トルヌス宙域へ
ディンゴは市街地をホバー走行していた。実際には空気を放出している訳では無いので、どちらかというと超低空飛行に近かった。これでもかと言うほど建設されたビル群を走り抜ける
聞き慣れた発砲音と同時に機体の後方の地面に弾痕が連なってできる。狙われているのだ
「クソッ上手いな」
堪らず体重を横に傾け方向転換した、幸いビル群は無人なので使わない手は無い
嫌になるほど照っている太陽光が一瞬だけ薄れた気がして確認すると、相手はワイヤーアクションとブースターとで60tは優に超えるであろう巨体を軽々と持ち上げていた。そのまま飛翔しながら向かってくるのが見えた。ライフルで応戦するが案外避けられる、マガジン交換の隙に相手の機体が地面を抉りながら着地してお構い無しに接近してくる。やむを得ずライフルを捨て、ブレードを展開する。モニターのロックが赤に変わって、互いのブレードが接触し青い火花が散った
『くらえディンゴ!』
「ちくしょう」
機体がよろける感覚がした。
足が地面に着いているだけ威力は向こうが強い。力負けする前に離れて、下方向からブレードを切り上げた。だが次の瞬間、暗闇に包まれた。いつ間にか頭部が吹き飛ばされていた
『シュミレーション終了デス。オツカレサマデシタ』
という電子アナウンスの後にコックピットが開いた
知らない間に大量の汗をかいていた。堪らずコックピットから這い出て仰向けになると、キャットウォークを歩く音が聞こえた。
「少しは慣れたか?」
「ロビットさん」
「一旦離れたのはいい判断だ、だが折角ホバーが付いているんだからもっと巧みに逃げて状況を整えるのが最善だ。そのままゴリ押しなんて以ての外だ」
「こんなに強いなら[パウドロ]隊が主戦力になればいいのに…」
ロビット、[パウドロ]隊のパウドロ2に搭乗している、元米空軍のベテランだ。戦闘力は艦内で1位だった
「お前なぁ主戦力もクソもあるかよ、[パウドラ][パウドロ][パウドレ]全小隊に商会からの機体が配備されたんだぞ?。要は全員戦えって事だ」
「トルヌスの問題って何なんです?」
「MCしかないだろ、まぁ資源なんか疾っくの疾うに無くなってるだろうに」
地球を離れてからというもの、宇宙環境は著しく発展した。地球周辺のスペースコロニー建設は勿論のこと、金星や火星は未だに不完全ではあるがテラフォーミングが行なわれ、また、人類は土星周辺まで足を踏み入れた。しかしそれと並行して起こった問題がMCの闘争だった。土星周辺での戦闘がきっかけで天王星以降の開拓は一時的に打ち切られてしまったのだ。が、この行為は失敗だったと言える。作業班は撤退時に次の作業用に資源や物資を置いていった。これはすぐさまMCの目に止まり案の定、闘争は激化した。そして土星はMCの巣窟となっており、今ではトルヌス宙域という名前が付いている。
[デデンコ]には商会からの依頼が来ていた。勿論の事、再建に少なからず関わる事だった、内容はトルヌス宙域の制圧だ。地球の再建と言っても問題自体は地球では無くMCにある、なので手っ取り早いのはMCの巣窟であるトルヌスを解放することなのだ。
「そろそろトルヌスですね」
「ああ、丁度木星が見えるな。アレがイオか」
「?、ディンゴ?」
ロビットが窓越しに指差したのは木星の第一衛星のイオだ。ディンゴの脳裏に映るのは敵MCのイオとエウロパだった。コードネームに木星の衛星を借りているのは確かだ
「いえ少し考え事です」
「そうか、しっかり休んどけよ」
ロビットはそう言い残し、踵を返した
トルヌス宙域は眼前に広がっている