別に知らなくてもいい話
第二部になりますが、コメディなのでこれ単体でお楽しみいただけます。
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私の兄は異世界を救って戻ってきた。
そう聞いたら、笑う人:喜ぶ人:驚く人はどれくらいいるだろか。
この解答を示すと、内訳は9:1:0である。
ちなみにこの喜ぶ人の1はお母さんであり、一応まあ家族としての私である。(あと死んだ父も喜んでると思いたい)
とにもかくにも、7年前に失踪した兄は、その間異世界に行っていて、そこで白いドラゴンや色とりどりのプリンセスたちと出逢い、旅をし、最終的には世界を救ってきた。
――らしい。
私は見ていないし信じてもいなかった。
兄が戻ってきたときはうざかったし、正直迷惑だった。
今更何なんだと、叫びたかった。
ちょっと漏れ出てたけど。
でも私をとりまく諸事情が混乱に混乱を極めた結果、私は兄に救われた。
命を、そして人生を。
兄は常人を遥かに超える体術と腕力で周囲を圧倒し、ねじ伏せた。それでも十分に異世界じみていたんだけれど、その後私の前に絶望を見せつけるように黒いドラゴンが現れた。
何を言っているんだと思ってもらって構わない。
とにかく、ドラゴンが現れて、私のいる世界を壊そうとしたのだ。
お願いだから、とりあえず最後まで聞いて。
聞いてもらってから判断してもらって構わないから。
続きを話すと。
それまで妄想だと思っていたドラゴンや異世界の人たちが、私の目の前に現れた。彼女たちはフォトンという異世界特有の粒子だか原子だかを操り、マギアという魔法を使う。
こっちで言う電子と電子機器みたいな?
そんなスーパーパワーで悪なるドラゴンのデアドラゴンってやつを倒したわけです。
そいつは異世界を滅ぼそうとしてたらしいんだけど、負けてこっちに逃げてきたらしい。こっちに戻ってきた兄に引っ付いて。
馬鹿な兄は異世界を救っても家族に迷惑をかけ続けるやつだってことはさておき、私の生活どころか世界そのものの脅威は去った。
異世界を繋ぐ道はふさがって、名残惜しくも兄は向こうのプリンセスたちとは別れた。
兄はこの世界でもう一度生きていくと誓った。
私やお母さんとの家族の信頼と時間を取り戻すのだと。
兄が異世界を救って戻ってきたらしい。
私に言えることはそれだけで、後は聞かされた話でしかないのだけれど、でも私はそれを目の当たりにしたし、理解させられた。
これは確かな事実だ。
え、ここまで聞いても馬鹿馬鹿しいって?
まあそうなるわよね。
うん、そうだと思う。
でももしそれが真実かどうかを示せるとしたら、それは今から起こる「何か」かもしれない。
「何か」――それが何かを私は論じることも想像することもできないけれど。
「それは、暗殺予告だ」
家にいつの間にか残されていた太く無骨な鉄の針。
平和に戻ったはずの日常で、兄はその針を見て不穏そうな言葉を吐いた。
過ぎ去ったはずの脅威が、異世界が、また私たちの喉元に迫っているのだと――。