表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
江戸蔵心中  作者: かもめ
3/8

ママが嫌いだと悟られるのが嫌い

家族の順位わけをするのはやっぱり嫌な子なんですね、いまだ無条件に愛して欲しいって思っている子なんです。

 順子は中学生になって、ママは益々加速的に激しくなってきた。

 とにかく学校の成績、宿題の管理、部屋の掃除や持ち物、交友関係、日記のチェック、(特にこの日記のチェックで懲りた私はブログに移行したが、それすら管理者権限すらママに奪われ覗かれていた)に事あるごとに私からしてみればいちゃもんに近いくらい文句をつけてくるのだ。

「塾に通わせてやってるのにどうして順子ちゃんはこんなに学校の成績が悪いの? 頭悪いの?」

「ネットなんてしてないで家から帰ったらすぐに宿題終わらせる約束でしょ、ダメな子ねえ」

「ママはあなたのためを思って言ってるのよ」

「順ちゃんのお部屋を掃除したら、日記が出て来たから読ませてもらったわよ、だって心配じゃないの、変な男の子に付きまとわれているんじゃないかって、ママはあなたの事が心配なのよ」

「それにこの間のあの子、ほら女の子なのにオレなんて言っちゃってる子いたじゃない? ああいう事いうコが順ちゃんのまわりにいるのママ本当に心配になっちゃうのよ、お付き合い止められないの? 分かるでしょママの言いたいこと」

「何その反抗的な目、それが親に対する態度なの!」

 切れ出すと止まらなくなるママのサインだった。

「悔しかったら家出てみろ、ばーか」

「出来ないだろ、出来るわけないだろ、ちゃんちゃらおかしいわ、ばーか、ばーか」

「学生の分際で生意気な娘ねえ」

 こういった罵声がずっと続くと……

「……だまれ……」

 ついに私はブチ切れる。

 ママに飛び掛かる!(殴りはしないけど)

 順子は爆発した。

「うわああああああっ」順子

「きゃぁぁぁぁぁぁっ」ママ

 ぎゃーー、ぎゃーー、どすん、ばたん、取っ組み合いになってそこらじゅうをゴロゴロ二人で転げまわったのだった。

 一体全体親から罵詈雑言を浴びせかけられると、私は縮こまってしまう、存在価値なんてない悪い子のように感じてしまう、それが苦しい、友達から無視なんかされるよりよっぽどキツイ、しんどい、正直ママには死んでもらいたいと考える私って……ああ嫌だ。真綿で首を絞められるっていう感覚、こういうのを指してるんだろうか?

 それにしてもこういう時、パパは何も言わずに空気のように黙って自分の書斎に閉じこもってしまう。今もそう。

「「ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー、ぜーはー」」

 大暴れして二人して肩で息をして、動けないくらい取っ組み合いをした後、私はママをドンと押してしまった。

 そうしたら偶然台所にあった包丁に、ママの身体はぶつかって、それが落下してしまったの。運悪く手を付いたママの右手の甲の上にそれは落ちてきて……

 一メートル位血が吹き上がったのを覚えてる。

 私は正直悪いことしたなんてこれっぽっちも思ってなんかいなかった、それくらいのことされたと思うし、ぎゃぴぎゃぴ喚いてるママを芝居臭いな位にしか思っていなかった。何この女っていう、でもパパが部屋から出てきて血相変えたときはドキッとしちゃった、今まであんなパパの顔見たのはじめてだったから。

 私とは目を合わせずに手早く圧迫止血させた後、急いで車で病院に連れて行った。その間私はなんだか夢見心地で、家でぼーっとしてしまっていた、何でこうなってしまったのかよく分からない。こういう取っ組み合いは近頃ほとんど毎日だ、その間特に大きな事件にもならなかったし、パパはそんな時空気でしかないのに。

 部屋に引きこもっていると、やがて両親が帰ってきたのが分かった。私はパパに叱られるのが怖くて、じっとベットの上でひざを抱えてじっとその時を待っていた、けど部屋に入ってきたのはママの方だったの。

「順子ちゃんここにいたのね、ほら見て、順子ちゃんにやられた痕よ」

 ママはうっすらと涙を湛え包帯で巻かれた手を見せてきた。

「パパもとんでもない娘だって言ってたんだよ」

 その言葉に私はドキッとした、パパがそんなこと言ってたのって、どうしようって、そんなに悪い子だって思われてるって。

「親をこんな目に遭わせるなんてなんて怖い娘だって怒ってたよ」

 どうしよう、どうしよう、私はとんでもなく悪い娘なのかもしれない、パパがそんなに怒っているなんて……

「パパはね、順ちゃんが生まれたとき、飛び上がって喜んでね、それから毎日毎日、順子の顔を見るのがとっても嬉しそうでね、分かる順ちゃん?」

「ぐすん、ごめんなさいママ」

「いいのよ謝らないで、それだけ私たちは順ちゃんのこと愛してるのよ、みんなから順ちゃんは愛されているの本当にあなたのこと愛してるのよ、おばあちゃんも、おじいちゃんもみんなみんなよ、ママだって順ちゃんのこと愛してるのよ、わかるう?」

「うううぅ、う、う、う、ううううぅぅぅぅぅうううううううう」

 私はこういう時、つい感激してしまい泣いてしまう、申し訳なくて、自分を責めて、許して欲しくて、悪い子でした、ごめんなさいって。

「いいのよ順ちゃん、分かればいいの、仲直りしよ」

 私はママに抱きつき大声で泣いた、でもどうしてだろう? なにかが腑に落ちない、心に薄暗いもやが晴れないよう、その正体はナンなのか私には分からなかったけど、どす黒く毒々しい警戒すべきもののような気がするのだ。



親は子を必ずしも無条件に愛するわけでもないんですよね~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