二人が捕まっている場所はとても近く、殺人鬼は二人を巡回している。

 それを逆手に、キサキさんは脱出経路を作る。すべての発電機を修理し、外へと出る扉を開いた。

 タイムリミットが来て芽衣子ちゃんが死に、殺人鬼は浦くんを殺すために待機する。キサキさんは見捨てる気だろう。あちらの戦果は十分だ。

 しかし、キサキさんは脱出せずに浦くんの救出に向かう。


「キサキちん、出て!」

「仲間を見捨てて逃げられません!」


 それが戦場ならかっこいいんだけどな。

 ゲームだしな。

 キサキさんは常に本気で言ってるんだろうけど。

 なんと既に一度切られているにもかかわらず、キサキさんは浦くんの救出に向かう。あまりにも無謀だ。


「キサキさん、逃げた方が……」


 見る。しかしキサキさんは、画面を睨みつけて集中している。

 醸し出るオーラがすごい。

 キサキさんの接近に気付いた殺人鬼がキサキさんを追いかける。

 ああ、終わった。

 と思った瞬間、キサキさんの操るキャラクターが画面上をカクカクと右へ左へと動き、相手の攻撃をかわした。その後のことは誰もが唖然と見つめているしかなかった。

 熟練のゲーマーであるはずの相手に対し、キサキさんはまるで未来を読んでいるかのようにことごとく攻撃をかわし、浦くんを助け出す。

 そして二人はまっすぐに出口に向かわずに、相手を錯乱させるように走り回り見事に距離をあけていく。1分後には、二人は出口に到着していて見事に脱出していた。


「かかかか、神プレイ!!」


 芽衣子ちゃん叫び、キサキさんに抱き着いた。

 私もつい、拍手していた。


「お役に立てましたか?」

「最高! 全死確実だと思ってたから、2人も生き残ってるなんて奇跡なんだな!」


 まるで勝利したかのような喜び様だ。


『チートだろ!』


 テレビ電話がつながり、敵チームの小木くんの声が響いてきた。


『何のツール使ってるッ!? お前らチート行為で永久追放にすんぞッ!!』


 とてつもない怒号。

 いつも思うけど、みんなどうして人が変わったように怒るのだろうか。

 ちょっと怖いわ。


「それを判断するのは私たちじゃない。小木君にその権限はない」

『通報してやる!』

「すればいい。だけどこれは本当にただの私の仲間の技術。いわれのない疑いをかけるだけの覚悟はある?」

『ぐっ……』

「見ろよこれ」


 浦くんに言われて、部室に備え付けられているパソコン画面を見る。

 それは私たちの試合を中継している生配信で、コメントには相手チームをあざ笑う内容と、キサキさんの神プレイを称賛する声が入り混じっていた。


「これって、いい感じなの?」

「微妙。神プレイだったけど、この試合自体は負けに近い。限りなく引き分けに近づけられたって感じ」

「そうなんだ」


 空気感的に、ジャイアントキリングの流れかと思っていたのに。

 そうでもないらしい。


「ということは」

「うん。次の殺人鬼側の試合に掛かってる」

 

 そしてその殺人鬼をプレイする我がチームのプレイヤーは。


「やればできるやればできるやればできる赤ちゃんはヤレばできる」


 すべての期待がのしかかった男。

 富来くん。

 彼はぶつぶつと念仏を唱えていた。

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