WINDUM
0.
―――その世界には龍がいて、神とあがめられていた時代があった―――
―――いつからか、彼らの神は龍ではなくなって―――
―――いつからか、龍たちの居場所は少なくなっていった―――
―――いつからか、彼らは人間に憎しみを持ち―――
―――いつからか、この悲しい戦いが始まった―――
1.
満月の夜の森を少年と少女が駆けていた
「はぁっ はぁっ はぁっ はぁっ」
息を切らせて二人は走る
その背中には燃えさかる街を背負いながら
「いたぞ!逃がすなっ!!」
そんな彼らを武装した集団が追いかけてくる
森の中では馬を使うことができず、重い鎧を引きずりながら彼らは二人を追いかけている
「はっ はっ はっ っきゃぁ!」
少女が木の根に蹴躓いて転んでしまう
「大丈夫か?アリス?」
少年は立ち止まって手をさしのべるが
「さぁて、追いつめたぞ」
その間に彼らは重装の兵たちに囲まれていた。
「くそっ 囲まれたか・・・」
じりじりと兵たちがにじり寄る。そのときだった
アリスが兵たちの前に出て手を振りかざした
「llt intis」
アリスが奇妙な言葉を発するとその突き出した手から幾条もの光の矢が飛び出し兵たちを次々と穿った。
「アリス・・・」
「行こう。ロウファ」
少年と少女は再び走り始めた
2.
彼女は幼少の頃から特殊だった
「toon ltl」
彼女がそう呟くと彼女の目の前を飛んでいた蝶が突如真っ二つになって地面に落ちた。
動物の言葉を理解し、火種もないのに火を生み出し、水源もないのに部屋を水浸しにすることもあった。
少し成長して、彼女はこの特殊な力を制御できるようになった
そして図らずも様々な人の注目を浴びることになった。
連日押し寄せるのは興味本位で訪ねてくる学者や貴族。
そんな彼らが嫌になって、彼女は力を制御することを忘れていた。
「rod sed」
彼女が呟いたのは闇の刃野次馬どもの返り血を浴びて、彼女は立ちつくしていた。
この事件以来、彼女の家には野次馬は一人も来なくなった。
というか、誰も来なくなった。ただ一人をのぞいては
3.
目が覚めた。
思い出したくもない記憶
全ての始まりの出来事
嫌な汗をかいていた。
「っと・・・」
状況を確認する。ここは何処だろう?確か、昨日は・・・
「アリス、おはよう。」
彼が奥の方から出てきた。私はまだ夢を見てるんだろうか?
違う。私たちは逃げてきたんだ。この森の中の小屋まで。
「おはよう、ロウファ」
「心配したよ、うなされていたから。」
「うん、大丈夫。それより、」
いつまでもここにいるわけにはいかない
ここには食料がないから。
私たちは再び森の中を手探りで進んでいく。
4.
彼には幼なじみが居た
ちょっと いや、かなり変な娘だった。
彼女が何か呟くと必ずありえない超常現象が起きた。
周りの人間が気味悪がっても、彼はずっと彼女のそばにいた
「だって、アリスはアリスじゃんか」
そういってずっと彼女のそばにいた
彼女がその力が制御できるようになったときも彼は自分のことのように喜んだ
彼女が野次馬共を殺したときも、返り血を浴びて涙を流す彼女のそばに居て、彼女を諭した
「アリスは悪いことをしたと思ってるんだろう?これはいけないことだって、わかっていたんだろう?」
「やってしまったことはしょうがないから、後悔なんかしてもしょうがないじゃんか。大事なのは反省して、もうやらないって誓うこと。アリス できるよね。」
それから誰も寄りつかなくなった家に彼は毎日のように現れた
「アリス、おはよう。」
5.
「アリス、おはよう。」
何となくあのときのことを思い出していた。
街の誰もが彼女を「悪魔」だの「魔女」だのと呼ぶようになってからも僕は当然のように彼女の元に行った
そして、街が焼き討ちにあった。アリスの強大な力を求める者が居た。
僕はアリスをつれて逃げ出した。
そしてこの森の中の小屋にたどり着いたんだ。
「おはよう、ロウファ」
アリスは自然に僕に挨拶を返してくれる。
「心配したよ、うなされていたから」
きっとアリスもあの日のことを思い出していたんだろう。
あの日、僕がアリスの家に行ったとき、5.6人の死体の前でアリスは真っ赤になって泣いていた。
あれは忌まわしい記憶
忘れたいけど、忘れてはいけない記憶。
アリスと僕は小屋を出た。もっと もっと遠くに行かなきゃ。
6.
「まだ、捕まえられないのか?」
荘厳なる神殿の最深部。謁見の間である。その座に座る男・・・つまりこの国の王はみるからに怒っていた。
「一体何をやってるんだ貴様らは!!」
「娘一人捕まえるのにどれだけ時間をかけるつもりだ!!」
兵たちは言葉も出ない。王の怒鳴りが終わるのを静かに待っていた
「いいか?今度しくじったら覚悟しておけ!!」
「いつまでそこにいるつもりだ?さっさと行かないか!!」
「は、はっ!!」
兵士たちを追い出すと王はため息をついた
「まったく、どいつもこいつも役立たずだから困る・・・」
「王よ。」
凛とした女の声が響く。
背の高い女性が王座の前に立っていた。
「お困りのようですね。」
「あぁ、ティナか・・・。」
ティナと呼ばれたその女性は王に言った
「よければこの私がその娘の捕獲にあたりましょうか?」
「うぅむ・・・そうだな、。兵士共はアテにならないからな。頼む。」
「報酬は?」
「・・・このくらいで、どうだ?」
王は指を2本たてる。
「結構。では、行って参ります」
「うむ。良い成果を期待しているぞ」
7.
二人は森の中を歩いていた。
二人は森の中を
深い深い森の中を歩いていた。
もはや二人はふらふらだった
もう何日も何も食べていないのだ。
「・・・大丈夫?アリス」
「・・・大丈夫じゃないかも・・・」
「頑張って。もうすぐだから」
「・・・」
沈黙のまま二人は歩く
そんな二人に光が見えた。
「あら?ニンゲン?」
8.
私は夢を見ていた。
懐かしい夢
そこにいるのは私と
お母さんと
?
誰だろう?この人
「オマエナンカウマレテコナケレバヨカッタノニ」
え?・・・お母さん・・・?
あいつがちかづいてくる
ソイツハワタシニソノツルギヲツキタテ
「・・・!」
目が覚めた。意味が分からない
懐かしい感じがした
でもありえない
ソノユメデハタシカニワタシハ
「あらあら。目が覚めたの?」
アリエナイアリエナイ
ナゼアンタガソコニイル?
「あ・・・っ・・・!!」
「目が覚めた?アリス?」
ロウファ!?
