昼ドラみたいなテンプレ展開
さて、予定通りの13時が近づいてきた。
直前まで軽く練習して、そしてみんなで昼食を食べていた。
いつも通り浦くんはプレイ中以外は消えていたけれど。
キサキさんに後を追ってもらったけれど、コンビニで一人でご飯を食べているくらいで変なことはしていないらしい。
こんなことをしておいて、まだ他の人と親しくすることを避けてでもいるのだろうか。
時間が近づいてきて、みんなが部室に戻ってきた段階で、芽衣子ちゃんからみんなに話があった。
「みんな、ニューヨークに行きたいかぁー!」
誰しも意味が分からずぽかんと口を開けていたのは言うまでもない。
芽衣子ちゃん曰く、昔のテレビ番組の決め台詞みたい。
そんなおふざけを交えつつ、結束を固めた私たちはあとわずか数分で始まる試合に備えて席についていた。
『試合は攻守一回ずつの計2試合。生き残った生存者と脱出タイム。さらにそこに殺人鬼側で倒した生存者の数を加算して算出する』
芽衣子ちゃんがチームを代表して、相手のチームのリーダーとテレビ電話をしている。
『試合は公開されているから不正はなし。もし回線が落ちた場合も、落とした側の責としペナルティを課す』
「問題ない」
『……久しぶりだな、芽衣子』
「久しぶり、小木ちん」
なんか始まったわ。
察するにテレビ電話の相手・小木とやらが、富来くんの言っていた芽衣子ちゃんのかつての想い人ね。
そう思って富来くんを見ると、富来くんは何か物思いにふけるように目を瞑っていた。
というか富来くんやら小木くんやらややこしいわね。
『俺が去ってから、部員が足りないって聞いてたけど大丈夫だったのか?』
「おかげさまで。心強い猛者たちが今日は揃っているのよ」
『ふんっ。ただのゲーム好きが何百人集まったってわけねぇよ。こっちはYoutubeでも名売れのプレイヤーしかいないんだぜ』
「ま、まま、まさか……もしやあれはモギモギフルーツ様では!?」
キサキさんが大仰の驚いた。
モギモギフルーツ? お菓子? 様?
「有名なゲーム実況者です。私は彼の動画を見て勉強しました」
「え、キサキさんゲーム実況見てんの?」
「はい。とても勉強になるんです。大人気配信者で、私の師匠とも言える人です」
「ねぇ、異世界人の威厳は?」
「はい?」
首を傾げる仕草は、可愛い女の子そのものなのに。
やってることがゲームしかないのだから不思議だ。
『それと、冥王竜どのもいらっしゃるのかな?』
小木くんの、あからさまに挑発する言い方に、富来くんがピクリと反応する。
モギモギフルーツの次は、冥王竜。
なんだここは。ゆるキャラグランプリの会場ですか?
「久しぶりだな、小木」
答えたのは富来くん。
大体そうだろうとは思ったけれど。
『相変わらず、そんなところで小さくまとまってるのか』
「うるさい」
『もっとゲームにこだわれば今頃俺たちと同じ……いや、俺たちよりもずっと上にいたはずなのにな』
「……言っただろ。俺はゲームを楽しみたいんだ。勝ちたいわけじゃない」
『カッコつけたところで、今お前がやっていることは勝負じゃないか』
「勝負を避けてるわけじゃない。ただ、勝つためだけに巧さを追求することに嫌気がさしたんだ」
『だってよ、芽衣子。いい加減、俺たちのところに来ないか? ここなら、とことん強さを極められる』
「小木くん。気持ちは嬉しい。でも、私は――」
『俺が勝ったら。俺が勝ったら、こっちに来い。お前には俺の隣がふさわしい』
「……勝手に去っていったのはそっち」
『ふんっ。すぐに現実を見せてやる』
プツン――と、テレビ電話が切られる。
なんかいい感じに修羅場キターーーーーーーー!!
これでもかっていうくらい、テンプレを展開してくれたわ!
なんてゾクゾクするの! 昼ドラみたい!
なんて私が一人興奮していると、すぐにゲームがマッチングされる。
慌てて思考を引き戻す。
ルールでは、チーム5人の内4人が生存者、1人が殺人鬼でプレイする。両側を兼任することはできない。
当然、一番へたくそな私は生存者側となり、皆さんの足を引っ張ることになるわけだが。
「とにかく隠れやがれ。見つかるな。お前は全員のサポートに回れ」
これが数日前、私に課された役割。
とにかく目立たず、余計なことはせず、ひたすら隠密行動あるのみ。傷ついた仲間を助け、殺されそうな仲間の代わりにやられる。これ以上ないくらいに、捨て駒よ。
しかし異存はない。
私にはそれがお似合いだから。
いよいよ試合が始まる。手に汗握る、というほど私は緊張していないけれど、部室の空気感は異常なまでに張りつめている。
所詮私はゲームでは取るに足らないノミのような存在かもしれない。
でもそんなの経験済みなのよ。
あのデアドラゴンの一件で、自分が無力で無能な存在であることは百も承知。
でもね。
それでも、私にだって意地がある。
ノミの根性見せてやるわよ!




