パッション・パウーネ始動
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「ジョンソン商会ですか?」
ディンゴ達が商会に行っている頃、エウロパは上官に呼び出されていた。
「ああ、まぁどこでもいいがここから1番近いのはそこだな」
PCやMCは[デデンコ]のように浮遊戦艦を本部とする所と、宇宙にそのまま基地を作っている2つのパターンがあった。エウロパ達のMC【サテライト】は後者だった。
「あそこの会長は頑固だ、という噂を聞きましたが」
「そこらは君がどうにかして欲しい」
「……マジ?」
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3人は[デデンコ]に向けて車を走らせていた。
「アマンダ」
「なんだ?」
「ローアル・シェルだったか?何なんだ」
「ああそれか、ローアルは電気信号で熱を発してエネルギーを吸収する。そのエネルギーは様々な運動に変えられるんだ」
「そのまま威力を上げて熱として出せるのは勿論、浮力を持たせたり、強度を増す、鋭さを上げるなどなど」
「そこまでは知ってる。この性質があるから生活必需品何だろ?」
「そうだ、そしてそれを武器兵器として運用したのがローアル・シェルだ。まさにローアルでできた殻って訳だな。蓄積されたエネルギーは青く光る。例えば相手のブレードが青かったらローアルを使ってるという事だ」
「学習なんてしてないのか」
「人間というのは強欲だ。自分の欲を満たすためなら何でもするし、平気で同じことを繰り返す」
「クソだな」
「ああ、クソだ。そして私達もクソの一部だ」
その時、車に取り付けられた無線機からコールがなった
「私だ」
「艦長、コロニーセンサーが未確認機を確認。こちらに向かってきています」
「奴らか?」
「分かりませんが、可能性は高いですね」
「今そっちに向かってる、[デデンコ]を出せるようにしておけ」
「分かりました」
通信終了のボタンを押した。相手の行動は予想を遥かに越えていた。
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「あのクソジジイめ」
コロニーに向かいながらエウロパは[ハウカム]のコックピットで愚痴を垂れていた。なにせエウロパは地球から【サテライト】本部に戻ってきた途端にジョンソン商会に行けという無茶な命令をされたのだ、無理もなかった。
その時通信が入った、女性の声だった
『大佐、本日付けで大佐の部隊に入ったパシファエです。応答願います』
声の質から多分、いや確実にコロニー生まれだった
「こちらエウロパ、よろしくな中尉」
『よろしくお願いします。今回は後方支援を担当します』
「今回は?」
『前線に出たりもします、と言うかそっちが大半です』
「イオの奴は?」
『謹慎ということで新型のトレーニングルームにぶち込んであります。もう3日も出してません』
「うちはスパルタだな」
『然るべき報いです、こんな所で一部の社員の反感を買ってはつまらないじゃないですか』
「それもそうだな」
「コロニーが見えてきた。入港する」
『分かりましたそれでは…』
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「急げ!急ぐんだよ!」
「シェルの取り付け早くしろ!」
「艦長はまだか!」
[デデンコ]の中では発進準備が行われていた。
数々の船員が行き交う中で、群を抜いて目立つアマンダが現れた
「艦長!」
「悪い待たせた。何人降りた?」
「ざっと8人ってところです」
「かなり残ったな、よし出航だ。射出機の用意しとけ」
「終わってます」
「流石だ、なら後は死なないように頑張るだけだ」
「[デデンコ]発進!!」
コロニーの港から[デデンコ]が発進した。一方ハンガーではシェルの取り付けが大詰めに差し掛かっていた。それと同時にジュディによるブリーフィングが行なわれた
「いい?ディンゴとルーカスのツーマンセルで交戦、カッシュは中距離支援よ」
「ルーカス戦えるのか?」
「ああ、暇だったんで講習受けたんだ。シュミレーションもこなした、足でまといにはならん」