「あぁ、アリスこの人の名前は・・・」
「・・・ィティ・・・」
「?・・・この人の名前はティナって言うんだ、アリス」
チガウ
チガウチガウチガウ
ソイツハソンナナマエジャナイ
「・・・エィティ・・・!!!」
わたしはヤツの名前を叫び、続いてヤツヲコロスタメノコトバヲ
「toon sltils gg to sed nn fr ・・・」
「わわ!?ストップストップ!!アリス!やめるんだ!!」
ロウファが私を止めに入る。
それでやっと私は我に返った
「・・・あれ?」
目の前に立っているのはエィティなんかじゃなくて・・・
「・・・あ・・・ぅ・・・?」
「えと・・・誰?」
呆然としている私を見てロウファはあきれかえっていた
「だから、ティナさん。エィティって誰だよ?」
「ごめん・・・なさい・・・ぇと、ティナ、さん。」
「いいえぇ気にしなくていいのよ。あなた、うなされていたみたいだったから、きっとその夢と混同しちゃったのよ。」
そうか、そう考えることもできる。でも、あのときと同じ感じがした・・・
9.
空腹で倒れてしまった僕たちを助けてくれたのはティナさんだった。
僕らはティナさんのすむ森の中の村の近くで倒れていたらしい。
ティナさんは僕らが目を覚ましてすぐ、料理をしてくれた。
僕らは何日かぶりの食事を満喫した。
「それで、なんであんなところで倒れていたのかしら?」
食後、ティナさんは僕たちに問いかけてきた
「ぇと・・・。」
僕は全ての事情を話すことにした
「ぇと・・・。」
10.
アリスには幼少から不思議な力があった。
人の言葉ではない不思議な呪文をアリスが唱えると世にも不思議なことが起きる
その能力に気づいた街の人々は代わる代わるやってきてアリスの不思議な力を見たがった。
でもある日、アリスはその不思議な力でその街の人々を数人
殺してしまった
それ以来、彼女のところには誰も来なくなったが、ある日王国から、彼女に使いがやってきた
「君の力は我が国の大いなる戦力になる。」
軍への誘いだった
アリスは断った
「私の力はそんなことをするためのモノじゃないはずです」と。
その1週間後、その街は軍によって焼き討ちにあった
アリスを獲得するために強硬手段に出たのだった。
そんななか、僕とアリスはこの森へと逃げ出してきた。
「・・・。」
僕が話し終えてティナさんは黙っていた。
少ししてティナさんが喋り始めた
「確認するわ。アリスちゃんはその力で、人を殺したことがあるのよね?」
「・・・はい・・・。」
僕はうつむき加減に答えた。
「ちょっと、アリスちゃんにその力を実演して見せてくれないかしら?」
「わかりました。」
ずっと黙っていたアリスはそういって、先ほどの食事に使ったフォークを取り出した。」
「toon sed」
アリスが呟くと、フォークは縦に真っ二つになった。
「・・・ふむ。」
「やっぱり、ね。その力は龍言語による魔法、ってやつね。」
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も」
ティナさんの体が突然ふくらみ始める
「ここは龍族の村で、私達は龍族だもの」
そう言ったティナさんは美しい翼と炎の角、人魚のようなヒレを持った龍だった。
11.
その姿は神々しくもあり、また恐ろしくもあった
でも、私は確信していた。ここならかくまってもらえると。
しかし
「なるほど、王国が欲しがるだけのことはあるわね・・・」
彼女は突然顔をゆがめ、私を向いた
「残念だけどね、今、龍族は王国軍に全面協力しているのよ。」
一瞬にして砕かれる淡い期待、そして襲いくる大きなテキ
「llt intis」
反射的に私は”魔法”を放つ。が
「llt sld」
私の”魔法”はティナの”魔法”に消され
ごっ
後ろから何者かに襲われて、私は気絶した。
12.
ティナさんが龍になったのを合図にしたかのように玄関側から
もう一人龍が入ってくる
そして僕の目の前で堂々とアリスの後頭部を殴り、彼女を気絶させた。
「ってめぇぇ!!」
僕は護身用の剣で、そいつに斬りかかる。がなんなくかわされる
何度も何度も斬りつけるが当たらない。
「ティナ、こいつはどうする?」
「そうね、そいつはまだ使い道がありそうだし、一緒に送っておきなさい。」
「了解〜」
避けながら会話をし始めるそいつに腹が立つ
「てやあぁぁぁぁ!!」
そして渾身の一撃が
かわされ、
今度は僕が殴られ、
アリスと同じように
意識を失った
13
気がつくと
私は地下牢の中にいた
「・・・ったぁ。」
石床に身を横たえていたからか体中が痛む
「お目覚めかしら、アリスちゃん」
聞き覚えのある声 んと、
ティナ。私達をだました張本人
いや、だましたと言うか うん、確か、
そうか。私が勝手に勘違いをしていた。こいつは最初から敵だった
「あら、そんなに怖い顔をしないで頂戴。別に今はあなたに危害を加えるつもりはないの。」
あいつは不気味な笑みを浮かべる。
頭にくる
こいつは
アイツニニテイル
「gld sied」
無意味と知りながらもこの怒りを抑えられず魔法を放つ
ヤツはそれを簡単にはじく。
「乱暴ね、今は話し合いをしにきただけだというのに。」
「話し合い?。」
「そう、話し合い と言っても これは取引に近いけど」
表情は無表情 だが目は笑っている。
「単刀直入に言うわ 私に、正確には国家に協力なさい。」
「それは、私に国王の私利私欲による殺し合いに参加しろと言うことかしら?それなら断るけれど。」
彼女は突然表情をゆがめる。
「残念だけどあなたに拒否権はない。言ったでしょう。取引だと。」
「近いとしか言ってないんじゃない?」
「あなたが協力を拒否するというなら、彼が死ぬことになる。」
奴が指さした方を見る。
ロウファが
鎖につながれて、うなだれている。
彼は気絶しているようだった
「・・・。」
こうなると私には選択肢は一つしかない。
「協力・・・すればいいんでしょう。」
14
気がつくと
僕は見知らぬ部屋にいた。
「あ、・・・ん・・・。」
中々覚醒しない意識 怠けた全身からかなり時間が経っていることが予想された。
外を見れば、そこには
戦火が広がっていた。
かなり高い位置にあったらしいこの部屋から見えるのは広大な大地と人の死骸。戦火と呼ぶのは間違っていた。これは
虐殺
ニンゲンというニンゲンを虐殺
全て滅殺そして略奪
あぁ、今日もまた一つ街が消えた。
僕の居る部屋は王城で、虐殺の元凶地
故にそこは絶対安全。故にそこは
「逃げなきゃ、だな。」
僕が居てはならない場所
部屋の扉を開ける
警備一つない廊下。僕を逃がすかのように閑散としている。
僕は逃げ出した。
そういえば、何か
忘れているような・・・。
15
殺した
