君が生まれた日から
君が生まれた日から、僕は君に贈り物をしたんだ。
君の命が尽きるその日までずっと大事にしてもらえるような、そんな特別な贈り物。
君は知らないかもしれないけれど、君が生まれる前から様々な人々が贈り物を話し合っていたんだ。
それは、大切な贈り物。
「私からは、優しい心を贈ります」
「僕からは、器用な手先を贈るつもりだよ」
「このぱっちりとした目を贈ったらどうかしら?」
「ぷっくりとした唇もいいね」
そのうちに、季節の妖精もやって来て何やら贈り物の相談をし始めた。
「春の花の香りを贈ろうかしら?」
「私は夏の日差しを贈りますよ!」
「木枯しを贈ろうかと思ったけど、やっぱり晴れた青空を贈ろうかな」
「それなら私は、綺麗な雪を贈るつもりよ」
贈り物は目に見えないものだけじゃない。
君が生まれた日から、君が生きるために必要な物は全て揃えられていた。
ベビーベッドにふかふかの布団、栄養豊富なミルクに、安全な浴槽、清潔な着替え。
暖かな風の吹く春、君はその小さな手に『希望』という贈り物を持って生まれた。
この世に生まれた君には、多くの祝福と、その両手に抱えきれないほどの贈り物が贈られた。
春の暖かな陽だまりが、君の小さな目をキラキラと光り輝かせた。その柔らかな頬を、風に乗った花の香りが撫でていた。
君は幸せを掴む小さな手、困難を越えていける足。喜びを紡ぐ暖かな声を持っていた。
「私からは、幸せな時間を贈ったよ」
運命はそう言った。
「私達からは、容姿や性格を贈ったからね」
ご先祖様はそう言った。
「私達からは、これからずっと愛情を贈るよ」
両親はそう言った。
それからは毎年、君は生まれた日に贈り物をもらうようになった。
それは、年齢という生きた証。
やがて、その生きた証が積み重なると、君にはもっともっと贈り物が増えていった。
人を思いやる優しい気持ちや、人を慈しむ気持ち。
成し遂げようとする責任感や人を守ろうとする正義感。
人を励ます言葉の出る口、未来を見通す事のできる頭や、人の背中を支えられる大きな手。
そのうちに、君は新たな出会いや別れを繰り返し、たくさんの人から経験という贈り物をもらった。
たくさんの贈り物を持つ君は、今度は君から贈る事にした。
「好きです」
君は愛の言葉を贈った。君の愛する人に。
君の愛する人は、君に愛の言葉を贈り返した。
だから、君は君の愛する人に指輪を贈った。
さらに生きた証が増え、気がつくと両親はいつの間にか年老いていた。
だから、君は感謝の言葉を贈った。
「今まで育ててくれてありがとう」
すると、両親はこの世を去る時に、君にこんな言葉を贈ったんだ。
「君は神様からの贈り物だった。たくさんの幸せをありがとう」
たくさんの愛情という贈り物をもらった君は、君自身が贈り物だった。
君は大切な大切な贈り物なんだ。
君がいれば、君の愛する人はその笑顔に喜び、彼女もまた笑顔になった。
そんな愛する人は重い病気という困難に苛まれた。
君の愛する人は弱々しく、最後に君に感謝の言葉を君に贈った。
「今までずっとありがとう。たくさんの贈り物をもらったのに、それを返す事ができずにごめんなさい」
君の愛する人は、大切な君に『愛してる』
そう、愛の言葉を贈って天に昇った。
悲しみに暮れる君は、愛する人の昇った空を見上げ、深く深く深呼吸をした。
そして、僕は君に贈り物を贈った。
それは『明日』という贈り物。
僕は君に『明日』を贈ろう。
君が生まれた日から、僕はその命が尽きるまでずっと贈り続ける。
時にはいらないと拒絶する事もあるかもしれないけれど、それでもきっと君は必ず受け取る。
だって、君には今まで贈られたたくさんの贈り物があるから。
失うものもたくさんあった。だけど君は『思い出』という大切な贈り物を、大事にそっと抱えて生きている。その背中には『後悔』という喜べない贈り物も背負いながら。
それでも君は少しの思い出を胸に『今日』という贈り物に喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、毎日『明日』を受け取り続けた。
そんな君に、僕はずっと先の『未来』を贈るよ。
それは、暗闇の中の一筋の光かもしれない。砂漠のわずかな水滴かもしれない。森の中のひとひらの葉かもしれない。天の川の星の一つかもしれない。
それは、ありふれた特別な贈り物。
君に輝く『未来』を。
君に小さな『希望』を。
僕は大切な君に、大切な贈り物を贈りたかったんだ。
だから、どうか僕の贈り物を、君の命が尽きるその時までずっと大事にして欲しい。
君が生まれた日からずっと、君は僕の大切な僕。
僕は雲一つない青空に「ありがとう」そう呟いて深く深く深呼吸をした。