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理不尽なゲーマーたち

「なんでそうなるんだよ!!」

「お志津遅い!!」

「そっち行くな敵見えてるだろ!!」

「志津香さん、それくらい避けてください!!」

「ごめんなさいっ!!」


 ゲー研の部室に、怒号が飛び交う。

 その向かう先はすべて私。

 私たちは5人でゲームをしている。

 ただゲームをしているだけなのに。


「何回言わせんだよ!!」

「お志津! お志津ぅぅぅ!!」

「ざけんな! そこで捕まんなよ!!」

「志津香さん! 絶望的です!!」

「ごめんなさぁぁぁい!!」


 この様である。

 私何かした?

 って愚痴ったところで、誰も擁護してくれる人はこの部屋にはいない。

 天使のキサキさんですら、険しい表情で画面を見つめている。

 私の画面には、DEATHと赤い血文字で出て画面がブラックアウトする。


「駄目……酔った」


 ゲームから視線を離し、吐き気を抑え込む。

 視線を部室に戻すと、まだ私以外のみんなはプレイ中で、白熱したバトルをしている。

 よくこんなものを一日中やっていられるなと感心する。

 このゲームは4対1のサバイバルアクションゲームで、4人の生存者(サバイバー)と1人の殺し屋(キラー)が鬼ごっこのようなことをするゲーム。

 まあ鬼ごっこなんて可愛らしい名前で表現していいものか迷うほどではあるけれど。

 だって血がめっちゃ出るし。

 殺し屋とかもはや人外の化け物ばかりだし。

 パッケージに赤く『18歳以上のみ』って書かれてるし。

 ダメじゃん。

 私やったらダメなやつじゃん。

 か弱い乙女16歳なのに。


「なんで! そうなるんだよっ!!」


 富来くんが叫びながら立ち上がり、「このクソゲー!!」とコントローラーを地面にたたきつける。

 人が変わりすぎて怖い。 


「にゃああああ!! クソゲークソゲークソゲー!!」


 今度は芽衣子ちゃんがそう叫ぶ。

 いつもの可愛い芽衣子ちゃんを返して。

 あんな発狂する芽衣子ちゃんを見たくない。


「ってことは、キサキさん対浦くん?」


 ちなみにキサキさんが最後の生存者で、浦くんが殺し屋。

 浦くんは殺し屋がとてもうまく、熟練の芽衣子ちゃんと富来くんですら敵わない。

 もはやまさに、って感じ。

 殺し屋だもんね。本職が。

 しかし一方で、相手はフレームとやらを見分けることができるらしいキサキさんだ。

 彼女も彼女で、すでに常人に領域を超えている。

 らしい。

 私にはわからない。

 結論、私いらないよねってこと。


「このゲームで大会に出るんだっけ?」

「あぁっ!?」


 羅刹の如き芽衣子ちゃんに睨まれた。まだ怒りが収まっていないらしい。

 しかし私を見るや否や、表情が少しずつ落ち着いてくる。


「ごめんお志津」

「うん。落ち着いた方が良いと思う。たかがゲームだし」

「そう。そうなんだけどね……どうしてもソウルがビートしてエクスプロージョンしちゃうの」


 ルー大柴じゃん。

 