沢山のニンゲンを
殺して 殺して
殺しまくった
何匹殺したかも覚えていない
ただ、何かのために
殺し回った
「何の 為だったかなぁ」
独りごちる
私は何かのために殺しているのは確かなんだけど
何のためだったかが、思い出せない。
「まぁ、いっか」
ここに居る龍達は私によくしてくれているし、ここのニンゲン達はまだ殺さないことになっている。
私の仕事は殺戮
そして今日も・・・
「アリス、準備はいいかしら?」
「OKだよ、ティナ。」
なにか譲れない琴線があった気がするけれど
思い出せないから 今は いいや
16
走っていた
ここが何処かも分からず
ただ、あの虐殺から
あの城から逃げるべく
走っていた
「いつかも、こうやって走ってたなぁ。あれは何でだったけか?」
「そういえば、あのときもこんな風に迷ってた気がする。」
森の中
右も左も前も後ろもまったく同じ光景
完全なる迷子だ。
「・・・とりあえず 歩こう。」
手探りに森を歩く。深みにはまっていくような感覚に襲われ
すぐに立ち止まる
「・・・さて、これからどうしようか・・・。」
考えること数分
「・・・とりあえず寝床、それから食料」
結論 以上
こうして僕のサバイバルが始まる
数時間後
「・・・ハラ 減った。」
収穫ゼロ
そしてあまりの空腹に僕は気絶した
「あぁ・・・前にもこんなのあったなぁ・・・。」
17
怪しげな地下室
ろうそくの灯りと魔方陣
その中心に一人の少年
「smn as hr g tt drgnkr cc」
彼は呪文を唱え続ける
「a i mc a hlt in trts ard o kks y hstr」
ろうそくの灯りが揺らぐ
密閉されているはずの地下室に風が吹く
「t da ktg a slmra fr rat sn」
少年の目の前に少女が現れる
「・・・この人が・・・ドラゴンキラー?」
少女は少年の目の前で活発な笑みを浮かべた。
18
強烈な嘔吐感に思わず口を押さえる。
目の前にはニンゲンの山
ニンゲンだったものの山
私が作り上げた山
なんで私はこんな事してるんだろう
なんのために私はこんなにニンゲンを殺して居るんだろう
わからないわからない
それが理解できなくて
その意味不明がこの死体の山が
嘔吐感を作り出す。
私の顔をティナがのぞき込む
「大丈夫?」
彼女の顔を見て、私は少し落ち着いた
「ん、なんとか。」
そして私は
目の前に愚かな生物に
魔の刃をつきたてる・・・
19
「ねぇ、起きて」
「・・・?」
だれかが僕を起こす声が聞こえる
誰だろう?
ぇと
「あ・・・ぅ・・・?」
だれかの名前が思い浮かんだ気がするけど口に出す頃には忘れていた
「っ!」
飛び起きる
「あれ・・?僕・・・?」
「あなたは森の中で倒れていたところを私に助けられたんです。ちゃんと感謝してください。」
目の前には、年端もいかなそうな少女
「・・・ん、助けてくれたって事だよね。それは感謝。で、誰?」
目の前の少女は微笑んで
「私はルーン。あなたは?」
言って、僕の寝ていたベッドに腰掛けた
「僕はロウファだ。」
そう答えた
「そう、じゃぁロウファ君、お食事出来てるから、こっちに来てください。」
僕はルーンに呼ばれて食堂に入っていった。
20
「この人が・・・ドラゴンキラー?」
もっとごつい感じの野郎を想像してた僕は呆気にとられていた
「いかにも、私こそが最強最速のドラゴンキラー、シンシアよ。」
って本人が言ってるから多分そうなんだろう。
「はぁ・・・。」
「む。信じてないな。証明してあげるから、なんかない?」
なんか膨れてるし、この娘、大丈夫なのかな?
そんなことを思いつつ、なんかないと言われたので自分の護身用の剣を取り出して渡してあげる
「ん、よし。」
そして彼女はそれを
曲がりなりにも鋼鉄製の剣を
指ぱっちんで
粉々に粉砕してのけた
「・・・。」
またしても呆気にとられる僕
「どうよ。納得した?」
僕は頷くしかできなかった
21
何故だろう
何故こんなにも涙があふれるのか
悲しみではない
喜びでもない
これは
禁忌を犯してしまったときの
贖罪の涙
私は
ニンゲンを殺しながら
今も泣き続けている
意味も理由もわからずニンゲンを殺す
意味も理由も分からず涙を流す
私は壊れてしまったように
泣き
コロス
22
で、僕は食堂で食事を終えてゆっくりしていた。
するとルーンが入ってきて僕の向かいの席に座った
「あなた、えっと、ロウファ君。突然で悪いのだけれど、
あなたは、何か大切なことを忘れて居るんじゃない?」
本当に突然だったので少しあっけにとられた
「そんなことないと思います。大体、大事なコトってそう簡単に忘れないでしょう?」
至極一般的な答えをする僕
でも、僕の中で、何か納得できないモノがモヤモヤと揺らめき始めていた。
「なんで、そんなことを聞くんですか?」
逆に僕が質問してみる
「そうね、なんとなく。ではだめ?」
「いいですよ。なんとなく、ですね。」
「ところで、君はこれから行く当てとかあるの?」
行く当てか・・・あったような、なかったような・・・
「・・・いや、実はないんです」
するとルーンはほほえんで
「やっぱりそうなんだ。じゃぁ、しばらくはここで面倒見てあげる。」
そういって彼女は僕に笑ってくれた
23
「で、クリス君は、これから何処に行くつもりなの?」
僕の隣を歩いているのは僕が召還した天下無敵のドラゴンキラー様。女の子で年の頃は17くらいだろうか。だが僕より背が高い
「ドラゴン討伐の最終防衛ライン、みたいなトコ」
「ふーん・・・。」
龍族と王国が連合してから、共和国の人々はあっという間に窮地に陥っていた
共和国は龍族の森と王国に挟まれているから、両側から攻め込まれたのだ
どちら側からも龍族が攻めてきたのは言うまでもない
そして、この森の中の村は龍族に対する最終防衛ライン。古代魔法や、龍言語が古くから残っている村で、共和国の丁度中心アタリに位置するさきほどの儀式は村から少し離れたところでやっていた
そんな話をシンシアにしている間に僕たちは村に着いたのだった。
24
コロシテコロシテコロシテコロシテナイテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテナイテコロシテコロシテコロシテ
コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテナイテナイテコロシテコロシテナイテコロシテコロシテコロシテ
コロシテナイテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテナイテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ
