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第三話

「これより第52回勇者対策会議を始める」


「わ、私の領地が…………」


「おい側近よ。もう会議始まっちゃってるから。

 いつまでも落ち込んでないで、ちゃんと司会やってくれよ」


「あれ程のトイレが今までにあっただろうか? 否、世界に唯一の完璧な楽園、そんな場所であったのだ。

 それを、あの小僧どもめ……」


「あーあ、まったく、しょうがねえな。

 あれ、グレートオーガのやつはどうした?」


「魔王さま、グレートオーガは船がアルプス海峡で難波したため、今だ行方不明となっております」


「あー、あいつ泳げなかったっけ? 大丈夫か……ってゆうかリッチーお前、焼けたなぁ」


「はい、平原には日影がほとんどありませんもので」


「なんか、ガリガリの引きこもりみたいだった身体も、すっかり細マッチョになって。なんだかお前の方がオーガっぽいな」


「ありがとうございます。私を含め配下たちは近頃、日の下で運動することに喜びを感じておりまして。今では魔法だけでなく、身体能力も魔王軍上位の実力であります」


「ほう、それは重畳。俺の目に狂いは無かったってことだな。

 で、打って変わってクラーケンは、なんか縮んでないか?」


「はい、魔王さま。高地はとても乾燥してます。余分な水分が飛んだ分、体が縮みました。でも、小さくなった分、身体の魔力制御もやりやすいですし。素早く動けるようになったんですよ。

 高地には住めない仲間も多く、そういった者たちには暇を出したり、海に別動隊として置いて来たりしましたので軍団規模は縮小しましたが。おかげさまで僕の軍団は、海上陸上を問わず魔王軍最高の即応性を誇ります」


「おおっ! そうか、それは素晴らしい。

 で、イフリートよ。お前に任せたカムチャッカ大森林は、どんな具合だ?」


「はっ! 魔王さま、我が炎の軍団は、大森林到着当日に大森林が燃えてしまったため、正確には元大森林でありまして、今はカムチャッカ大荒野と呼ばれております。

 我が部隊は、今まで何人たりとも寄せ付けなかった危険な森を、文字通りの焦土作戦により隅々まで探索。そこで数万年前の巨大生物が宿していたと思しき高純度巨大魔石や、タールの沼地にて極めて優秀な次世代燃料として期待のされている”燃える水”等、様々な資源採掘に従事しております。現在はさらにミスリルの露天鉱床を発見し、グレートオーガの海上部隊として船に乗ることのできなかったジャイアント族と協力のもと、資源の獲得に勤めております。

 現在では、魔王さま配下の国々にて消費される資源のおよそ三割を、我が軍団が賄うに至っております」


「おーーーっ! いいね、いいね。

 いや、グレートオーガの奴がよ、大森林を狙ってたらしくて、『あんな燃えてる奴に大森林の統治なんて、できるわけがありません!』とか言ってたけどよ。それどころか殊勲賞ものだぜイフリートよ、よくやってくれたな」


「はっ!(涙) ありがたき幸せ! これからも配下一同、魔王陛下への忠誠を胸に、陛下臣民に対する奉仕と貢献に一層邁進してゆく所存にありますっ!!(号泣)」


「おう、イフリートよ、お前の忠誠、確かに受け取ったぜ。

 でだ、問題のグレートオーガは……来てないから。おい側近、報告」


「ま、魔王さま。大変申し訳ありません。

 我が領地は、勇者どもの卑劣な手段により壊滅の――」


「その報告じゃねえよっ!!

 分かった、分かったから。お前の領地は、特別に再建予算を組むから。てゆうか、配下の連中からも再建のための嘆願書が大量に届いてるんだけど。お前、いったいどんなトイレ作ったんだよ。

 まったく、失敗したな。こんなことなら、兵舎のトイレだけじゃなくて城内のトイレも任せるんだったぜ」


「りょ、領地の拡張でありますか!」


「ああ、飛び地になるけど。もうここのトイレは、全部お前の領地でいいよ」


「はっ!(涙) ありがたき幸せ! これからも配下一同、魔王陛下への忠誠を胸に、陛下臣民に対する奉仕と貢献に一層邁進してゆく所存にありますっ!!(号泣)」


「おかしいな、まったく同じセリフなのに、その忠誠には微塵も心が動かない。

 そんなことより、グレートオーガだよ。あいつの領地について何か知ってる奴はいるか?」


「魔王さま、僕の部隊も一部を海に残しているから。少しだけなら分かります」


「おお、クラーケン。聞かせてくれ」


「たぶんですが、保有船舶の半分ぐらいが事故で沈んでいると思います。人的損失に関しては、僕の部隊が救助に入っていますので、船の損失ほどは多くないはずです。でも、僕の部隊だけでは手が回りきらないので……」


「あー、分かった。クラーケン、お前のせいじゃないから気にするな。

 だいたい、何なんだよあいつ。『陸の王者である我にかかれば、海の支配など容易いことですぞ!』とか言ってたくせに本人は泳げないし、配下の損耗は激しいし、最悪じゃねえか。まったく、無理なら無理って言えよ、使えねーな」


「ところで魔王さま、本日の主な議題はいったい?」


「ああ、側近も復活したところで、そろそろ本題に入るか――」









 魔王城の一室。魔王軍の最高幹部達が集う会議室には、重たい空気が立ち込めていた。



「でさ……

 一体、何で、どう間違ったら、アレが勇者に見えるわけ?」



 誰もが口を噤んで目を逸らす。如何に強大な力を持った魔王軍の幹部達でも、この魔王の問に答えられる者は皆無であった。



「そもそもこの前来た、勇者とは似ても似つかないアレは、いったいどこの誰?」


「はい、調査によると、人間領前線付近の農村出身、豪農の息子で素行が悪く、同じく素行不良の近隣住民のリーダーで、馬を乗り回し盗賊の真似事のようなことをやっていたそうです。名前はタケ○、17歳、あの集団は幻覚作用のあるキノコを常用しており、正常な判断が効かなくなって暴れていたところを勇者捜索の任についていた者が発見したようです」


「で、誰なんだ? アレを最初に勇者として報告してきた、腐れ脳味噌の持ち主は?

 側近――」


「はい、あの時上がってきた報告書は……グレートオーガが決裁していますね」



ブチッ



「あの腐れ外道が……もう帰ってきても、てめえの椅子は無えからな」


「あのー、ところで魔王さま」


「おう、どうした?」


「勇者とは、いったいどのような者なのでしょうか?」









「あれっ! お前ら誰も知らないの!!?

 何で知らないの!

 お前らいったい今までどういうつもりで俺の話を聞いてたわけ!!?」


「い、いやあ。魔王さまがそれほどに恐れる相手。尋常ではない実力の持ち主としか」


「前の会議で言っていました。白とか金銀の明るい系の装備をしていて強い」


「それで、人間たちを率いる存在ってことだけですな」


「おいっ、側近よ!

 お前は知ってただろ! ちゃんと配下に周知徹底させてねえじゃねえか!」


「いやいや、私だって知りませんよ。なんか昔、魔王さまの読んだ物語に出てきたってだけですよね」


「あ、あれ?

 有名じゃないのっ!? 魔族の子どもたちは、みんなアレを読んで大人になるんじゃないの!?」


「少なくとも私は知りませんね」


「僕も知らないよ」


「右に同じくですな」


「某も存じ上げません」



「え、えーー……」

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