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3度目の死

「しかし最近、暗殺がなりを潜めてるわね」


 昇降口でふと、そんなことを思い出す。

 なんか、異世界の暗殺者に命を狙われていることが、遠い過去のような感じがする。


「最近は……そうですね。怪しい気配はありません」


 とキサキさんがぼつりと言う。


「キサキさんって、なんでも気配が読めるんですよね」

「もちろんですよ。すべての生き物には必ず気配があります。押し殺しても必ず」

「ふぅん。じゃあ今この学校に何人いるかわかるの?」」

「ざっとですが500人程度ですかね」

「わかっちゃうんだ。じゃあ、個別で人を感じ取れたりもするの?」

「ええ。なので志津香さんの視界にいなくても、気配で居場所や心拍数などを把握していますので、いつでも瞬時に駆けつけられるんですよ」

「魚群探知機みたいね」


 その例えが正確なのかどうかはわからないけれど。

 でも彼女の近くでは、余計な事は出来ないなと思う。


「待って。それってどこまでわかるものなの? 距離とか」

「かなり先まで行けますよ。数キロ圏内のことであればおおよそ」

「こわっ」

「でも向こうの世界には私よりもっとすごい人が大勢います。光術(マギア)を併用して、大陸全土を監視している大魔術師もいますし、ほら、以前こちらの世界にきた」

「あっ、思い出した。赤い魔女さん」

「そうです! 彼女は第三の目と呼ばれる特殊なマギアを利用して、世界中の出来事をつぶさに把握していますよ」

「もはや衛星いらずね」

「えいせい?」


 こういうとき、彼女が異世界の人なのだなと思い出させられる。

 でも説明もめんどくさい。


「でもこっちだとマギアを使うためのフォトンがないから、それは無理なのよね」

「そうですね。ただ……」

「ただ?」

「アラガミ様……ソウタさんであれば、あるいわ」

「え、何その不穏な感じ」

「いえ。悪い意味ではありません。ソウタさんは言いませんが、おそらくあの方ならマギアを使わずともかなりの距離を監視できるはずです」

「悪い意味じゃん!」


 鳥肌が立った。

 なんかやつに見張られているのかと思っただけで吐き気がする。

 うわ~知りたくなかった。


「お・し・づ」

「きゃっ!」


 突如、背後から耳元に甘い吐息がかけられ反射的に跳ねのく。


「あ、愛ちゃん!?」


 振り返ると、そこには元気そうにほほ笑む愛ちゃんがいた。

 ずいぶんと久しぶりだ。

 

「そっか。今日から通学だっけ」

「え、なにそれ、忘れてたの?」

「えっと、そのごめん」

「え、え、え……待って。ちょっち待って。ウェイティングちょっと」


 この感じ久しぶりだ。

 久しぶりすぎて、ついていけないかもしれない。

 冷や汗が出る。


「お志津だけは私の戻りを忠犬ハチ公のように待っていたと思ったのに」

「誰が犬よ」

「お志津のために怪我したのに! 全部お志津のためにしたことなのにぃぃぃ!!」

「落ち着いて」

「無理。ほんと無理ぃ! あ、待って、息できない……あれ、酸素はどこ? オキシゲン? オキシゲンはどこなの!?」

「ちょっと待って、まだ退院早くない?」

「あ、捨てられるんだ。これ。あっあっあっ。私もう不要なんだ。死んでやる! 死んでやるぅぅぅ!」

「メンヘラになって帰ってこないで!?」


 大丈夫だった。

 久しぶりだったけど、愛ちゃんのいなし方は身について離れていないらしい。


「大丈夫ですか!? 落ち着いて深呼吸をしてください!」


 だが。

 私の隣に立つ生真面目なキサキさんはそれを冗談だと気付かずに。

 真剣に愛ちゃんを助けようと駆けよる。


「うぅ……息が……」

「過呼吸かもしれません。マギアを使えれば治療もできるのですが……」

「酸素……オキシゲン……」


 愛ちゃん絶対オキシゲンって単語にハマってる。

 言いたいだけだ。


「酸素ですね! 少し我慢してください!」

「え、うむんっ!!」


 唖然。と朝の騒がしい学園の廊下が静まり返った。

 なんとキサキさんが、愛ちゃんにキスをしたのだ。

 いや正確に言うと、マウストゥマウスで酸素を送ろうとした。

 まさかの行動に、さすがの愛ちゃんも驚きに目を見開いている。そしてゆっくり瞳を動かして私を見て、そしてもう一度キサキさんに戻す。

 そしてあろうことか、目をつむりそのキスを堪能し始めた。


「馬鹿なの!?」


 冗談では済まないと、私は慌てて二人を引き離す。


「しかし志津香さん、彼女は息ができないと……」

「冗談ですから。ああ言ってるだけで、本当は健康そのものですから。ほら、愛ちゃんも謝って!」


 と、愛ちゃんを見ると。

 彼女は恍惚(こうこつ)とした表情のまま、脚をがくがくと痙攣させていた。


「あ、愛ちゃん?」

「や、柔らかい……絡みつくような、あ、あぁ……」

「ちょっと、大丈夫? もう冗談とかいいから」

「これが、ほほ、本当の、愛撫(あいぶ)……!」

「ここ学校よわかってる!?」


 愛ちゃんは、その言葉を最後に、鼻血を大量に出して廊下の床に横向きに倒れ込んだ。


「愛ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!??」


 そしてそのまま動かなくなり、ただ恍惚とした表情だけを浮かべていた。



 愛ちゃんはまた救急車で運ばれ、そして戻ってくることはなかった。

 彼女は3度死んだ。



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