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フルカワ先生の,よくわかる(?)歴史講座  作者: Phoenix
第二次世界大戦
2/2

太平洋戦線

前回は第二次世界大戦のヨーロッパ戦線について授業しました.今回はもう片方の太平洋戦線です.日本がどんな道をたどったのか,見ていきましょう

登場人物:

フルカワ先生:歴史の教師.以下「先生」

ミユキ:女子生徒.

ヒロシ:男子生徒.




先生:「それでは,今日は前回の続き.第二次世界大戦の太平洋戦線を扱います.前回のヨーロッパ戦線で起こったことをおさらいしながら,並行して太平洋戦線の講義を行います.」


ミユキ:「あー,こないだの授業のやつ覚えてるかなー.ちょっと自信ないかも.でもがんばろ.」


ヒロシ:「僕も何とか思い出しながら頑張ります.」


先生:「二人ともその意気やよし.じゃ,いきなり問題出します.1939年9月,ドイツが『ホニャララ』という国を侵略したことから,第二次世界大戦が始まりました.さて,その『ホニャララ』はどこでしょう,ミユキさん?」


ミユキ:「えー,そこで私を指名すんのー?そこはヒロシ君じゃ・・・.」


先生:「いやいや,ヒロシ君だとあっさり答えられそうだから,君が答えてよ.何とか思い出してみ?」


ミユキ:「えー,いじわるだなー.・・・だめだ,全然わかんない.」


先生:「ヒントを出そう.その国はドイツ以外にもう一つの国からも侵攻を受けていました.君その国のこと『かわいそう』とか言ってたよね?覚えてない?」


ミユキ:「かわいそう・・・.あー!わかった!ポーランドだ!!」


先生:「正解.よくできました.」


ミユキ:「やったー!」


ヒロシ:「そういえば君ポーランドにやたらと感情移入してなかった?」


ミユキ:「だってドイツと・・・なんだっけ,ソ連か.ソ連からも攻められてたなんてかわいそすぎるもん.」


先生:「でも感情移入すると覚えやすくなるんじゃない?」


ミユキ:「そういえばそっか.テストで役立つかも.」


先生:「ぜひ役立ててください.さて,ドイツがポーランドに侵攻した1939年,日本ではある国と戦争していました.さてその国はどこでしょう,ヒロシ君?」


ヒロシ:「えーと,地理的に中国ですかね?」


先生:「正解.ではその戦争を何という?」


ヒロシ:「にっし・・・じゃなくて日中戦争.」


先生:「正解.きみ日清戦争と言おうとしてたでしょ?」


ヒロシ:「あ・・・すいません.ごっちゃになってました.」


ミユキ:「なーんだ.ヒロシ君でもそういうとこあるんだ.かわいい.」


ヒロシ:「べ,別にいいじゃんか.結局合ってたんだし.」


ミユキ:「そうやってムキになるとこがまたかわいい.」


ヒロシ:「なっ・・・!?」


先生:「まあまあまあ,そんで,日本は日中戦争でたくさんお金を使っていた.でもって,アメリカ(America)はイギリス(Britain),中国(China),オランダ(Dutch)とともに,日本に対して貿易を制限し,お金や物が入らないようにしていた.これを4か国の頭文字をとって,『ABCD包囲網』と呼ぶ.」


ミユキ:「面白いなまえだね」


先生:「そんな時に,日本はドイツと手を組んでアメリカをけん制することで,日中戦争を有利に進めようとしたんだ.そんなわけで日本はドイツと,その隣のイタリアとともに,1940年9月27日に同盟を結んだ.これを『日独伊三国同盟』という.実はもともとこの3か国は『防共協定』というものを結んでいたんだけど,今回はその防共協定を強化した形になった,といえる.

 そのころ日本の政府内部では,『アメリカと何とかして話し合って和解すべきだ』という意見と,『アメリカとは話し合いの余地がないから戦うべきだ』という意見の対立が起こっていた.結果的には後者の『アメリカと戦うべき』という意見が強くなり,日本はとうとうアメリカとの戦争に踏み切った.1941年12月,日本が第二次世界大戦に参戦した瞬間だ.

