モロとあずま
これまで十七年の人生の中で、この日ほど自分のことを情けないと思ったことはない。
猫がしゃべった。
そんな出来事に気が動転してしまった僕は、言われるがままに
その猫を自分のアパートに連れ帰ってしまったのであった。
「ボロいアパートじゃのう…なんじゃ小僧、苦学生か?」
「いや…単に条件が良かったから。その一つ質問が…」
猫の声は口調の通り、年季の入ったものなので自然と下手に出てしまう。
「なんじゃ?申してみよ。」
「どうして猫がしゃべれるのでしょうか…?」
まるで自分がしゃべれるのはさも当然、そうであるのが普通だとでもいうように
この猫は人の言葉を操るのだった。
「なんじゃそんなことか、しょうもないのう。狐や狸が人を化かすのじゃから
そりゃ、猫もしゃべりはするだろうさ。」
はあ、そういうものなのだろうか?
しかし、この猫がそういうと自然と納得してしまいそうになる。
「そんなどうでもいいことより、
初対面の相手にはまず尋ねるべきことがあろう?
ほれほれ、儂の名とか儂の名とか。」
「えっと…じゃあお名前は…?」
促されるままに名を尋ねる。
もう、されるがままのようなものである。
「うむ、よくぞ聞いてくれた。
儂の名はモロ、よろしく頼むぞ小僧。
して、おぬしの名はなんという?」
「僕は…」
僕の名前は、西ノ宮あずまです。