「今回は[パウドラ]で出てもらうけど動力をローアルにして姿勢制御ブースターを付けたわ、それとブレードとショルダーパックユニットのマニピュレーターにシールドを持たせてる、カッシュ機にはライフルも持たせてるから上手く使って」
「分かった」
コックピットに乗ってベルトをしめると機内の無線が起動してアマンダの声が聞こえた
『敵は1機だけだ、だが宇宙での戦闘は初めてだろう?』
「まぁ出る必要も無かったからな」
『とにかく気をつけろ、いいな』
「了解」
『よし、射出開始だ』
「パウドラ1、射出体制に入る」
数10秒のカウントの後「パウドラ」が上空に射出された
「そうか、アンブレラは必要無いのか」
空気抵抗を上げ、擬似的なHAHO降下を行うことでローアルの反応を確認しつつ降下するために使用するアンブレラは必要無かった。
ディンゴは索敵をしながら後続を待った
その頃、エウロパが[パウドラ]の存在に気づいた、[パウドラ]の大体の形状はイオの報告で分かっていたので、エウロパは迷わず[パウドラ]に向けてブースターをふかした。
ルーカスとカッシュの射出が終了した後にエウロパの[ハウカム]が[パウドラ]の眼前に着いた。すかさずディンゴは公開通信を始める。
「やけに反撃が速いな」
『偶然だよ、いやマジで』
「悪いが殺されてくれ、か?」
『そうだな正直言ってあそこの存在を知ってる奴がいると厄介だ。予定外だがここで死んでもらう』
「その声、イオじゃないな」
あの時とは声の太さが段違いだ、30は越えているオッサンで間違いない。
『イオのことを知っているということは…そうか少しは手応えがありそうだ。では死んでくれ』
[ハウカム]のブレードが[パウドラ]を襲った。すかさずシールドで止める、当然だが刀身は青い。ショルダーマニピュレーターで[ハウカム]を押し退けブレードを展開するが、振りかぶった先には既にいない。
『その動き、宇宙での戦闘は初めてだな?』
図星だった。だが怯まずもう片方のシールドを後ろに回す。予想通り甲高い音がした。あの一瞬で後ろに回ったのだ、相当の手練だ。次の瞬間、発砲音が聞こえた
「大丈夫か!?」
「悪い、助かった。予想以上に速いな」
『伊達に訓練してないさ』
「ディンゴ行くぞ」
「おお!」
ルーカスの機体がシールドを構え、エウロパにタックルを食らわす。堪らず後ろに後退したところをディンゴが追い打ちをかけるがよけられ、挙句の果て[ハウカム]の頭部バルカンで逆にダメージを負ってしまった。
『3人でこれか?明らかに戦闘のど素人だ、つまらん』
「舐めるな!」
[パウドラ]が再び加速する。ディンゴのブレードとエウロパのブレードがぶつかり合い、青い光が飛び散る。もう片方のブレードを展開して股に突き刺に行った。
だが届かなかった。ズレて相手の左足に刺さった
『イオのようにはいかんぞ』
「くそっ」
同じ事が通用する相手ではない、もう策はない。
『だがここで殺すのは惜しいな…今日の所は見逃してやる。次まで強くなっとけよ、イオも連れてきてやる。』
[ハウカム]が離れていった。
「パシファエ、データは取れたか?」
『ええ何から何まで』
「よし上出来だ」
エウロパが居なくなった場所には、先程とは打って変わって静寂があった。ひとまず[デデンコ]に連絡を入れる
「アマンダ、敵機が離れて行く」
「あぁ、確認してる。戻れ」
「分かった」
[デデンコ]に向けてブースターをふかした。助かった事よりも馬鹿にされた悔しさが勝る。その時通信が入った、艦内通信だった。[デデンコ]内の誰もが聞いているだろう
『アマンダだ、聞いてくれ。一旦危機は去った。ではこれからどうするか?地球から離れて30年、地球の環境は私達の想像を超え、回復の一途を辿っている。だが簡単に降りられる訳じゃない、今の地球は絵に書いたような無法地帯であり、ローアルやその他資源を求めるMCが闘争を今も繰り広げている。だからといって私達は私達の夢を諦めるのか?いや、そうではない!私達は地球に必ず生身で降りるのだ、私達は私達の目的を貫く!だから私達はMCじゃない、地球に降りるためのパイオニア(開拓者)であり続ける。今より!PC【パッション・パウーネ】の誕生を宣言する!』
地球が酷く輝いて見えた。