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ダウンタウンに住む黒人のような

「こっちがゲーム機本体で、これがコントローラー。そしてこれがモニターに、ヘッドセット。ああ、でもお志津は顔ちっちゃちっちゃだから、しばらくためしてみて自分に合うサイズのものを買ってね。モニターも、色の出方とか人によっては気になるしそれもよく考えてプレイしてみて。コントローラーも最初はデフォルトのままのボタン配置だけど、押しにくいとかあったらボタン配置を変更するのがオヌヌメ。あっあっ、そうそう。結構大事になるのがこの椅子なんだけど、ゲームをするにもまず体から。自分がベストを出せる態勢でプレイすることが前提条件だから、椅子や机の高さなんかも違和感無くなるように突き詰めていくべし! あとは〜そうね。人によっては手袋とかする人もいるし、最近だとコントローラーの後ろに背面ボタンなんか取り付ける方法もあるし、あ、そこの冷蔵庫にはエナドリも常備してあるから。ん〜あとはあとは……」

「もういいっ!」


 ゲー研の部室である第二視聴覚室。

 そこでメルビンの怒涛の羊の勢いで話す芽衣子ちゃんを制止する。

 このまま放置すれば完全下校時刻まで延々と説明を受けかねない。


「ストップ。ストップ温暖化よ芽衣子ちゃん」

「ごめん。つい興奮した。環境省に停止の依頼をする」


 こうやってくだらないボケにうまく返してくれるところは愛ちゃんに通ずるところがある。

 愛ちゃんより愛敬があって可愛らしいので芽衣子ちゃんの勝ちだ。


「そんな一気に説明されても覚えられないわ。そもそもコントローラーの使い方も知らないのに」

「ゲームしたことあったんじゃ?」

「幼稚園とかそれくらいの時よ。それも兄の横でボタンぽちぽち押してただけ。しかもこのゲーム機は始めて見たわ」


 厳密に言うと、以前愛ちゃんの家に行った時に部屋に置いてあった気がするけれど。

 実際間近で見るのも触るのも始めてだ。


「こんなにボタンがいっぱい……私使いこなせる気がしない」

「そんなことない。見て」

「よっほっ、甘いです!」

「嘘、だろ……!?」


 私の後方で、ゲームに熱中するキサキさんと富来くんも見る。

 二人は昨日と同じ対戦格闘ゲームをしているらしく、顔色を見るに富来くんの方が分が悪そうだ。


「こうなったら……!」


 富来くんが苦肉の策にと、素早く指を動かすと、昨日見たのと同じキャラクターが途中で攻撃を中止し、まったく別の動きをとり始める。スーパーキャンセルとかなんとかいうテクニックだ。

 しかし、その富来くんの攻撃を、キサキさんはさらりと避けてKOする。


「なっ! どうして!」

「ふふふ。甘いですね。その技は昨日一度見て学びました」

「一度見ただけで?」

「はい。昨夜家で昨日の対戦を振り返り頭の中で何百回とシミュレーションをしていたんですよ。そしたら、その技を行った際の富来さんの指の動きに気がつきました。何か入力した動きを途中で止める方法なのだろうと」

「……うっ」

「私の流派でもあるんです。『誘い』と言って、あえて相手に動きを読ませて向こうの次の動きを誘引し、そこを突くという」


 にこりと人差し指を立てて得意げに語るキサキさん。

 彼女の脳内には、起こった出来事がそのままマルッと動画として保存でもされているのだろうか。


「私にああなれと?」

「あれは私でも無理」


 初めて芽衣子ちゃんと意見があってよかった。

 ーーと、そこに。


「うーっす」


 扉を開けて入ってきたのは。


「あ、おはようだよ浦くん」


 浦シノブ。

 私を暗殺すべく異世界から送り込まれてきた暗殺者。

 浦シノブはキサキさんを見つけるや否や目を鋭くし、そしてつかつかと近寄っていく。

 まさか、こんなところで殺し合いを始めるつもりだろうか。

 それはそれで、ゲー研を辞められるのでいいんだけど。


「おい」

「なんですか。あまり、こういったところで争うのは好ましくありませんが」


 一触即発。

 その空気が部室を覆う。


「おいおいおい! まじかよ!」

「なにがです?」

「まずは準備運動だろうがよぉ! なぁ部長さん!?」


 え〜〜〜。

 なにそれ。

 二つの意味でなにそれ。


「うん。言ったでしょ。ゲームの全ては健康的な体から始まるのです。さすが浦くん。さすうら」

「うぃっす。自分マジなんで、半端なやつ見つけると許せねぇんだよな」


 こいつ何言ってんの?

 え、暗殺者だよねこの人?

 なんでマジなってんの?

 私わかんない。理解が追いつかない。


「いいね。その調子だぜぃ」

「だろ? 目指せ全国、目指せ世界。俺たちの未来は画面の中にある」


 なんてリズム良い言葉とともに、手をぶつけたり重ね合わせたりする浦くんと芽衣子ちゃん。

 最後は両手を上でパシっと鳴らし合い、その手の平をひらひらと揺らしながら下へと下ろしていく。

 まるでダウンタウンに住む黒人同士の挨拶のように。

 何をやっているのか私もキサキさんも脳が理解に追いつかず唖然とその様子を見つめていることしかできない。

 一瞬の、沈黙。


「はい。じゃあ体操服に着替えて準備運動はじめよっか」

「今のなんだったのっ!!??」

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