コロシテコロシテコロシテナイテナイテコロシテコロシテナイテコロシテコロシテコロシテコロシテナイテコロシテコロシテ
コロシテコロシテコロシテナイテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテコロシテナイテ
ナイテコロシテコロシテナイテ
25
がちゃりと
玄関が開く
向こう側から見知らぬ人が二人、男と女
「ん、クリストファ君、お帰りなさい。そちらは?」
どうやらルーンの知り合いらしい
「クリス君、こいつら誰?」
女の子のほうが素っ気なく言った
「ぇっと。この娘は一応ドラゴンキラーのシンシアさん
で、ぇと、そちらの女の人が、この最終防衛ラインの現管理者のルーンさん。で、そっちの男性の方は・・・?」
「ロウファです。行き倒れ掛けたところをルーンさんに助けてもらいました」
自分から答える。それよりも
「あなたは、誰?そして、そちらドラゴンキラー?って何」
聞きたいことがあった
「その辺は私が答えようかな。」
ルーンが口を開いた
「こちらはクリストファ君。召還や、創造魔法に通ずるすごい人、で、ドラゴンキラーって言うのは過去の英雄で、龍族をたくさん倒せる人のこと。」
「ぇと・・・魔法・・・?って龍言語魔法じゃなくて?」
ティナがありすにそんなことを言っていたのを思い出す
「そうね、似たようなモノね、龍言語にあるのなら人間言語にも魔法があってしかるべきでしょ?」
そして、いろいろな話を聞いた。龍族と王国軍の共闘
両側から攻められた共和国軍、そして、ここが最終ラインで、人間言語魔法を使える三人とドラゴンキラーの四人がこの戦争の最終兵器であること。
「三人?三人目は誰ですか?」
「三人目はこっちのリア。」
どこからかリアが出てきて僕にお辞儀をしてくれた。おとなしそうな娘だ。
「で、君はどうするんだい?」
クリストファが突然聞いてきた
「え・・・何を・・・?」
呆気にとられて聞き返してしまった
「何ってここまで話を聞いてしまったうえで、ここでかくまわれるか、ちっとは協力してくれるのかと聞いて居るんだ」
よかったそれなら話は早い。
僕の答えは決まっていた
「僕もともに戦わせてほしい。僕には守らなきゃいけない人がいた。でも、今は王国軍に捕らわれている。彼女を助け出したい、いや 助けなきゃならない。僕はそのために強くならなくちゃいけないから、あなたたちと共に行きたい。」
やっと思い出していた
ルーンが前言ったとおりだった
僕は何故こんな重要なことを忘れていたんだろう
とにかく僕は思い出した
僕は戦う
「―――他でもないアリスのために―――」
26
「ひぃっ!だ、誰か・・・助けてくれぇぇぇ!!!」
―――ざしゅっ―――
一匹
「ああぁぁぁぁぁああ!!!いやだぁ!死にたくなっ!」
―――ずばっ―――
また一匹
「この・・・悪魔・・・め・・・」
―――ずぶずぶ―――
もう一匹
今ので合わせて何匹だったかな
っと
127852匹か・・・
あと、何匹かな・・・
あはは
あははは
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
はははははははははは
27
「・・・共和国軍側の被害は一般人含め50万人を超過」
リアから聞かされた滅茶苦茶な被害状況。
バンッッ!!!
「じゃぁ、なんであなたたちはずっと、ここで待機しているのさ!そんなに、被害が出てるのに・・・」
僕は怒り、その怒りを机にたたきつける
ガンッッ!!!
向かいから同じように机を叩く音
「僕たちだって、他を見殺しにしたかった訳じゃない!!僕たちは万全の状態で戦わなきゃならないんだ。僕たちは、負けるわけにはいかないんだから・・・!!!」
クリストファが涙しながらそう叫んだ。
そうか・・・最終防衛ラインって、そういう意味か。
彼らの負けは共和国の負け。だから、他の誰が危機に陥っても自分達は準備を進めないといけない。負けられないから、勝つために、仲間を見殺しにして
「負けたらもっと人が死ぬって自分に言い聞かせて、見て見ぬふりをしなきゃいけなかったんだ!おまえに何が分かる?こんな僕たちの何が
おまえに分かるって言うんだ!!!」
一瞬の沈黙
「ごめん・・・」
僕には謝ることしかできなかった
「本当に・・・ごめん」
「もう、いいよ。僕も、怒鳴ったりして、悪かった」
クリストファが静かにいった
「・・・」
しばし沈黙
「ロウファ君。」
ルーンが口を開いた
「あなたは強くなりたいんだよね?」
「ぇ、はい。まぁ・・・」
「ちょっとついてきて。」
ルーンはそう言うと、村外れの森の中の怪しげな洞窟に入っていった
クリストファがシンシアを召還した、あの場所である
「ロウファ君。これから、君に短時間で強くなってもらわなきゃ行けない。この方法はかなり荒っぽくて危険で、相当強い心が無ければすぐに根を上げてしまう。それでも、やりきれる?」
つまり、ルーンは
引き返すなら、今のうちだ
と言っている。でも、僕の答えは一つ
「そのくらいでなきゃ、やる意味はないでしょう?」
余裕の笑みすらくれてやる。
固い決意
もう迷わない
僕は絶対強くなる。
28
「gt oe fr fst to fif・・・」
ルーンが呪文を紡ぐ。
今は何も出来ない僕は意味もなくこの儀式場の天井などみつめてみる。
「t s h dy cov on・・・」
そろそろ詰めのようだな、ルーンの目の前に光の束が収束していく。
「th wld」
光の渦が儀式場の中央に出現する。
「さぁ、ロウファ君、あの光の渦に入ってください。」
つまりそこが、僕が強くなるための練習場。
僕はためらいもせずに、その中に入っていった。
「ロウファ君―――君の想いに栄光あらんことを―――」
光の渦の先にあったのはモノクロの世界
その中心に立っているのは一人の少女。
「・・・君は・・・?」
少女は目を閉じて佇んでいる。
―――ゆっくりと、その目が開かれる―――
「わたしはヒトの創りし神や信仰、あるいは聖なる、あるいは邪なるもの達の王。ここはヒトの創りしモノの世界『第5世界 ルカンタ』」
「は・・・?何・・・?」
全く意味が分からない。何を言っているんだ、この娘は。
「あなたにも分かりやすく言うと、私は『起源王 オリジン』
ここは、『伝承そのもの』と言える」
「起源王、オリジン・・・?」
「そんなことより、強くなりたくて来たのでしょう?なら、無駄話をしている暇はないと思うけど?」
そうだった。無駄話をしている暇はない。
「それじゃぁ、しばらくよろしく。オリジン」
「途中で音あげたりしないでよ。もし音を上げたらそのときは―――」
あたりの空気が変わる。まるで天使の堕天のように