 日本は海に囲まれた島国だから,必然的に戦艦や飛行機を使って戦うことになった.日本はまず,南西にあるタイ国境に近いマレー半島の北,コタバルという都市を占領した.これが第二次世界大戦の太平洋戦線における日本の最初の攻撃だ.それと同時に,日本海軍の戦闘機と潜水艦は,遠い東にあるハワイの真珠湾(パールハーバー)にいるアメリカ海軍太平洋艦隊を攻撃した.これがいわゆる真珠湾攻撃だ.日本はアメリカの太平洋艦隊をほぼ壊滅させた.

 次に,日本はマレー半島沖で,当時世界最強の海軍と言われていたイギリス海軍東洋艦隊と戦った.その結果,東洋艦隊の当時最新鋭の戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスを一気に撃沈することに成功した.それも世界で初めて飛行機だけで2隻の戦艦を撃沈してしまったんだ.この成功はのちに世界各国の戦術に大きな影響を与えた.」


ミユキ:「そんなすごいことをやったのね.」


先生:「この後も,日本はアメリカを含む連合軍に対して連戦連勝し,連合国の植民地だったマレー半島,香港,ビルマ(今のミャンマー),シンガポールを次々と占領した.はじめは中立国だったタイも,日本との条約で枢軸国の一員,つまり日本やドイツの仲間になったんだ.こうして日本は,東南アジアの島々,国々を一気に平らげていったんだ.そして,日本は遠く離れた東のアメリカの西部,そしてまた遠く離れた南のオーストラリアの北部にも攻撃を仕掛けていったんだ.この状況,どっかで見たことない?」


ヒロシ:「こないだのドイツみたいな・・・.」


先生:「そう!ドイツだ!ヨーロッパでドイツが周辺諸国を次々と占領したように,日本もまた東南アジアの諸国を次々と占領していったんだ.日本の進撃はそれからも続く.開戦翌年の1942年,日本は東南アジアから西に進んだインド洋でイギリス海軍に勝利し,アフリカ大陸近くのマダガスカル島にまで進出してきた.」


ミユキ:「そんな遠くまで行ったの!?」


先生:「びっくりだよね.しかしながらその勢いに陰りが見え始めた.1942年6月,日本は太平洋のど真ん中にあるミッドウェー島への攻略作戦を開始した.しかし,日本の動きはすでにアメリカに察知されており,準備万端のアメリカ軍に日本は迎撃された.おかげで日本は4隻の主力空母,300機以上の艦載機,そして多くの優秀なパイロットを失ってしまった.参戦以来日本が痛手を被った『ミッドウェー海戦』だ.」


ミユキ:「ああ,せっかく勢い良かったのに・・・.こういうとこもドイツと似てるのね.」


先生:「そうだね.時期的にはヨーロッパ戦線でドイツがモスクワでソ連にボッコボコにされたあとくらいだったから,ここから枢軸国の凋落(ちょうらく)が始まったといえるよね.

 日本はミッドウェー海戦での敗北後も,しばらくアメリカやオーストラリアの本土に対し攻撃を加えられるくらいの勢いは残っていた.1942年8月,オーストラリアの北東にあるソロモン諸島のガダルカナル島で,日本は英米を中心とする連合軍と戦った.しかし,このころ日本軍は勢力を広げすぎていたために,食料や弾薬などの物資の補給に無理が生じ始めた.日本列島から遠く離れた南の島・ガダルカナル島への物資輸送に時間がかかりすぎてしまうんだ.加えて物資を輸送していた日本軍の船が連合軍に何隻も沈められた.おかげで現地の日本軍の物資が乏しくなり,戦況は不利になっていった.日本軍の戦死者,餓死者は2万人を超えた.結局,日本軍は島から撤退せざるを得なかった.つまりは連合軍の勝利だ.これが,『ガダルカナル島の戦い』だ.」


ミユキ:「・・・なんか悲惨だね.悲しい.」


先生:「赤道近い南の島だ.とても暑い.しかもじめじめした熱帯林の中だ.食べ物もない,薬もない.戦うための銃弾もない,敵に殺されるかもしれない.日本にはない変な病気にかかるかもしれない.そんな気持ちで数日過ごす羽目になったら・・・.」


ミユキ:「想像しただけで怖い.」


先生:「そうだよね.でもガダルカナル島にいた日本の兵士たちは,そういう状況で何日も過ごした挙句,あるものは敵に殺され,あるものは飢え,あるものは病にかかった.そうして多くの兵士たちが死んでいった.これが戦争の恐ろしさの一つだ.

