第六話
「で、側近よ。今日のアダム君、もとい勇者はどんな感じだ」
「はい、王都で正式な勇者に任命されたアダム君は、人間の騎士団でも選りすぐりの精鋭部隊を率いて魔族領を侵攻中というのは、先日報告した通りです。
本日届きました詳細によりますと、どうやら中央で腐っていた連中を排除して、前線でたたき上げの騎士達が中心になっているようですね。魔族領に入ってから最初に戦ったクラーケン率いる軍団が、今は隠れて監視しております」
「さすがクラーケン、できる男だ。勇者の修行を兼ね戦闘をしながら、違和感を与えないようにわざと負け、そのまま身を隠して勇者の情報を探るとは。ボーナスの査定を考え直さなければならないようだな」
「ええ、しかし勇者の修行という面では、イフリートやリッチーも絶妙でした。イフリートとの壮絶な死闘で大きく成長し。リッチー率いる不死の軍団との戦闘を通して、部隊の指揮能力も大きく向上しているようです」
「まあイフリートは、ああ見えて部下を育てるのが得意なタイプだから手加減が上手いしな。それにリッチー軍団は訓練に最適だよな、何せ死なないんだから何度でも練習できるし」
「そうですね、唯一手加減不能の限度を知らないバカ、グレートオーガが居ないんで、今回は安心して配下の者を当てられます」
「しかし、あんなに大人数でやって来るのは予想外だったな」
「800人は居ましたね、現在は600人程度ですよ」
「そうか、あんまり減らし過ぎると帰っちゃうかもしれないし。損耗無しで魔王城まで通すと違和感持たれた上に補給が続かないだろうからな、よく考えながら減らしていかないと。まあ、そのへんは任せたぜ」
「はい、お任せください。この調子ですと、魔王城到着は二週間前後だと思われます」
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「魔王さま! アダム君が到着いたしました!」
「ついに来たかっ!」
「それが、様子がおかしいのです。魔王城の前で急に仲間割れを起こしたらしく」
「え? 今さら!!? 側近、どうなってる!?」
「詳しい情報は不明です。ご自身の目で確認された方が確実かと思われます、よろしければ城門までお越しください」
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「おいおい、どうなってんだ、ほぼ全滅じゃねえかっ!!」
「ま、魔王さま! それが、城門前で整列して、いざ戦闘開始と思われた時でした。突如、紫色の勇者らしき者? が人間の兵士達を襲い出したのです!」
「く、クソーーーーッ!! 勇者め、裏切ったな!!」
「魔王さま魔王さま、間違ってます。その台詞、間違ってないけど間違ってます。
あ、どうやら事態は大詰めみたいですよ」
「ゆ、勇者さま。なぜ、我々を裏切って魔族などに……」
「フッフッフッ……
ハーッハッハッハッ!! いいザマだな、副団長。いや、あの時は国境警備隊長だったか。俺の顔を見忘れたか。しかし、アレックスの名は覚えているだろう?」
「ま、まさか! 貴様、アレックスのところのガキか!?」
「思い出したか? 俺は全て覚えているぞ。目の前で父の亡骸を弄んだ連中と、気が狂うまで母を犯し、殺した連中、全ての顔をな。
戦争中のどさくさで、随分とやりたい放題やってたようだな。そうだ、お前の不正を中央に密告しようとして殺されたアレックスは、俺の親父だよ。
何のためにお前を副団長に推薦したと思っていたんだ? 戦闘経験が豊富で精強な国境警備隊こそが、魔族に対抗しうる唯一の戦力であります? お前、そんなことを本気で信じていたのか?
この戦いが終わったら、楽隠居して騎士団の相談役になる? 王都で自分の店を持つ? 随分と愉快な夢を語ってくれたな。
お前には無理だよ、バーーーーーカ」
「き、貴様ぁぁぁ!!!」
「ハハハハハハハハハ!!
そうだ! その顔が見たかった! あと少しで夢に手が届くところで、我が真の主が坐城を目前にして死んでゆけ」
「クソォォォォッ!! 国王さまーーーっ!!!――」
「…………え? なに、この茶番」
「あ、終わったみたいですよ魔王さま。アダム君がこっちに走って来ますね。
おーーーいっ! 門番、その人は通して大丈夫だっ!」
「ま゛、魔王さま゛ーーーーーー!(涙) やりまじた、僕、僕、つびに復讐ぼやびぼべ、ブァァーーーー(号泣)」
「お、おう」