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第35話:半分エルフと二つのギルド

大変に遅くなって申し訳有りません。




 例の工作員達は、ニンフ達の活躍により、自分達の雇い主を吐いた。

 南の小国の、盗賊ギルドの幹部だと言うが、これは恐らくは偽装だろう。


 ウェルズ帝国の国境から南部に広がる山地には、都市国家群とも言うべき、小国が数多く存在する地帯が有る。

 それぞれがウェルズ帝国か、更に南に広がる大国エルレーン王国の両大国のうち、どちらかの傘下に入り、お互いに小競り合いを繰り返しながらも、何とか独立だけは保っている。


 しばしば両大国の代理戦争の舞台となる地域でも有るのだが、かの小国のどれかが、帝国内部に混乱をもたらすような策を、わざわざ実行に移すとは思えない。

 なぜなら、思惑どおり魔素を高めて、魔物が発生する地域を帝国の中心部に近い、このエスタ村近郊に作り、混乱を誘発したとしても旨味が無いからだ。

 それしきで山間部の小国が帝国に戦争を仕掛ける隙が生まれるほど、ウェルズ帝国の戦力は脆弱では無い。

 やはり、これは……。


「お前達、冒険者崩れの何でも屋ってとこだろ? それにしちゃ、持ってた魔法具、豪華過ぎじゃない?」


 フィリシスも似たような推測をしたのか、オレが思っていたのと同じ疑問点を、ストレートに工作員達にぶつける。


「……けっ! 何だって良いだろ?」


「おい! ニンフ達が睨んでるんだぞ!?」


「うっ! 貰ったんだよ。今回の仕事に必要だからって」


「盗賊ギルドの偉いさんにか?」


「そういうこった。使わなかったら好きにして良いって言うから、そりゃ貰うだろう?」


「まぁなぁ……。しかし、単なる盗賊にしちゃあ知りすぎてるって思わなかったか?」


「金もたっぷり貰ったからな。後金はさらに倍。つまらない詮索をして棒に振るなんて、勿体無くて考えもしなかったな」


 下らない理由だ。

 だが、それだけに信憑性は高いと言えるか?


「なぁ、僕達は同族だろ? 僕だけ逃がしてくれるってんなら、知ってることは何でも喋るよ?」


「コイツと知ってること大して変わらないんじゃないの? まぁ良いや。同族の(よしみ)だ。言うだけ言ってみな?」


「本当だな? ……実はな、アイツは盗賊ギルドの幹部じゃなかったんだ」


「おい! それは黙っとくって――」

『貴方達は、まだ制裁が足らないようね?』

『ようね?』


「セスト、そいつ少し黙らせといて! おい、何でそれが分かった?」


「身のこなし、だよ。あんな盗賊居ないって。それに……あぁ僕の思い過ごしかも知れないが」


「それに、何だ?」


「ああ、鎖の(こす)れる音がしたんだ。微かにだが、多分あれは――」


「聖印の首飾り?」


 ここまで順調に尋問を進めていたフィリシスが、初めて怪訝そうな顔を見せたので、オレが引き継いで質問を浴びせた。


「ああ、多分な。ただのペンダントなら、盗賊ギルドの幹部を演じるなら、外して来るだろ?」


「つまり、護身用の魔法具か肌身から離せない物だった。一番、可能性が高いのが聖印。……万神教神官である可能性は、限りなく皆無に近い。」


「カインズ、それじゃあ唯一神の神官だと言うことか?」


「ああ、恐らくな。そしてエルレーン王国も、多分一枚噛んでいるだろう」


 元工作員の地這族(ミニラウ)の男も同様に感じていたのか、しきりに頷いている。


「ま、そんなとこか。またぞろエルレーン王国が、お得意の()()を始めるんだろ」


 これ以上訊くべきことは無い。

 ニンフ達が奴らを感知出来なかったタネも、既に明らかになった。

 盗賊(シーフ)特有スキル『ハイド』を、黒幕の男から譲り受けた魔法具に依って、効果と範囲を拡大し全員に掛けていただけらしい。

 ギャザーを呼び出したのも、最初から指輪状の魔法具に封印されていたという話だ。

 まぁ、これは予想通り。

 ギャザーの呪いは、レッドキャップの大群相手では、分が悪く慌てて逃げ出したというのも頷ける。

 そしてソールはやはり、仕込まれた工作員『草』だったようだ。


 オレ達はニンフ達との再会を約し、二人の男を連行して帝都に戻ることにした。


 まずはファレ村に向かったのだが、道中ずっと地這族(ミニラウ)の男が『約束が違う!』と言って騒いでいたが、五月蝿くてかなわないので、魔法で眠らせておいた。

 オレ達は今後、悪人には厳しくいくと決めたのだ。

 当然、スキル効果増幅の魔法具は頂いておいた。

 これにより、オレ達は新たな力を得ることになるが、それはまた別の話だ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ルスタ山を降りてから一週間が過ぎていた。


 この一週間は、非常に慌ただしいものだったと言える。


 まずファレ村で報告のついでに馬車を借り、犯人どもを馬車に押し込んで、エスタ村に向かう。 エスタ村で幾ばくかの謝礼金と、事態が農村地帯だけでは済まない大規模なものだったことから、冒険者ギルドと帝国内務官向けに添え状を預かる。

 その日はエスタ村で一泊。

 村を挙げての宴会となったのだが、幼馴染みの同年代の連中の間では、お互いに結婚する話が多発しているようだ。

 田舎は結婚が早い。

 何となく寂しい気持ちになったのだが、反対にエルフリーデとの仲を疑われた。

 オレは慌てて否定したのだが、それならばとばかりに寄ってくるエロ男共に、エルフリーデは氷の視線と沈黙とで応えていて、何故か少しだけホッとしてしまう。


 翌日から馬車を操り、帝都へと三日かけて到着。

 まっすぐ帝都の衛士隊詰所に行き、迷わず犯人を突き出した。

 簡単に経緯を説明したのだが、詰所はにわかに蜂の巣を突っついたような、大騒ぎになって、しばらく収集がつかない。

 結果として、翌日も詰所に来るように言い渡され、家路につく。

 途中、サナさんの顔を見に行った。

 心配を掛けていたらしく、抱きつかれて少しだけ泣かれてしまう。

 思わず、初めてオレからキスをした。

 何とか機嫌が戻ったようで、何よりだ。


 翌日、近衛騎士団のフレンジャー第八騎士隊長(オレが学院の試験で相手して貰った人、出世していた)に衛士隊詰所で再会し、今回の事件の顛末を報告。


 どうやら昨夜のうちに拷問を加え、裏付けを取っていたらしく、すんなりオレ達への事情聴取は終了、村長から預かった添え状をフレンジャー隊長に託した後にすぐ解放された。


 その足で冒険者ギルドに報告に行くと、ピットさんが待ち構えていて、個室で応対される。

 ここでも、事の次第を話すことになった。

 報酬については、エスタ村で貰った謝礼金と工作員達から奪った魔法具が有るのだが、ギルドからも帝国からも、追って沙汰が有るらしい。


 そして今日、オレ達はフィリシスの勧めに従い、ある場所を訪れていた。


 そこは帝都に存在する大きなギルドだ。

 冒険者ギルドと並ぶほど大きい。



 傭兵ギルド……その場所は、そう呼ばれている。

お読み頂き誠にありがとうございます。


ストック作成段階で、事件の顛末を報告するくだりを忘れていて、本日急遽加筆しました。


この話の最後の部分からが、新章の導入部になります。



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