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江戸蔵心中  作者: かもめ
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罪を犯さないで生きるなんて無理無理 みたいな?

蔵の名称は蔵前からであって、蔵前橋通りではないつもりです。

 一体それはいつ始まったのか、記憶がはっきりしないのだ。思い出したくないのはあるかも知れないけれど、どうしても思い出せないような……ただはっきりした記憶のなかにあるのは天井の模様、壁紙のパターンだった。いいえ正確にはそうではなく、天井から私は順子を見ていただけ、父にのしかかられる順子を。

 順子は意識を、記憶をぶっ飛ばしていた、自我を守るために。

 今でもそのときの意識、記憶、感情、何故どうして、パパの表情、を思い出そうとしているのかもしれないが、心の傷はいまだ癒えずにそのことを思い出すことは出来ない。

 前後の事象とママの言葉からおそらく高校入学前の3月からその行為は始まっていたのだと思う。

 順子はいまはまだ生存している。

 それならばそれでいいと私は思うのだ。



 もしかしたら私の親は変なのかも知れないってのは昔からあった、何しろママが怖くて強すぎる。

 子供の頃夏休みの自由研究でラムネを作るというのがあったのだけれど、順子が言ったのはラムネって作れるの? ってとこまで、後はママが口出ししてきてママが作るの。勝手に一人作り方から調べてきて、順子に作り方教えるんだけど、自分で作っちゃうみたいなね。

 子供の頃はそんなものなのかも知れないって、ママもアンタじゃ出来ないだろうからって心配してるんだよって、アンタのためにやってやってるんだからって、言っていた。

 そんな時は私は何だか小さく縮こまっている気になる、背が低くなって、背中が丸まっているんじゃないかって。何だか背むし女になっちゃったみたいな気分、よっぽど私ってママの言う通り駄目なんだろうって思う。そうして落ち込んでいると、

「順子ちゃんこっちにおいで、ママの膝の上においでよ」

 そういってぎゅーって抱きしめてくれる、

「順子ちゃんはママのこと好き?」

「うん」

「ママも順子ちゃんのこと大好きだよ」

 ママは物凄い癇癪もちだけど、同時に優しい言葉もかけてくれるのだ。

 パパは殆ど空気だった、というかほとんど話した記憶がない、その分ママが何でも喋る、パパの代わりに喋る喋る、しゃべりまくる。


 思えばママが怖いと感じるのは冗談なのか本気なのかわからないことをいうときがある。

 私になんの相談もなく始まってしまった水泳教室でのことだった、

「順子は他の子と比べてもちょっと手足が短いねえ、ママとパパの子じゃないんじゃないの。そうだきっと病院で別の家の赤ん坊と間違えられたんだ。病院に行って本当の娘と交換してもらおう!」

 私は急に恐ろしくなってしまった、捨てられるという絶望感、足元が泥沼にはまって抜け出せないようなそんな孤独感を覚えた。

「……ママ」

 ニヤニヤ笑いながら私の握っていた手をそっと放すママだ。

 水泳からの帰り道、いつの間にか涙が溢れてきた、鼻の奥がツーンと痛んだのを忘れはしない。

「何泣いているんだい、冗談に決まっているじゃない、順子が水泳を嫌がるもんだからちょっとからかってやっただけだよ」

「ママ……」そういって放されたその手をつなごうとした私の手をはじいてママは言う。

「もう水泳に行くときに行きたくなんかないってダダこねたりしたら駄目なんだよ」

「うっううう~~~」

 ハイという返事が出来ないくらい泣いてしまっていた、私はポロポロ涙を流しながら、懸命に返事をしようと務めた。

 それを見ていたママは歯を見せて笑っている、一体どこから冗談で本気で言っているのか分からない私は混乱しながらもう決してもういやいやはしないと固く心に決めたのだった。

「全く冗談も分からないなんて頭の悪い子だねぇ~」

 私はまだ小学校に上がる前からこういうことを言われ続け、ママの顔色や言葉にびくびくして暮らしていた。多分自信の無い子だったと思うし、それに何だろう、ママに逆らえない分、何か心の中にたまっていった。もやもやしててどろってしている何か。嫌だったのだ、嫌だったけどそのころの私はどうしていいのかどうしたいのかが分からなかった。だって仕方ないこんな小さい子にどうしていいのかなんてわかるわけがない。

 あまりにそんな気持ちが酷い時はママにギュッとされるのが何故か嫌になった、そんな時は決まって大きなイルカのぬいぐるみに抱き着いて、そしてそのまま眠るのだった。

 ところがある日、大事にしていたイルカのぬいぐるみが無くなっていた。そしてそれはズタズタに切り裂かれて、家の外のゴミバケツの上に、ワザと私に見えるように置かれていたわ、すぐに誰がやったのかわかった。

「あら順子ちゃんもうこれからは小学生になるんだからいつまでもお人形遊びしていては駄目なのよ、これはあなたの為なんだからね」

 引き裂かれたイルカのぬいぐるみを前に固まる私の背中からママが抱き着いてきて、私に頬ずりした。子供心になんだかママの体温が、肌がとても嫌なものに感じられ、そんなことを思う自分が恥ずかしく、ママが気持ち悪く思えたの。

カレーにゆで卵は相性いいですが、カレーうどんにはいまいちのような気がします。

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