 そして,日本軍はガダルカナル島での敗北によって,その力を大きく落としていった.その後,今まで日本にいいようにやられていた連合国は勢いを取り戻した.ガダルカナル島の戦いは,太平洋戦線での転換点(ターニングポイント)になったんだ.」


ヒロシ:「ヨーロッパ戦線でいうスターリングラードと同じですね.」


先生:「そういうこと.もう気づいたかもしれないけど,日本もスターリングラード敗北後のドイツと同じような道をたどることになるんだ.1943年,連合軍は,日本軍が要塞にして守りを固めている島を避け,重要な拠点を奪いながら日本本土へ向かう『飛び石作戦』を実行した.これによって,ガダルカナル島の近く,キリバスの日本領がまず落とされた.一方,ビルマ(現ミャンマー)でも日本は敗北した.これ以降,日本は,東南アジア,アメリカ西部のハワイ諸島にあった自分の領土をどんどん連合軍に奪われていく.日本の前線は本土のほうにどんどん後退していくことになるんだ.」


ミユキ:「もうドイツと一緒じゃん!何から何まで似てるのね・・・.」


先生:「1944年10月,フィリピンのレイテ沖の海戦で追い詰められた日本軍は,『神風特別攻撃隊』という部隊を作った.略して『神風特攻隊』だ.聞いたことはあるんじゃないかな?」


ミユキ:「あれでしょ?自分で飛行機に乗って敵に突っ込むっていう・・・.」


先生:「その通り,日本はそういう恐るべき作戦にとうとう踏み出したんだ.ミッドウェー海戦とガダルカナル島で,日本は負けが込んでいたからね.まともに考えられなくなってしまったんだろうね.特攻隊によって,当然多くの日本兵が死んだ.」


ミユキ:「ひどすぎる・・・.テレビでそういう特集やってるのたまに見るけど.」


先生:「このころから,日本国内にも悪影響が出始めた.その一つが金属製品の徴収だ.日本には弾薬や兵器を大量生産するだけの力がなかったから,金属でできた道具,機械,果てはお寺の鐘に至るまで,国民から取り上げていったんだ.当然国民の生活は不便になっていった.

 そして,連合軍はとうとう日本列島に押し寄せてきた.1944年の終わりごろから,連合軍はアメリカ空軍の爆撃機B-29を使って,東京,大阪などの日本の主要都市に対して空襲を仕掛けた.君たちのおじいちゃん,おばあちゃんの世代も,子供のころに空襲に巻き込まれた経験のある人はたくさんいるはずだ.」


ミユキ:「そういえば,うちのおじいちゃんもテレビで戦争の番組を見るたびに,空襲のこと話してたな.『ワーン』ってサイレンが鳴ったらみんな地下の防空壕に避難して,暗くて狭い部屋の中で上からドン,ドンって大きい音が聞こえるから,みんなおびえていた,みたいな.」


ヒロシ:「僕も祖父母から似たような話を聞いたことがあります.あと,ひいじいさんが特攻隊だったか,それこそガダルカナルみたいな南方での戦いだったかで亡くなったって聞いたことがあるような・・・.」


先生:「大事な話を聞いたね.ここから先はもうよく聞く話が多いだろう.日本の空襲に続いて,1945年4月,連合軍は沖縄にも上陸してきた.日本軍と連合軍の間で激しい戦闘が行われた.民間人も多く巻き込まれた.日本側は兵士と民間人合わせて20万人近くが亡くなった.それは悲惨そのものだった.

 1945年5月,ヨーロッパでドイツが降伏してからも,日本は戦い続けた.まさに全世界を敵に回して戦うことになったんだ.加えて日本国内も攻撃される体たらく.もはや勝利は望めない.それでも日本は戦い続けた.