「そうだね。今度行われる大会は、このゲームが題材なの」

「18禁よね?」

「だから非公式大会なのさ。私たちは闇のゲームって呼んでる」

「いい感じに患ってるわね」

「でも、闇のゲームの方が本当の実力を測るにふさわしい大会で、名誉もある」

「先生にバレないの?」

「バレない。先生はゲームにはまったく無関心。押し入れの中の旧型据え置き機くらい無力」

「喩えがいまいちよくわからないわ」


 そもそも据え置き機ってなに。

 機械なんだろうけど。


「ぬあっ!」


 キサキさんの叫び声。

 どうやらキサキさんが負けたらしい。


「ず、ずるいです! 今のはラグで……!」

「おいおいおい。世界を救った英雄様が、言い訳なんてみっともないぜ?」

「違います! 本当に画面がカクついたんです!」

「はいはい。負けた言い訳はネットにでも書き込みな。ラグをなくしてくださいクソ公式様ってな」


 すごい。

 異世界人の会話とは思えないほど、現代に毒されている。

 ラグとかカクつくとか公式とか。すでに私を上回って追い越してゴールして2周目に突入してるくらい置いていかれている。


「落ち着くのよキサキちん。このゲームは1対1なら殺し屋が有利なようにできてる。怒るなら私たちよ」

「そうですね……志津香さんを抜いて実質3人でなんとかしなければいけないですから……」

「ディスるなディスるな」


 いいけどさ。

 でもせめて頭数には入れてよ。

 無能だけど。頑張ってるんだから。


「ま、嶺志津香が十全にプレイできたとしても、俺にはかなわないがな。かっかっか!」


 言って浦くんが高笑いする。


「ゲームの中じゃ俺が世界最強だ」

「井の中の蛙、だな」

「あぁ?」


 富来くんの言葉に、浦くんが反応する。

 なぜかいつもは浦くんにオドオドしているのに、今は強気な視線を送っている。


「世界最強? 馬鹿言うなって。この世界には俺たちよりもっとすごいプレイヤーがごまんといるんだ。そいつらからしたら浦なんて、赤子の手をひねるより容易く倒せる」

「なんだと?」


 まぁそれは確かにそうなのかもしれないけど。

 でもなぜ富来くんが偉そうなのかがわからない。

 

「じゃあやってやろうじゃんよ」

「後悔するなよ?」


 浦くんがゲーム機に向き直る。

 富来くんが画面でいくらか設定をし、すぐにゲームが開始される。私はただそれを隅っこから見つめていた。


 ーー15分後。


「っざけんななんだよ今の!! ラグ! ラグだろ!! あぁん!? クソゲーが!!」


 浦くんもまた、阿修羅(アシュラ)と化していた。

 素人目に見ても、浦くんの攻撃が全く当たらず、むしろ相手に挑発されて煽られていたくらいだ。

 同じゲームをしてるはずなのに、どうしてあそこまで動きが違うのか不思議なくらい。


「あぁ?」


 ピロリン、とゲームから音がして右上に「メッセージが届いています」と出る。

 

「あ」


 と芽衣子ちゃんが気まずそうな声を漏らす。

 浦くんがゲーム機を操作してそのメッセージとやらを開く。


『雑魚鬼ワロスwwwwww 迷惑だから回線切って家で大人しくシ○っとけwwwwww』


 と書かれていた。

 ひと目見てわかる挑発文。

 親の顔が見てみたいとはこのことだ。


「なにこれ……」

「通称ファンメ。いわゆる煽りメッセで、ゲームで対戦した相手なんかに送りつけてくる輩が一定数いる」

「え、何その陰湿な……何の意味があるの?」

「ない。ただの嫌がらせ」

「えぇ……」

「殺す」


 ピキィ、と浦くんのこめかみに太い血管が浮かび上がる。


「絶対殺す! 確実に殺す!! 完膚なきまでに殺す!!!」

「ちょっ、浦くん!?」


 怒りに任せて、浦くんが部室を飛び出していった。

 待って! 殺すのは私のはずでしょう?


「これって、メッセージでどこのだれかわかるものなの?」

「普通はわからない」


 じゃあどこへ行ったのだろうか。

 怒りで我を忘れていたのだろう。

 ま、いずれ熱が冷めて戻ってくる。


「なあなあ、今の見たか? おもしれぇ」


 一人でそう笑っている富来くんの陰湿さに若干引いた。


「しかし、壁は高く厚いですね」

「そゆこと。今度の大会はここまでじゃないけど、でも私たちよりうまい人もたくさんいるし、なによりこのゲームはチームワークが大事。全員がキサキちんや浦くんくらい立ち回れれば、優勝できる」

「ということは、勝利への鍵は……」


 まるでそれを合図にしたように、みんなが私を見る。

 

「……ですよねぇ」


 期待が重い。

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