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PC:パッション・パウーネ  作者: 新田 拓海
第2章 リターン・フロム・サターン
8/9

バトルオンアステロイド

___________________________


[デデンコ]がタイタンに突入した頃、謎の戦艦がタイタンに近づいていた。


「艦長、間も無くタイタンです」

「今回は時間が掛かりそうだな」

「この戦艦とバターデニッシュならいけますよ」

「最後の最後で面倒くさくならなければいいがな」

「大気圏突入に入ります」


そして戦艦は灼熱に包まれながらタイタンに侵入した


___________________________


「いいか、本作戦は敵部隊の全排除ではない。そんなことやってもキリがないし無理だ」


ブリッジでブリーフィングが行われていた。艦内の必要最大限の人員が集まっていた。照明が落とされ、スクリーンから溢れ出す光がブリッジを包んでいた。


「じゃあどうするんですか?」


ジュディがアマンダに問うた。


「うむ、タイタンの情勢は知っているか」

「確か2グループに分かれてるんですよね」

「そうだ」


オルゲルトが自分の席のコンピューターを操作するとスクリーンに映っていた文字が消えて、タイタンのマップが映し出される。そこには左右に赤い光点で示された2つの大きな塊があった。


「ここのMCは派閥を組んでいる。左に映っている塊は【ジャヒューメット】、右は【グランコーサ】だ。この2つのMCに中小企業が集まっていった。そこで今回、ジョンソン商会の息がかかってる【グランコーサ】側に付いて【ジャヒューメット】を倒す」

「二大勢力にこの手法…まるでニホンの物部氏と蘇我氏だな」


ルーカスが呟いた。それにカッシュが反応する


「なんだそれ」

「ニホンの6世紀…いや7世紀だったか?覚えてないが二大豪族が争ってた頃だ、今回みたいに天皇家は蘇我氏について物部氏を倒した。2つの勢力と戦うより、被害が少ない」

「よく知ってるな」

「学校で習ったろ。まぁ今回はうまくいけばいいがな」

「?」


息がかかっている=仲が良い、とは限らない。どちらかと言えば競争心が高くなるだろう。挙げ句の果てジョンソン商会は金融機関だ、金絡みならば余計ややこしくなるに決まっている。

アマンダが話を続けた。


「ということで今、【グランコーサ】に接触を試みている」

「襲われる可能性は?」

「無いとは言えんが商会の手前、野蛮なことはできんだろ」

「他に質問は?」

「……」

「無いな?なら、各自持ち場につけ。小隊はいつでも出れる

ようにしておけ」


照明が点き、全員が移動を始めた。

とにかく今は、敵と鉢合わせない事を祈るばかりだ。


___________________________


エウロパとパシファエは部屋に入った。

そこはシュミレーターの排熱のせいか、とてつもない熱気に包まれていた。

エウロパは換気扇を点けて、大量の汗を掻きながら倒れ込んでいる青年に近づいた。


「調子はどうだ?イオ」

「最悪ですよ」


イオは体を起こし、汗を拭きながら答えた

エウロパは仮設の机に置いてあるプラスチック容器を目にした。


「食べてないのか」

「食っても吐くだけです」


イオはトレーニングルームに入って今日で4日目になるが、明らかに支給された食事が減っていない。夕飯の分だけ食べていると言ったところか。イオも言っていた通り食べても戻してしまうほどシュミレーションをこなしているのだろう。

あの問題児がここまで訓練に必死になるのはやはり…


「あの掘削機か?」

「……」

「図星か」

「貴方には関係ないでしょう」


イオが顔をそらす。と同時にパシファエに顔で指示を出した。するとトレーニングルームに放置されていたプロジェクターを起動させ、手に持っていたノートPCをいじると、壁にとある機体が映し出された。


「お前の新型だ。名前は[ドゥーポン]」

「イオさん、貴方は大佐の部隊で大佐と私とでスリーマンセルを組んでもらいます」

「何故俺が?前科持ちの人間がやることじゃないでしょ」

「ココに入れていたのは、お前に矛先が向くことを防ぐのと単にお前の戦闘力アップの為だ。全て俺の部隊…マルデュク隊に入れるのを前提でやってたんだ」

「…」

「納得できんか?しなくて良い、時間の無駄だ」

「付いて来い」


エウロパが踵を返した。

イオは立ち上がり上着を着て部屋の外に出た。

四日ぶりの廊下の照明はトレーニングルームの物より眩しく見えた。


「どこに行くんです」

「ハンガーに決まってんだろ」

「新型を見に?」

「実際に見なければ分からないものも有りますし、模擬戦を行いますから」

「そんな事聞いてないぞ」

「口調を直しなさい、イオ軍曹。私は上司ですよ」


聞こえない程度に舌打ちをして、返事を返しておいた。

黙って2,3分歩くとハンガーに着き、自分の新型を眺めた。


「黄色か…ですか?」

「まさに『イオ』ってことね」

「好き好んで付けられた名前じゃないですよ」

「そんなことより模擬戦やるんでしょ」


イオは今までゲーム感覚のシュミレーションと筋トレを繰り返していたため、本当のコックピットの感触が早く欲しかった。


「そうだ、パシファエと模擬戦だ」

「どこで?」

「…オールトの雲」

「は?」

「すいませんアステロイドベルトです、一応言っておくがメインベルトだ。アステロイドベルトに到達し次第開始する、兵装は全てペイント、コックピットか頭部に被弾したらこちらの判断で終了する」

