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ゆけ、兄

 ぐすんぐすん。

 私は一人、ベッドの上でいじけていた。

 

 私の悲鳴を聞きつけた兄が調べてくれたが、アパートの貯水タンクに動物の死骸が大量に放り込まれていたらしく、その血が配水管を通って流れてきたようだった。


「……おかしいな」


 神妙な面持ちで兄が言った。

 どこぞの探偵か。


「タイミングが良すぎる。貯水槽は同じなんだから、俺が調理しているときには何もなかったんだ。それが志津香か風呂に入った瞬間に血が流れ出たってことは、犯人はタイミングを見計らっていたに違いない」

「かっこよく推理しているとこ申し訳ないけど、その推理の穴を突いておくわね。貯水タンクから水が流れるまで配水管を通ってくるんだから、その分ラグがあるわよ。逆算して狙ってたらすごいけど、たまたまよ」

「いや、ウラならそれくらいは……」


 なんてぶつぶつ言う兄に任せ、タンクを綺麗にしてもらった。お母さんが戻ってくるまでにもとに戻せて安堵する。

 おかげで普通のお湯が出るようになり、私はそれで体を洗い流した。

 だけど。


「生臭い……」


 全身にこびりついた血の匂いは、そう簡単に取れそうにない。

 コンコン、と扉をたたく音がした。


「志津香、大丈夫か?」


 兄だ。その横で「キュウ~」と小さな鳴き声もするから、シンディもそこにいるのだろう。


「だいじょぶくない」

「ほらまあ、俺もよく血は浴びてたから」

「だからなに!? 何の慰めにもなってなくない!?」

「明日の朝もお風呂に入れば、きちんと匂いは取れるって」

「そうじゃない。それもあるけど、私がいじけてるのはそれだけじゃない」

「じゃあなんなんだよ?」


 そういって兄が無許可に扉を開いて入ってきた。

 シンディが嬉しそうに私のベッドに飛び込んできてわたしの膝の上に頭を置く。

 その毛皮ともウロコとも呼べない奇妙な触り心地の頭を撫でる。


「平和な日常を乱さないで」


 兄をジト目で睨むと、兄は気まずそうに視線を逸らして逃げる。


「やるなら一人でやって。私たち一般人を巻き込まないで。お母さんが知ったら卒倒するわよ」

「って言われてもなあ……」

「シャワーから血が流れるとか、どこのクラシックホラームービーよ! 数多ある人生の中でも、特異中の特異なケースよ? 私ボンキュッボンな金髪美女じゃないの! 需要はないの!」

「なくはないと思うけど」

「うるさい! 想像するな!」


 枕を投げつける。兄はうっとうしそうに片手でそれをキャッチした。

 こういうことでもいちいちカッコつけるから腹立つ。


「あなたが何をしていても、とやかくは言わないわ。だけど、私とお母さんには普通で当たり前な生活を送らせて。わかった?」

「もちろんわかってる」

「だったら今すぐこの面倒ごとにケリをつけてきて。それまで家を空けることは許すわ」

「むゥ……」

「わ か っ た ?」

「……はい」

「GO!」


 有無も言わせず頷かせ、兄を部屋から追い出す。

 面倒ごとの元凶を。


「はぁ……どこに行ったか私の日常」


 意味のないボヤきをしつつ、私はシンディと眠りについた。


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