グッバイ愛ちゃんフォーエバーその2
昇降口の天井から、激しく水が降り注ぐ。
スプリンクラーの水しぶきにかき消されるように、立ち込めていた煙が霧散し消えていく。
はじめに目に入ってきたのは、爆発の中心となったロッカーだった。確かにロッカーはひしゃげて倒れてはいるけれど、しかしまだその形状を保っているあたり、そこまで強い爆発だったわけではなさそうだ。
それを証するかのように、あたりにはすでに火は残っていないようだった。
一瞬の破裂。
それが一番的確な表現。
だから傍にいた私や、周囲の生徒に大きな被害はなさそうだった。
だけれど。
「愛ちゃん……?」
その中心にいた愛ちゃんは。
揺れる瞳を必死に抑え、愛ちゃんを探す。すると、太い支柱の向こうから、愛ちゃんの細長い脚が二本見えた。
「愛ちゃん! 愛ちゃん!」
慌てて駆けよる。
すると、そこにはぐったりと横たわる愛ちゃんと、そこに寄り添うようにキサキさんがしゃがんでいた。
「キサキさん……?」
「大丈夫です。爆発の直前に引き剥がしたので、命に別状はありません。ただ激しい衝撃でしたから、脳震盪を起こしているだけです」
「……全然大丈夫じゃないです」
「大丈夫ですよ。ほら、息をしてます」
「違います! だって、だってキサキさん……背中……」
私の視線は、キサキさんの背中一点に注いでいた。
彼女の綺麗な背中は、貸していた制服が黒く破け、さらけ出されていた肌は赤く焼け焦げていた。
見ているだけで痛々しい。
「あはは。少し、間に合わなかったようですね」
「笑ってる場合じゃ……」
「私より志津香さん。この方を頼みます。人目が増えてきたので、私はこれで」
廊下の先から先生方が駆けてくる音が聞こえた。
確かにこの場にキサキさんがいたらいろいろ面倒だ。
キサキさんは音もなくその場から去り、気がつけば人混みの向こうへと消えて見えなくなっていた。
到着した先生に事情を説明し、救急車を呼んでもらう。
愛ちゃんは気絶をしているようだけれど、薄く呼吸をし顔色は良くて問題はなさそうだ。
私は救急車で運ばれていく愛ちゃんを見送りつつ、頭の隅でもキサキさんのことが気がかりだった。
「……許さない」
私は自分をよくバカだと思う。
なぜか奮い立ち、私は教室を目指した。
そして教室の中にいる人物を探す。
「いた」
教室の中、私の席の後ろに座る人物を見つける。
そう。
浦シノブくんを。
「浦くん」
ダン、と彼の机を強く叩き鳴らす。
「へぇ。まさか声かけられるとは思ってもみなかったぞ」
軽薄ににやける彼の顔を、強く睨み付ける。
逃げない。
ここは逃げちゃいけない。
「もしかして、何かあったーー」
パシンッ。
彼の頬を、思い切りはたく。
浦くんは驚き狐に摘まれたような顔をしていた。
「やるなら堂々と来なさいよ。男でしょう?」
「……あ?」
「こそこそ暗殺なんて企まないで、直接私を殺しに来なさい」
自分でも声が震えているのがわかる。
無理している。
私の理性が、声を大にすることを抑えている。
でも、恐怖以上に私はこの人が憎い。
許せない。
「いいねぇ。この状況で、強気な女は嫌いじゃねぇ」
一瞬キスでもしてくるつもりかと勘違いしてしまうほどに、浦くんは私に顔を近づけてにやける。
見た目から想像していた匂いと違って、ナチュラルな鼻孔に通り良い香りがした。
「せいぜい夜道に気を付けろ」
浦くんはそう言って、席を立ち上がり教室を出て行こうとした。
「う、浦くん? 今からホームルームで……」
「諸事情で早退だぞーっと」
扉の向こうから、先生とのやりとりが聞こえ、その数秒後に先生が教室に姿を現した。
相変わらず、先生は浦くんには何も言えないらしい。
うん。情けない。
今朝、とてつもないことが起こったにも関わらず、ホームルームが始まる。
「やるわ。やってやるわよ……暗殺者がなんぼものものよ!」
私は小さな声で勇んでみた。