そしてオリジンは目を見開いてはっきりと言った
―――殺すから―――
29
「本当に送ったの?」
クリス君に聞かれた
「えぇ、『起源王オリジン』英雄の、神の、死神の、魔王の王
ヒトの幻想の全て。その元へ」
「はっきり言って、アイツ帰ってこれると想う?」
「無理でしょうね。ふつうに考えて」
あっさりと言い切る。『起源王の修行』は人を英雄クラスの強さに昇華させるらしい。らしいと言うのは、未だかつて誰一人としてそこから帰ってきた者は居ないからだ。
「敵襲。ノーランクドラゴンが10体、ルビーランクドラゴンが1体。」
リアが無感情に報告してきた。
「そのくらいなら、シンシアさんに任せて大丈夫かしら?」
ずっと脇の方で筋トレに励んでいる一見華奢な少女に目配せをする
「雑魚が11匹でしょ?2分もあれば十分かな。」
「そうか、じゃぁ行ってきてもらっいいかな。」
「おまかせ♪」
シンシアが出て行く。
そしてきっかり2分後、彼女は事も無げに帰ってきた。
「たっだいま♪」
「早かったね。お疲れ様。」
クリス君がねぎらう。
実際シンシアが来てからここまで進行してくる龍は撃退しやすくなった。彼女は私たちよりもぜんぜん強いから。
まぁ、龍達がここまで攻めてくるようになったのは、ごく最近のことなのだが・・・
「急がないとね・・・」
私は誰にともなくつぶやいた。
30
「メイス城が陥落した。これで実質残ってる戦力は私たちのみ」
リアの報告はいつも無感情だが、今回も例外ではなかった。
「そう・・・もう、行くしかないかしらね・・・。」
ルーンの表情が険しくなる。
「そうだね。表向きの国の中心であるメイス城が陥落した今、敵の戦力も一つどころに集まっているはずだ。」
クリストファはその手に皮製で指空きのグローブをつける
「敵戦力はどのくらいかしら?」
シンシアはもう準備万端のようだ。
「敵戦力は人間兵2000 ルビーランクドラゴン5 サファイアランクドラゴン5 ゴールドランクドラゴン3 プラチナランクドラゴン1」
リアは黒いローブを身にまとう。
―――そして、4人は集落を後にした―――
31
「・・・ねぇ、オリジン。僕たちはどこに向かって歩いているの」
痺れを切らした僕が口を開いた。もうかれこれ3時間は歩いてるんじゃないかと思う。
「まずは武器を選ぶ。あんたに最も適した武器を選定する。」
「それ、同じこと2回言ってないか?」
何気ないツッコミ。しかしどうやら彼女の癪に障ったようだ、持っていた鎌を突きつけられる
「うるさい。だまりなさい。」
しばし沈黙
それから30分は歩いた。
「着いた。」
そういってオリジンは立ち止まる。
目の前に広がっているのは武器庫だった。何千何万という単位の武器が格納されている。
「・・・ねぇあれって・・・エクスカリバーって剣じゃない?」
それだけじゃない。僕の知りうる限りの英雄武器がそこにはすべてあった。
「そう。ここはただの武器庫じゃない。ここにあるのは伝承となった武器たちの倉庫。・・・こっち。」
また歩き出すオリジン。さっき着いたって言わなかったか?
そして、隣の部屋
今度の武器庫はよくわからない武器たち。英雄武器のように見えるが心あたる武器が何一つない。
「ここにあるのはまだ伝承にない武器たち。自分の英雄を待っている武具。」
「選びなさい。あなたの武器を、本当に適した武器は、武器のほうから呼んでくれるわ。」
「・・・はぁ。」
そして武器選びを始める。
どれがいいかな・・・やっぱり剣?いやでも・・・
そのときこのモノクロの世界でたった一つだけ色のついた武器があった。装飾のついた大槌。
・・・大槌って・・・趣味じゃないんだよな。
僕はこともなげに無視することにした。そして手元にあった三叉槍を手に取る。
「・・・じゃ、これ。」
「そう、それでいいのね。じゃぁ、次の場所で鍛えてあげるわ」
そういって彼女はまたてくてくと歩き始めた。
32
「早く来なさい。ノロマ」
てくてく歩いてる割には異常に速い速度で歩くオリジンがそんなことをのたまいはじめる。
「ノロマじゃないよ。オリジンが速すぎるんだ」
「ノロマはみんなそう言う。」
そうしてまた彼女はてくてくと歩き始めた。
「・・・それで、いつ着くのさ?」
「そうね、あと12時間くらいかしら?」
「12時間!?まさか、休憩無しで行く気じゃないだろうな?」
僕はそのあまりにもありえない数字に思わず声を荒げる。
しかし、オリジンは平然と
「そうよ。あたりまえじゃない。」
なんて言ってのけた。
結局
本当に休憩無し、飲まず食わずで歩き続けた・・・21時間
「・・・なぁ・・・」
僕はこの苦行に息も絶え絶えになりながら最後の言葉をつむぎ始めた
「おまえ・・・アバウトすぎ・・・」
ぱた
倒れる僕
ぐし
踏まれる僕
「寝るなーまだ半分も来てないぞー。」
ぐりぐり
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!。わかった!わかったから足退けてぇぇぇ!!!」
しばらくのた打ち回る僕。
しょうがないから立ち上がる僕
・・・ってゆーか
「半分も来てないって、12時間で着くんじゃなかったのか?」
「私の足ならね。あんたがちんたら歩いてるからこんなに時間がかかってるじゃない」
「・・・あぁ、そうですか・・・やれやれ。」
そういってまた歩き始めるのだった。
33
メイス城前、4人は信じられない光景を眼にしていた。
「・・・何・・・コレ・・・?」
そこにあったのは虐殺だった。
人間達が、下級の龍たちが、もはや原型すら分からないほどに・・・
「・・・」
思わず口元を押さえるリア
そして殺戮の中心には、一つの影
「・・・女の子・・・!?」
クリスが眼を細める。
そこに立っていた影の姿がはっきりと写る
紅い紅い返り血にまみれた一人の少女。
少女はゆっくりと振り向く。
自我の失せた瞳、静かにたたずむ少女の周りを邪なるオーラ
が包む
彼女の口が静かに開かれる
「ニンゲン・・・コロス。」
34
「ほら、着いたわよ。」
オリジンが振り返る。
僕は突っ伏していた
ぐし
ぐりぐり
頭を踏みつけられる
「・・・返事がない。ただの屍のようだ・・・」
踏みつけられながらそんなことをのたまってみた
すっと
オリジンの右足が頭の上まであがる
シュッ!!
踵が落下する。重力加速度など、比にならない速度で・・・!
ドォォォォォォンッッッッッッ!!!!
その放たれた殺人的踵落としをギリギリでかわす僕
「なんだ、生きてるじゃない。」
立ち上がる僕
「・・・くそぅ、ばっちり見えたじゃないか・・・。」
「・・・何が・・・?」
オリジンは気づいてないようだった
「服は黒尽くめなのに中身は白いん・・・」
ビュンッッ!!