 その後,日本に2個の原子爆弾が落ちた.日付と場所はわかるかな?」


ミユキ:「1945年8月6日,広島.」


ヒロシ:「8月9日に長崎.」


先生:「その通り.たった1個の原爆が,何十万人もの人の命を奪い,広範囲の建物をガレキに変えてしまった.それが2個も落とされたんだ.もう何も言えないね.

 そして,同じ月の15日,ラジオで大事な放送があると聞いた人々は,一斉にラジオの前に集まった.そのラジオから流れたのは,昭和天皇陛下の声だ.玉音放送だ.この放送は日本にとって決定的な瞬間を伝えるものだった.そう,第二次世界大戦の終結,日本の敗戦だ.」


(しばらく教室内に沈黙が流れる.)


先生:「以上が,第二次世界大戦,太平洋戦線の歴史です.前回のヨーロッパ戦線の講義と合わせて,我々は第二次世界大戦全体の歴史を見ていったことになります.ここまでで何か質問のある人.」


ヒロシ:「一ついいですか?」


先生:「どうぞ」


ヒロシ:「僕はドイツと日本がたどった運命があまりにも似ていてびっくりしたんですけど,違いは何かないんですか?」


先生:「見方によっていろいろある.

一つ目は,ドイツは周辺国の本土を占領したのに対し,日本は欧米諸国の本土ではなく植民地を占領したこと.前回も少し説明したけど,ドイツに占領されたオランダ,ベルギーなどの国は,降伏後次々にイギリスに亡命していったんだ.一方で日本の場合は,欧米諸国の支配から東南アジアを解放するっていう大義名分もあったから,日本軍は占領地の人々から歓迎されていたこともあったんだ.まあ支配者が欧米諸国から日本に変わっただけだっていう見方もあるんだけどさ.

 二つ目は,ドイツが陸上メインだったのに対して,日本は海上メインだったということ.これはドイツの勢力圏のほとんどが陸地だったのに対し,日本の勢力圏の大半は海だったってことだ.この違いは両国の戦術にも表れている.ドイツは歩兵・戦車といった陸上兵器と,戦闘機・爆撃機といった航空機とのコンビネーションで戦ったのに対し,日本は海上で戦艦・空母といった船舶と航空機とのコンビネーションで戦った,ってことだ.

ほかにもいろいろあるけど,とりあえずここまでにしときます.ミユキさんは何かあります?」


ミユキ:「・・・今はちょっと頭の中を整理させてほしいです・・・.」


先生:「もしかして今までの話でショック受けてない?」


ミユキ:「・・・あ,いや,大丈夫.ショックとかじゃないんだけど,ただ,後半重たい話が多かったから,少し気分が・・・.」


先生:「つらい思いをさせたみたいだね.申し訳ない.しかしこれは大事なことでもあるんだ.君は今までの話を聞いて,戦争の悲惨さを知った.戦争は嫌だと思ったんじゃないかな?」


ミユキ:「うん.」


先生:「戦争の悲惨さを知る人を増やすことで,みんなが嫌いな戦争が起こる可能性を少しでも抑えることが,この授業の意義の一つだ.この世界には,戦争をすることによって金儲けをしたり,嫌いな国や人を排除したりすることで,自分がいい思いをしようと企んでいる人間がいる.そういう人間と同じ側に立ってほしくないんだ.

 あと,テレビでは第二次世界大戦の太平洋戦線について,よく放送されているよね.でもヨーロッパ戦線についてはあまり放送されていない.だから日本では第二次大戦中のヨーロッパで何が起きていたか,あまり知らない人も多いんだ.まあ仕方ないんだけど.でも僕は知りたかった.だから調べた.そして日本とドイツがよく似た運命をたどっていることに気が付いた.それを君たちと共有する為に,こうして授業したんだ.ヨーロッパは対岸の火事じゃない.場所が違っても,歴史的なストーリーは変わらない.そのことを知ってほしかったんだ.」


先生:「というわけで今日の授業はおしまいです.お疲れ様です.聞いてくれてありがとうございました.」


ミユキ&ヒロシ:「こちらこそ,ありがとうございました.」


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