付き合ってんのかな?
「ふっ! ふっ! ふっ!」
「はい! はい! はい!」
決して広いとは言えない部室で、男女の声が交互に響き渡る。
その片方はキサキさんで、その片方は浦くんで。
二人は腕立て伏せ合戦を物凄い勢いで繰り広げている。
「次!」
「はい!」
浦くんの合図で、今度は腹筋に変わり、同じようにとてつもない速度で腹筋勝負を始める。
「なんだこいつら……」
「キサキちんも化け物」
芽衣子ちゃんと富来くんが、唖然とその様子を見つめている。
私はもはや驚くことでもないので、横でひっそりと一人準備運動をしていた。
5回で限界です。
「これほんとに意味あるの?」
「お志津。遊びじゃないのよ」
遊びじゃん。とは決して言えない状況。
とはいえ私がイメージしていた準備運動とは程遠く、軽く息切れをしてきたなと思ったところで準備運動が終わった。ものの10分くらいである。
「ぜぇ……ぜぇ……」
その漏れ出る音を見ると、富来くんがだらだらと汗を流しながら地面に片膝をついていた。
「え、えぇ? 富来くんどうしたの?」
「い、いいんだよ。俺はこれくらい温めとかないと乗らねぇんだ」
「これくらいって、腕立て10回と腹筋10回しかしてないじゃない」
「十分なんだよ。質だよ質。見ろよこの腕。最高級プリンみたいにぷるっぷるだぜ」
「最高級プリンって喩えが語彙の貧弱さを示してるわね」
むしろどうやって今のでそんな汗をかけるのだろう。新陳代謝良過ぎ。
見るからに肌も青白いし、不健康にしか見えないんだけれど。
「富来くんは小中の4年間引きこもっていたから、運動は苦手」
「う、うるせぇ! 芽衣子お前適当なこと言うんじゃねぇよ!」
「隠すことない。だからこうしてゲー研の大事な戦力になってる」
「ほ、褒めんなよ。へへっ」
ちょろ!?
「お二人は、付き合われているのですか?」
「つっ、付き合ってねぇよ!?」
突如飛来した、キサキさんからの質問。
富来くん。すっごい分かりやすい反応をありがとう。
「そうですか……」
それにどこか残念そうにしょんぼりするキサキさん。
何を知りたかったのだろうか。
「じゃあ知り合ってどれくらいなの?」
「元々中学時代からのゲームの中でのフレンドだったのさ。お互い顔もしらなかったんだけど、たまたま同じ歳で、同じ高校に入学して、それでリア友になった」
「すごい確率ねそれ……」
「うん。これは運命」
「う、運命……?」
「そう。ともに戦う戦友として、出会う運命だったの」
「あ、そっち」
芽衣子ちゃんの答えに、富来くんががっかりしたように肩を落とす。
なんとなく二人の関係が見えてきた。
「おい。さっさと練習始めるぞ!」
そして何故かゲームに対し熱い浦くん。
彼の本心や狙いを探りたいところだけれど、なかなかそっちに意識がいかない。
「じゃあ今からアップを始める。とりあえずキサキちんとお志津でやって、富来くんから基本的な操作の仕方を学んで。まずはゲームに慣れることから始めよ」
「あ、うん」
「わかりました!」
「じゃあ浦ちん私とアップしよ」
「おうっ。いいぜ。吠え面かくなよ?」
「うふふ。その言葉そっくりそのまま返すぞな」
芽衣子ちゃんと浦くんが自席につき、ヘッドフォンを付けゲームを始める。
このまま後ろからナイフでひと突きしてしまっていいだろうか。
浦くんの意図が全く読めない。
「おい嶺。始めるぞ」
「うん」
富来くんにぶっきらぼうに呼ばれ、自分の席につく。
言われた通り、まずはゲーム機の電源を入れ、コントローラーを持たされる。モニターに映像が映し出され、富来くんに言われた通り操作する。
んだけど、もはや右も左も上も下も○も×も間違える。
まず指定されたところへ動かすこと自体困難を極める。
なんて複雑な機械なの……!
「だから! そこを○押して、そんで……だからそれ×だって! ほら戻っちまったじゃねぇか!!」
「え、ええっ? ごめん。こっち?」
「それは△! マジかよこんなやつ使えるようになるのかよ!?」
そこまで言う!?
私だってやりたくてやってないのに!?
「落ち着いてください富来さん」
そこに、冷静な声でキサキさんが割って入ってくる。
「人になにかを教える際、感情的になってはいけません。なにができないか、どうしてできないか、それを一緒になって悩み、待つのもまた師匠の仕事です」
「お、おう……悪い」
「いいえ。富来さんはまだまだお若いですから、少しずつ学んでいけばいいのですよ」
「そだな。悪かったな嶺」
「いいわよ。そんなことより、そのぶっきらぼうな態度なおした方がいいわよ。何か不満なことでもあるの?」
「不満……なんかないけど」
「絶対あるやつじゃん。なに? って聞かれ待ちしてるやつじゃん」
「う、うっせぇ!」
まるで子供のようなリアクションを見せる富来くんに、少し微笑ましく感じる。
「何? この先長いんだし、煩わしい悩みはここで終わらせときましょ」
「……」
私が目を見て問うと、富来くんは勢いを殺し視線をキョロキョロと動かし逃す。
「何よ。言いなさいよ。絶対ここだけの秘密にするから」
「……ま、まじか?」
「ええ」
すると、彼はチラチラと芽衣子ちゃんを見た。
「……へ、変なやつとか思うなよ?」
「思わないって」
いいから早く言って。
「あ、あのさ……芽衣子と浦って、つつつつ、付き合ってんのかな?」
「うわっ、めんどくさっ」
つい口から漏れ出てしまったのでした。
ごめんね、富来くん。