何かが僕の頬を掠める。
冷や汗が滴り落ちる。
「何が見えたって?」
冷ややかに、死神のように笑いながらもう一度問いかけるオリジン
「何も・・・見てません」
「・・・よろしい。」
「で、着いたって・・・何処に?」
やっと話を本線に戻す。
「何処って、修行場。」
さらっと答えるオリジン
そこにあるのは大きな建物
「ほら、入るわよ。」
「あ、うん。」
そうして僕たちはその建物に入っていった。
中で僕たちを迎えたのは一人の男性
「ようこそ、記憶の図書館へ。いや、なんだあんたか。創成王。」
「それは王に対する態度なのかしら?まぁ、いいけど。」
二人で勝手に話が進んでいく。僕は呆然と立ち尽くすしかできない。
「今回はあいつか・・・?素質があるようには見えないが・・・。」
「でも、ちゃんと空の武器を選んできたわ。」
「そうか、まぁ、やるだけはやってみるか・・・」
お話が終わったようだ。
「じゃぁ、はじめるわよ。けどそのまえに一つ教えておくわ。」
「人の強い想いは力になる。でも力になるのは本当に強い想いだけ。あなたが持っているのは『空の武器』。槍のような形だけれども、今はたまたまその形をしているだけ。
あなたの想い次第で、強くも弱くも、また剣にも盾にもなりうるもの。
想いが武器に届いたとき、その名前を呼びなさい。それが、あなたの力になる。」
最後に彼女はなぞの言葉を口走った。
「さぁ、悲しみなさい。その『深い暗い闇』の中で」
35
気がつくと僕は、見知らぬ街の裏通りにいた。
「もう、修行が始まっているのか・・・?」
すると、向こうから人影が現れる。
男が数人、そして小さな女の子を抱えている。
「・・・人攫いか・・・?」
僕の姿を確認した男たちは少し動揺して見えた
「てめぇ、運が悪かったなぁ・・・」
「悪役くさいセリフ。消えてもらうとでも言う気か?」
一応武器を構えてみるが、僕は元々一般人の出だから、初級護身術程度しかできない。でも、逃げるわけにはいかなかった。
女の子がこちらを見ているのだ「タスケテ」と。
その姿をアリスと重ねている僕がいた。
「・・・絶対に・・・守る。」
しかし
僕の構えの隙を突いた男が僕を蹴り飛ばす
そして、もう一人が手に持った剣で。僕を袈裟懸けに切り裂いた。
「フン、雑魚が・・・行くぞ。」
あぁ、僕は弱い
思い知らされた
そういえば、
アリスを守るなんていいながら、
僕は全然、守れてなかった
悔しさがこみ上げる。
血をだくだくと流しながら、僕は泣いた。
そして、そのまま意識は混沌へと落ちていった。
36
またか
また僕は助けられない
弱い弱い
僕はなんて非力
未だ誰一人守れない
自分すら守れない僕に
強くなる資格なんて・・・あるのかな?
今も目の前で、罪もない女の子が断頭台に押さえつけられている
もういやだ
こんなのもうみたくない
刹那
僕の脳裏に焼きついた言葉が蘇る
『おはよう、ロウファ』
そうだ、
その日常のために
アリスを
守る
目の前でギロチンが罪なき娘を断頭すべく落下する。
僕は手に持った槍を投げ、そして叫ぶっ!
『GALDIS!!』
瞬時、ソレは断頭台から少女をはじきだす!
僕の右手にソレが帰ってくる。そして左手には少女を抱える。
わかる
力を感じる
せまりくる、多くの敵が
今はまったく怖くない!!
『RAWRIA!!』
再び槍の姿をとったソレでせまりくる敵をなぎ払う。
まだだ、
まだ、終わらないっ!!
今はこの娘を守るための
これからアリスを守るための
僕の力が解き放たれる―――
37
「へぇ、驚いたなぁ。複数の『ルカンタ』を同時に発現させるとは」
図書館の主が感想を漏らす
「それだけ、彼の想いが強いということだわ。」
そしてオリジンは振り返り歩き出す
「どこに行く気だ、創成王。」
「私に教えることはもうないから。そろそろ、手を下しに行くわ。」
「あの世界は 一度 無に返す必要がある―――」
38
「ニンゲン・・・コロス」
少女はその手に持った大鎌をゆっくりと右に
そして
「WINDUM」
なぎ払う
それは見えない刃となってルーン達を襲った!
「きゃぁぁぁっ!!!」
「うわぁぁぁっ!!!」
その見えない刃に吹き飛ばされる4人
しかしシンシアだけは右手を突き出し、その右手で見えない刃を受け止めていた。
「・・・。」
少女は無表情でシンシアの方を向く。
シンシアは不敵な笑いを浮かべて少女の方を向いた。
跳ぶ
シンシアが一息で少女の懐に入り込み、拳を繰り出す
ヒュンッ
しかし、少女はそれを左にかわし、鎌を薙ぐ
ガキィィィィィッッッッッ
それを左手の篭手で受け、シンシアから蹴りが飛ぶ
ヒュンッ すっ―――
しかし、それはフェイント。回避行動をとった少女に大きなスキが生まれる。
顔面に拳が叩き込まれる。
ごっ
軽い音。少女は咄嗟に首を引いてダメージを最小限に抑える。
今度は一撃を放ったシンシアにスキが生まれる。
大鎌が左から迫る。
それを左手で受けるシンシアを少女が蹴り飛ばす。
ガッッ
「ぐっっ!!」
シンシアから声が漏れる。
体制を立て直す暇もなく少女が一飛びにシンシアの首を薙ぎにかかる。
ガキィッ キィンッ
左手で受け、右手で流す
少女の前面が大きなスキになる。
「っ!!」
無音の気合
必殺の一撃を鳩尾に見舞う。
ガキィィィィっ
堅い金属音。 少女の鳩尾の前には少女の大鎌。
ガコッ
咄嗟にその大鎌を蹴って距離を置くシンシアその瞬間こそ、最大のスキだった。
「WINDUM」
距離が離れた瞬間、見えない刃がシンシアを襲う。
39
すとっ
再び図書館に戻る僕。
パチパチパチパチ
一人分の拍手と図書館の主が現れる
「お見事お見事。いやぁすばらしいモノを見せてもらいました。」
僕はまだ実感が沸かず、右手を開いたり閉じたりしてみる
「ぇと・・・。」
「今のがあなたの得た力。空の武器は英雄武器となり、あなたは、創生魔法『ルカンタ』を得た。」
全くよくわからないがとりあえずこれで終わりらしい。
「そうだ。今、どれくらい経ったんだろう。」
「あなたの世界ですか?・・・大体1ヶ月くらいでしょうかね。世界によって時の進みはまるで違いますから。」
僕の体感ではもう何年も過ぎていたので呆然としてしまっていた。
とにかく
「帰るのかい?元の世界に」
「・・・はい。」
40
「WINDUM」
見えない刃がシンシアを襲う
避けきれない。
そう悟ったシンシアは思わず目を瞑る。
ガキィィィィィィィィィンンンンッッッッッッッ
堅い金属音。
シンシアがおそるおそる目を開けると
そこには前に見たときより少し成長した背中があった。
