波乱?の幕開け
第二視聴覚室というものを初めて意識した。
確かに扉上の表札を見ると、そう書いてある。
「覚悟はできてますか?」
「嫌なこと言わないでよ……」
キサキさんが怖い顔つきで言うものだから、いちいち不安を煽られる。
「安心してください! 扉を開くと同時に爆発が起こっても、志津香さんを守るには十分時間がありますから!」
「だから嫌なこと言わないでって……」
血で血を洗うような世界で生きていた人間だから仕方がないのだろうか。
少し緊張しつつ、扉に手をかける。
でも確かに、爆発とやらが起こる可能性がゼロではない。前例がある。
「失礼しま~す……」
おそるおそる扉を開く。
数センチ開けて爆発が起こらないことを確認し、一気に扉を開ききる。
――と。
中が暗く、何も見えない。
すぐに、目の前にカーテンが掛かっていることに気が付き、それをどけて中に入る。
するとその暗闇の中に、ぽつぽつといくつもの光が見えた。
長方形を横にしたその光の塊は、テレビのそれだろう。
「来た、来た来た来た!」
ぱっと、教室が激しい光に覆われる。
あまりの眩さに目を覆った。
「え、なになに?」
瞬時に、キサキさんが私の体を引いて前に出たのがわかる。
でも。
「お志津、ようこそゲーム研究部へ!」
「へ?」
何も起こらず、聞こえてきた聞き覚えのある声に目を開く。
その狭い教室にいたのは。
「……芽衣子ちゃん」
と、男子生徒が一人。
彼はヘッドフォンをしたままこちらに首だけを向けている。
「どういうこと?」
「だから、ここが私の所属するゲーム研究部なんだぞ」
芽衣子ちゃんは、いつにないキラキラした表情で首にぶら下げたヘッドホンを揺らす。
「ゲーム研究部……なんてあったのね」
「うぅ……3年生が卒業して部員が2人しかいないくて……」
「そうなんだ」
芽衣子ちゃんと話しながら、視線は部室内を見渡す。
といっても、ほんとにテレビが二台とその前にゲーム機が一台ずつ置いてあるだけで。
そしてそれが背中合わせになるように壁際に向かって配置してある。
「テレビと、ゲームだけしかないんだ?」
「テレビじゃない。モニターだ」
と、目つきの悪い顔でモニターを睨みつける男子生徒が返してくる。
「もにたー……」
なにが違うのだろうか。
「お志津、あれがもう一人の部員の富来くん」
「あー、言ってた人。花粉症の」
「ふんっ。悪いか」
「……悪くは、ないですはい」
すっごく敵意が半端ない。
しかも全く私の目を見て話してくれないし。
これは以前、レンタル彼女で働いていた時の常連さんを彷彿とさせる。
とりあえず目を見て話してほしい。
「なぁ芽衣子。こんなやつらで本当に大丈夫なのか?」
「任せて」
「待って。何の話かしら?」
いぶかし気に芽衣子ちゃんを見つめると、彼女は少し戸惑ったように視線を揺らした後、
「お志津に折り入って頼みたいことがアルケミスト」
「折り入って頼む人の話し方じゃないわよね」
芽衣子ちゃんは両手をパンと叩いてから、両の掌を広げつつ私に向ける。
「ゲーム研究部に入ってほしいのだぞ! どうか! この通り!」
「どの通り!?」
また波乱の幕開けだなーなんて思いました。まる。




