ピエロはワラう
私が言った言葉に関して少女はそこまで反応はしなかった。きっと薄々は勘づいていたのだろう。そう考えるとほんとにこの少女は優秀だ。
私がそう思いくつくつと笑っているとこちらに向かう勇者の魔力を感知する。ここに来るのに10秒とかからないだろう。
はっきり言って面倒だけど仕方ないと思い私は少女に右手を向ける。すると少女の真下に魔法陣が現れ少女を優しく包み込む。
「まだまだお話ししたいところだけどそういうわけにも行かないからね。じゃあ優秀な少女さん。またお会い致しましょう。」
「まっ―――――」
少女が何かを言おうとするが、その前に転移魔法が発動し少女が向かっていただろう王都へと送る。
「いや~これまた良いものを見た。」
私がそういい笑っていると不意に背後から剣が振るわれる。しかしながらその剣を振った時には私はそこには居らず嘲笑するように笑う。
「くっ!」
「あらあらまぁ~勇者様もしかして剣の腕落ちましたァ~?」
「黙れこの腐れ外道が!」
「その言葉!久しぶり聞いたよ!」
私がそう言うと勇者は人類とは思えないような速さで突っ込んでくる。しかし力がある故に技術を磨かない。戦法を覚えない。真っ直ぐでしか来ない。こんなゴミに――――
今まで死ぬ気でその全てを磨いてきた私が負けるとでも?
私は全ての勇者の攻撃をいなす。此奴は強い。だから、だからこそ…どれだけ努力しようと技術を身につけることが出来ない。力があるからこその弱点。それは、技術磨くための相手がいない。それだけだ。
疲れてきたのか勇者は大振りの一振繰り出す。つまりそれは…
奴の敗北を意味する。
私はその一振を避け、勇者の懐へと入り脇腹に回し蹴りを放つ。すると勇者は苦悶の表情をしながら吹き飛ばされる。
「あがっ!」
「やっぱり弱いねぇ~。これなら案外騎士団長でもワンチャンいけるんじゃないかな?」
私がそう挑発すると勇者は聖剣を杖のように突き立てて立ち上がる。だが、やはり加護の保護を受けていないと相当なダメージのようでよろよろとしていて立つのがやっとのようだ。
そんな勇者に私は黒い物体を向ける。それはみんな大好き―――――――拳銃だった。勇者はどうやら意識が朦朧としていて私が何を持っているのか認識出来ていないようだ。
だけどそんなことは関係ない。私が躊躇なく拳銃の引き金を引くと拳銃は凄まじい音を上げながら鉛が勇者へ迫る。そして勇者の脳天をその鉛が突き抜ける―――――――――
ことは無かった。突如として現れた1人の美少女の剣によって弾かれ、明後日の方向へと飛んでいってしまう。ん?なんで気づかなかったかって?
そんなのは彼女に魔力が無かったのと『瞬歩』を使われれば当たり前だ。瞬歩、その名の通り一瞬で距離を詰めてくる技だ。
本来瞬歩はそこまで大移動は出来ないのだが、そこはさすが剣聖、もとい私の元幼馴染様と言ったところかな?彼女はこっちをキッと睨んできている。彼女が来ているなら他の者達が来るのも次男の問題だろう。
さすがに私も勇者に剣聖、賢者、騎士団長、巫女の同時相手は御免被りたい。だから私は剣聖に背を向ける。すると剣聖は苛立ったように声を荒らげる。
「逃げるつもり!」
「多勢に無勢なら戦略的撤退だよ?勝てない勝負に挑むのは勇敢じゃなくて無謀ってものだしね。」
これはさっき私があの少女に話した内容。こうも早く自分が同じ状況になるなんて考えてもいなかったが実際になった以上私がそれを守らなきゃ説得力がなくなってしまうだろう。
「ではさようなら。剣聖様?」
私はそういい姿を眩ませる。まぁ実際は事前に貼っといた転移魔法を発動しただけなのだけれど。いやはや。私は早くなの幸せそうな彼女を―――――――
嘲笑されるピエロにしたいものですね。私は心中でそう思いながら転移していった。
剣聖サイド
「なっ!待て!」
私はそういうが時すでに遅し。ピエロを名乗る殺人鬼は転移した後だった。私は歯を食いばるがすぐにリヒトの下へと駆け寄る。
「リヒト!大丈夫!?」
私がそう聞くとリヒトは力なく笑うが額には汗が伝っており、無理しているのがバレバレであった。私がリヒトを運ぼうと肩をかそうとすると皆が来てくれた。
「カナリア大じょうってリヒト!一体どうしてこんな怪我を!」
そう言って駆け寄ってきてくれたのは巫女のエレヴァだった。彼女は回復魔法も得意としているため今の現状に最も必要な人といえよう。
「エレヴァお願い!どうやら脇腹の骨が折れているみたいなの!どうにか治すことは出来ない!?」
「分かりました。やってみます。」
そう言うとエレヴァは早速リヒトに回復魔法を施し始めた。すると騎士団長さんが近づいてきて尋ねてくる。
「一体何があったんですか?」
騎士団長さんが私にそう聞いてきたため私はピエロがいたこと、そして相対していたリヒトが一方的に暴力を振るわれていたことを話した。すると騎士団長さんは驚いたような表情をする。
「にわかには信じ難いですね。あの勇者様をここまで追い詰めるとは。」
「えぇ。そうですね。」
そういい私は唇を噛み締める。リヒトがここまで追い詰められる相手と相対した時私は僅かに怖いと思ってしまった。彼奴の強さは本物だ。きっと彼奴には強い仲間がいるのだろう。
だけど!私は、私たちは負けるつもりなんて毛頭ない。確かに今は勝てないかもしれない。でも私たちには騎士団長さんが、精霊騎士団の人達が魔法騎士団の人達がいる。
だから私たちは何があっても絶対にあのピエロを名乗る狂人を倒す。そしてあの仮面をとって素顔を晒して皆に今までのことを謝罪させる。例え、その仮面の中の顔が一体誰だったとしても絶対に。
私はそう新たな決意を胸に抱く。だが彼女は知らない。その苦しみは元凶は本当は一体誰なのか。
そしてその仮面の秘密を知った時彼女がどんな顔をするのか楽しみにしている狂人のことなど、微塵も気づいていなかったのであった