「ギリギリセーフ。かな?」
「ロウファ君!?還ってきたんだ!?」
「ろう・・・・ふぁ・・・?」
先ほどの少女が初めて動揺を見せる。
「あ・・・。」
そしてロウファも同じように
「アリス・・・?」
動揺し始める。
「アリスってロウファ君が探してるっていう?」
「そう、アリスだ。間違いない。」
しかし少女―――アリスは再び無表情に戻り、
「ニンゲン・・・コロス」
その刃をロウファに向けた。
41
王国の王城。謁見の間
中心には国王の台座と国王。そのまえにひれ伏すのは、
プラチナランクドラゴン ティナ。
「メイス城を陥落させ、共和国側の拠点はすべて陥落しました。」
王はそれを聞いて喜びを隠せない
「そうか。これで私の天下が完成するのか。」
「いいえ。」
ティナが立ち上がる。
ゆっくりと
一歩一歩国王に歩み寄る
「これからは・・・。」
国王の首に手をかける。
「龍族の時代よ。」
ごきっ
首の骨が折れる音。
ここに
王国軍全土が
陥落した。
42
「WINDUM」
見えない刃がロウファを襲う
「GALDIA」
しかし翼の盾がそれをはじく
「WINDUM」
「WINDUM WINDM」
何度も何度も
見えない刃ははじかれて
「・・・こないでよ」
「・・・こっちに・・・来ないでよ!!」
アリスが叫ぶ
しかし、ロウファ一歩一歩ゆっくりと
歩み続ける
「・・・」
アリスの目の前まで来たロウファは、アリスの顔を見た
「なんで、ないてるの?アリス。」
「・・・。」
うつむいて、何もしゃべらないアリス
「・・・。」
ロウファは待った。
アリスの答えを
「わたし・・・。」
43
「愚かな・・・。」
起源王がつぶやく
そこは世界の狭間。彼女は神のような気分で世界を見下ろしていた
―――第二世界『ソアメイス』が混沌に落ちようとしている―――
―――それは時の流れへの抵抗、無駄なあがきだ・・・。―――
―――混沌に落ちぬよう尽力したがそれもここまで。―――
―――あの世界は一度、無に還す―――
起源王は再び再びその世界に潜っていった
44
「わたし・・・。」
アリスが消え入りそうな声で話し始めた
「わたし・・・だめだったの。もうやらないって誓ったはずなのに・・・また・・・。」
涙がながれ、地面を濡らす。
「また・・・ヒトをコロした・・・今度は何人なんてもんじゃない・・・何百人、いや何万人というヒトを。」
「もう・・・わたし・・・戻れないよ・・・もう・・・だめなの・・・もう遅くて、だから・・・。」
アリスが顔を上げる
「―――コロス―――」
再び、立ち上がる。
「RAWRIA」
立ち上がったアリスの足をロウファが力ある槍で吹き飛ばす。
「アリスは・・・。」
歩み寄る。
今度はロウファが泣いていた
「アリスは・・・悪いことをしたと思ってるんだろう?」
ロウファが紡ぐ言葉はいつか、ロウファがアリスに言った言葉と同じだった。
「これはいけないことだって、わかっていたんだろう?」
アリスは無言で顔を上げる。
「やってしまったことはしょうがないから、後悔なんかしてもしょうがないじゃんか。大事なのは反省して、もうやらないって誓うこと。」
次の一言が最後
「アリス できるよね。」
アリスは
小さく
頷いた。
「あらあら。暗示、解けちゃった?。」
45
「あらあら。暗示、解けちゃった。」
街の奥から声が響く
「なんだ、使えないわねぇ・・・」
その姿がロウファ達の前に現れる。
「おまえ・・・ティナ・・・。」
ロウファが睨む。
そこに居たのはティナと4体のゴールドランクドラゴン
ティナの歩みが止まる
対峙する、6人の人間と、5体の龍
「あなた達に残された戦力はたったのそれだけ。」
ティナが言った
「おまえたちに残された戦力はたったのそれだけ。」
ロウファが言った
「これが・・・。」
二人の声が重なる
「最終決戦だ・・・!」
46
対峙する6人と5体
「お互いまず名乗り出るっていう礼儀も必要じゃないかな。最終決戦だけに。」
ロウファが口火を切る
「そうね、それもいいかもしれない。」
彼らの間には限界まで張り詰めた空気。
そして、ロウファが声高らかに叫ぶ
「僕はロウファ・フリンクトン。もともと王国の人間だけど、ぼくは龍の味方なんかじゃない。」
ティナが叫ぶ。
「私はティナ・フィーゼンブルグ・ドラグナープラチナ、神龍の名を持つ最後の龍よ。世界を人間なんかに渡しはしない。」
そして次々に
「アリス・ルータニティ。私はもう・・・迷わない。」
「僕はクリストファ・ローグ」
「シンシア・ウィングストンよ」
「リア・ホワイト。」
「そして私がルーン・サティルティ」
龍達が吼える
「風龍王スカイ・ウィル・ドラグナーゴールド」
「火龍王ツヴァイ・ランダー・ドラグナーゴールド」
「水龍王ルランダ・エミィ・ドラグナーゴールド」
「地龍王スパイト・レド・ドラグナーゴールド」
そして、戦いの火蓋を切って落とされたのだった。
クリストファとスカイ
シンシアとツヴァイ
リアとルランダ
ルーンとスパイト
そしてティナとロウファ、そしてアリスがそれぞれ切り結ぶ。
49
「gld mis」
「aqa risis」
激しい電撃がリアから、すさまじい水流がルランダから放たれる。
すでに何発と大魔法を打ち合った両者は無傷。
二人の戦いは拮抗を保ち続けていた
「・・・っ。」
しかし、リアは、魔力の反動で徐々に消耗していた。
「gld・tvi」
「aqa sed」
わずか一瞬
リアの呪文が遅れる。
その遅れは致命的な差を生んだ
電撃は水流を抑えきれずに霧散した。
水流の刃が、リアに襲い来る
50
ドォォォォン
大地が蠢き槍となす。
その大地の槍がルーンを襲う
「どうした。近づくこともできないのか?」
地龍王スパイトが叫ぶ。
「―――あなたは何に向かって攻撃してるのかしら―――」
その背後からルーンが話しかけた。
「!?何っ!」
スパイトが振り向きざまに大地の槍を放つ。がそこにはまた誰もいない。
そしてスパイトはその左腕を横に突き出した。
そこには
ルーンの姿
龍族の鋭い爪が
彼女の腹に
深くめり込んだ
51
「っ!」
クリストファが
「ゃぁっ!!」
シンシアが
「っくぅ!!」
ルーンが
「ぁぅ・・・」
リアが
倒れていく
「・・・そんな・・・。」
僕とアリス、そしてティナが睨みあっているその数分のできごとだった。
「所詮人間。進化の過程において上位である龍族にたてつくことが間違っているのよ。」
「さて、最後はあなたたちの番よ・・・。」
ティナがゆっくりと構えを取る。その構えはまるで、獲物を追い詰めた獣のようであった
ダンッ!!
