9話
夕日を背にした工場へ向かう。
バレーコート三つ分くらいの広さだ。
「大きいとも小さいとも言いづらい所ね」
「遠目から見てるけど確かにそんな感じだね」
「あんな工場、前からあったか?」
「都合上建築サレタグェ」
メタ吐露ンが何かを言ってる途中で彩にチョップした。
「痛ェゾ、ナンデチョップシヨッタ?」
「あ、ごめん。なんかつい」
「オマエラ、ワイノ扱イ酷クナイ?」
なぜかメタ吐露ンにはきつく当たってしまう。なんでだ?
「とにかく、あのおじさんがいるなら、早く見にいってみようぜ」
「うん」
工場へ向かい、入口のドアからひょこっと見る。
「色々あるわね」
「色々な機械があるね」
「色々使イスギダロオマエラ」
正直、置いてあるものの中でパソコン以外よくわからない。
「奥に誰かいるぞ」
「あの人かな?」
「オ、イタイタ。アイツダゾ。オーイ」
奥にいた人を見つけ、メタ吐露ンが呼ぶ。
そして、奥から誰かがやってくる。
「……誰だ」
「オレダヨオレ」
「いや、おまえは知ってる。造ったからな。 だが、そいつらは誰だ?」
……?
「なにこのおじさんもう忘れたの?」
「すごい失礼な子だな」
彩の辛辣な言葉に怒るおじさん。
「忘れたもなにも、君たちとは初対面なんだが?」
「…………?」
「いやそんな首傾げられても。おいメタ吐露ン、なんだこいつら」
「…………?」
「いやお前もわからないのかよ」
おじさんがメタ吐露ンに怒りを示す。
「トリアエズ話シ合オウゼ」
・・・・・・・・・・
ひととおり自己紹介を終え、椅子に座り、話し始める。
「おじさんはおじさんじゃないの?」
「なぞなぞみたいだな……」
「紛らわしいからあっちはおじさん、こっちはオッサンと呼びましょ」
「ドノ道紛ラワシイゾ」
「紛らわしい言い方していたのは誰だったかしら?」
「サーセン」
このオッサンはどうやらあのおじさんではないらしい。
「君たちがあったそのおじさんとやらは恐らく、拙者の兄だろう」
「一人称が拙者の人初めて見た」
「たしかにな」
「めずらしいわね」
「ソコジャネェダロ」
拙者の方がインパクトが大きかったので仕方がない。
「え、二人は兄弟なの?」
「ああ。兄はいつも拙者の物をよく盗る人だった」
「最悪じゃん」
「兄はなんか機械を持っていなかったか? こう、おもちゃみたいな……」
「持ってましたよ」
あれ、おじさんが作ったものじゃないのか……。そういえば、木の所で見つけた時、『壊れてんじゃん……』って言ってたし。
多分あれは、このオッサンから盗ったものだったのだろう。
「じゃあのビームみたいなのもこのオッサンが作ったってことか」
「え、兄、あの銃持ち出したの?」
「え、はい。しかも俺、撃たれましたし」
「ということは、君……男だった?」
「はい」
おじさんはうーんと考える。
「アソコはある?」
「ありま……」
「よし歯ァ食いしばれ」
「ぶっ殺してあげるわ」
「待って! 確認! 重要なの! え? なんでそんな怒ってんの!?」
突然怒りを露わにした彩と奏太。
「そりゃ、なぁ? いきなり下ネタ言い出したし」
「そうよ。あと重要とか言ってたけどなんなのよ?」
オッサンは「おっかない……」と言ったあと、答えてくれる。
「アソコがまだあるならいいんだけど、時間の問題だな」
「どういう意味?」
「まずあの銃の説明をしよう」
たしかに、詳しくは知らないな。
「男の娘になる、っていうやつじゃないの?」
おじさんも撃つ時そう叫んでいたし。
「拙者も最初はそう思っていた。だが……」
「だが?」
「あれは……徐々に女の子になる銃なんだ」
「女の子になる銃?」
「そうだ」
「具体的には?」
わからなくもないが、現に中途半端な状態になっている。
「最初はアソコはあるし、言動も今までと同じだ。だが、時が経つにつれてアソコは小さくなり、全体的に女っぽくなっていく。最終的には女に……」
「ま、まっさかー……」
「確かにな」
「え」
「そうね。理央、座ってる時ちゃんと足閉じてるわね」
足元を見る。ほんとだ……閉じてる……。
男の時はありえなかったことだ。
「も、戻す方法は!?」
「そ、それがないんだ……」
「ないの!?」
俺はおじさんに掴みかかる。
「が、頑張って戻す機械を造る。それまで待っててくれないか?」
「い、いいけど、どれくらいで造れるの? どれくらいで、完璧に女の子になっちゃうの?」
「二週間ほどで造れる。女の子になるのは一ヶ月後だ」
ホッとする。なら余裕――
「ただ……」
「ただ?」
まだあるのか……。
「戻る機械を造るまで、君は今の状態を維持してほしい」
「……どういうこと?」
「これ以上、女の子化を進めないようにしてほしい」
「えぇ……」
「具体的にはどうすればいいのよ?」
今の状態を維持する方法を知りたい。
「拙者が機械を造る間、ビームを撃たれる前のように暮らしてほしい」