「分かりました」


2人は素早くパイロットスーツに着替えて機体に乗り込んだ


「これだ、この圧迫感…たまらねぇ‼︎」


イオはコックピットで欲求を満たすと、発進準備を始めた。兵装を確認して、スタンバイモードを解除する。カメラが起動すると[ドゥーポン]の巨体に隠れ、イオが立っていたキャットウォークからは見えなかった機体が左カメラ一杯に映った。他の機体と比べて比較的細身のフレームはスタイルの良い、彼女の様だった


「パシファエ機、出ます」


そう言うとパシファエが乗った機体は加速し、サテライト本部から宇宙へ出た。


「アレがパシファエ中尉の機体ですか?」

「そうだ、[ゲッスロー]という名前だ」


どういう機体なのか聞こうとしたが、セコイ気がして尚且つ大佐は教えてくれなさそうなので何も言わなかった。


「イオも出ろ」

「了解です、[ドゥーポン]出ます」


イオの機体が加速して宇宙に飛び出した。

体がシートに押し付けられイオは満足だった。実際に宇宙で本物の機体に乗って、コンピューターでは無い敵と戦える事をどれだけ待ち望んだことか。兎に角、アステロイドベルトに急いだ。


エウロパはイオがアステロイドベルトに向かったのを確認すると、自販機でコーヒーを買って通信室に入った。


「どうだ?」


コンピューターの前に座りヘッドセットを付けているオペレーターに話しかけた。


「中尉は既に到着、軍曹は後数分で到着です」

「悪いね付き合わせて」

「大丈夫ですよ。本部勤務は暇ですから」

「助かる」


オペレーターはシートの背もたれに寄りかかり口を開いた


「それにしても大佐、ひとつ聞いていいですか?」

「続けてくれ」

「なぜ貴方はその階級になっても出撃なさるんですか?」

「そう来たか…」

「すいません忘れてください」


明らかにエウロパの声のトーンが下がったのが分かった

いたって普通の疑問をぶつけた筈だが、確実に訳ありなので話を止めようとしたが、エウロパは口を開いた。


「普通に事務とか面倒くさいし、出撃してたほうが楽だしね。まあ他にも理由は有るんだがな」


何とも苦しいの言い訳だろう。声のトーンは低いままだ

空気を変えようとディスプレイを見るとイオの機体が、アステロイドベルトに到着しようとしていた。


「大佐、軍曹の機体が到着します」

「分かった。モニターしてくれ」


すると、大型ディスプレイに二分して映し出され、左にイオの機体が映った。


イオは索敵を行なっていたが、[ゲッスロー]の姿は見えなかった。小惑星に隠れているのだろうが、探そうにも視界が悪い。それは相手も同じだが[ゲッスロー]の索敵性能がこちらと同じとは言えない。位置を特定されない為にも動き回るしかない。


「ステルスフローティングマインを活用出来そうだが…」


イオが小惑星を回り込んだ時、発砲音が聞こえた。

それを腰部延長シールドで防ぐ


「あら、ミスった」

「そこだな」


イオは空かさずバックパックユニットのホーミングミサイルを起動し、発射した。


「数撃ちゃ良いってもんじゃあ無いわ」


パシファエは軽々と回避してみせる。その一連のムーブは見事としか言いようが無い。


「4日のトレーニングは無駄だったかしら」

「無駄口叩いてる余裕があるんです?」


既に[ドゥーポン]はミサイルの第2波を打ち出していて、[ゲッスロー]に近付きつつあった。そしてそれらは、全方位に別れて同時にパシファエを襲った。


「死ねッ‼︎」


勝った。そういう確信があった。

イオは[ゲッスロー]の特色は軌道予測とパシファエのパイロットスキルが弾を回避しているものだと推測した。だからこそ持久戦は分が悪いと思い一気に仕掛け、[ゲッスロー]の細いフレームでも避けられないほどに、ミサイル間の距離を詰めて攻撃した。成功したものと思っていた。無傷の[ゲッスロー]を見るまでは、


「なっ…クソっ」

「アホめ」


何をしたか聞きたくなったがグッと抑え、行動を開始した。

移動しながらレーダーに浮かび上がった小惑星群を見て、[ゲッスロー]を撒くルートを考え行動した。


「あいつ何やったんだ」


全方位の攻撃を避けられるのは、浮遊シールドや球体エネルギーバリアなどだ。しかしそんなものどこのにも見当たらない。ましてライフルで撃墜しているとも考えられない。


次の瞬間、左モニターにDANGERの赤文字が浮かんだ


「逃げるんじゃあ無いわよ」

「ゲスいですね、中尉」

「そう?」


そう言いながらパシファエは機体背部のブレードを引き抜いた。イオもブレードを展開したが、パシファエのブレードは腕に固定されていない分自由度が高い。ひたすら劣勢だ

腰部延長シールドで相手の攻撃を受け流し、横から斬撃を叩き込んだ。が、しかしブレードは空を切った。


「マズイッ‼︎」


切ったかに思えた機体はまるでゲームのキャラの様に徐々に消えて行き、その後ろから次の攻撃を加えるために構えている[ゲッスロー]が見えた。


「シールド…は間に合わないか」


イオは強引にブースターをふかし、攻撃を逃れた。

その足で再び小惑星の隙間を逃げ始めた。

少しでも時間が稼げるように、より緻密なルートを通りながら考えた。


さっきの現象はなんだったんだろうか、あの消え方を見たのはシュミレーター以来だ。


「シュミレーター?まさかとは思うがパッシブデコイか…」


初歩的過ぎて見落としていた。勿論、弾丸軌道予測も相まって、あの性能を引き出しているのだろうが。相手の特性をいち早く分析させるというのもこの模擬戦の目的に入っているのであろう。


「さて、反撃と行きますか!」


イオは再びブースターをふかした。


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