大地がけられる
その音が届くころにはティナは僕を引き裂いていた
「・・・。」
「何で避けなかった? 避ける気力すら失ったのかしら?」
「・・・あぁ。」
僕は笑っていた。
それは不敵だったかもしれない
「―――この程度なら避ける必要はないだろう?―――」
52
「・・・あぁ。」
ロウファの周りの空気が変わる
私は、ただ見ているしかできなかった
「―――この程度なら避ける必要はないだろう?―――」
「RID」
たったの三文字。発音にすれば二音「りど」と。
ロウファがつぶやく。
ごう
何が起こったかはよくわからない。
けれど
黒い波動がロウファを包み
ティナを、のこりの龍たちを倒したことだけは確かだった。
静かにたたずむロウファ。その手にあるのは
漆黒の刃
「効いたわ・・・今の」
「・・・!」
ティナが立ち上がる。
「まだ、足りないのかよ」
ロウファは笑う。余裕を持って
ティナも笑う。不敵な笑みで
「そこまで。所詮そこが下等なトカゲの限界よ。」
すっと。
ティナの体の中心に一本の線が走る。
そしてそこから、
彼女は真っ二つに割れた
その後ろに立っていたのは
漆黒の少女だった。
「・・・オリジン!?」
「・・・エイティア!!」
私とロウファの声が重なる。
「久しぶりね、アリス。そしてロウファ。」
「―――そして、さよなら。二人とも―――」
52
「久しぶりね、アリス。そしてロウファ。」
「―――そして、さよなら。二人とも―――」
漆黒の少女が大地を蹴る。
黒い影がアリスにめがけ疾駆する
その手に持った大鎌が右から左へと薙がれる
ガキィィィ
「彼女に手を出すなら、僕を倒してからにしてくれ。」
ロウファがその鎌を黒い刃で受け止める。
そのまま少女を弾き飛ばす。
「・・・そう。やはりあなたもそうなのね。」
受身をとり体制を立て直す少女がつぶやく。
「あなたも『黒の意志』を継ぐものなのね・・・。」
「あぁ。」
ロウファがうなずく。
「思い出したんだ。アリスのことを思い出した時、一緒に。
僕は『黒の意志』を継ぎ、この世界を守るべき存在。」
アリスがその後を続ける
「そして、あなたは世界を滅ぼすモノ。『白の意志』を継ぐもの。」
『白の意志』を継ぐものと呼ばれた少女は笑う。
「ふふふ・・・ちょっと語弊があるかしら。私は好きで世界を滅ぼすんじゃない。ゆがんだ世界を一度、無に還すだけ。
あなたは、いや「あなた達」はいつも私の邪魔をするのよね。」
『黒の意志』を継ぐ「二人」が答える
「これが世界の在り方なら、この世界を続けていきたい。まだ、取り返しのつかないところには至っていない。まだ、この世界には見守り続ける価値がある。そうは思わないか?」
『白』が言う
「思わないわね、この世界は確実に崩壊へ進んでいたもの。」
『黒』が言う
「残念。交渉決裂ね。」
『白』は大鎌を構える
『黒』はその黒き剣を構える
53
『白』が疾駆し、『黒』が受ける
ガキィッ キィィィン
―――toon sltils gg to sed nn fr ―――
『黒』は微動だにせず、『白』の剣閃を受け続ける。
―――rknt ts frg tk swd ―――
「っ、『LIA』!!」
シュィ―――――――――
『白』が光の束を打ち出す
そのすべてが完全に不規則に『黒』に向かっていく
―――i nmd u te nn nm swd―――
「『RID』」
ォォォォォォォォォォォォ―――――――――
漆黒がそのすべてを飲み込んでいく
―――時に埋もれし太古の剣―――
『黒』の少年が下がり、『白』と同じく大鎌を持った少女が前に出る。
「『WINDUM』」
見えない斬撃を打ち放つ。
―――其の名も 作り手も知られず 消え去りし刃―――
『白』が距離を取る。『黒』は相変わらず、微動だにしない。
「・・・『RIA』」
『白』が張ったのはバリア。彼女が初めて見せる。防御行動
―――永遠の封印は今解き放つ その剣に今 名を与えよう―――
少年が一歩出る。少年と少女が同時に叫ぶ
「『DORDSED』」
歪な形の剣が現れる。
『黒』の二人がその剣を手に一歩一歩、『白』に向かって歩いていく。
大きく振り上げられる刃。
既に『白』は敗北を予感していた。
そして
振り下ろされる剣
54
真っ白な世界
僕はどこにいるんだろう。
「ロウファ・・・」
「アリス・・・」
僕らは名前を呼び合い、お互いを確認する。
そして目の前には『白』の姿。
「今回は私の負け。でも、『白』の意志は、また誰かに引き継がれるでしょう。この世界がある限り、永遠に。」
「ねぇ、僕らは何で戦っているんだろう。何で、『白』と『黒』は分かり合えないんだろう。」
「さぁ、それが運命だから―――じゃない?」
「そんなのって、 とても、悲しいことだね。私は嫌 そんな運命を独りで背負うなんて。」
「ふふ、ずるいなぁ、あなた達は勝手に二人になっちゃって、私、すごくうらやましかったなぁ」
「なら、次出て来るときには三人くらいになっちゃえばいい。」
「そうね、五人くらいいれば楽しいかもね。」
「ねぇ、あなたの名前、私聞きたいな。」
「名前、名前かぁ・・・私に与えられたのは『白』と『起源王』だけだから 、あえて名乗るなら「White Death」ってとこかしら」
「白い・・・死神か・・・。確かに世界に取ってみれば、君は死神なのかもしれないけれど。」
「そう、私は死神。世界という魂を刈り取って、新たな世界に夢を託すの」
「意志は違えど目的は同じなのにね。『白』も『黒』も、この世界を守りたい。」
「・・・そろそろ、お別れの時間かな。もう、世界にとどまることを許してくれないみたい。」
『白』と『黒』の声が重なる
「願わくば、今度はこの悲しい戦いが生まれないように」
世界が元に戻る
アリスとロウファは泣いていた。
55
それから、いくらか時が過ぎた。
人間の数は、一時は一桁にまで陥ったが、長い長いときを経て、それも増えていった。
あの、決戦の場所は今は草原になっていた。過去の遺物がところどころに転がり、遺跡と呼ばれる場所になっていた。
その中心に今も一本の剣が刺さっている。
いや、剣と呼んでいいのかと思うほどに歪な形をしているが、伝承によれば、それは確かに剣だった。
人々はこの剣をこう呼んだ。
『悲しみの剣 ドルドセッド』と
初めての投稿です。構成は中2くらいのときに考えてた奴だったり未熟なせいもあって内容がすごくぐだぐだになってます。突然ギャグはじめたりな(汗
さておき。 これ、ムチャクチャ急展開で進んでいくのでもうちょっとくらい長くしても読者の読みやすさを重視するべきなのでしょうが、JEIKJEILにはそれだけの度胸と根性、そしてサービス精神が足りません。
ですがここを読んでいると言うことは最後まで読んでいただけたと解釈して、おつきあい頂いて本当にありがとうございました。