第32話:向けられる悪意②
本日も一話投稿です。
「はい! いっちば〜ん!」
フィリシスが、相手にしていたヤツを、当て身一発で、あっさり無力化した。
フィリシスの固有スキルらしいが、短転移は本当にタチが悪い。
アタシの相手は、性格の悪そうな顔をした、生意気な女に決めた。
カインズとフィリシスを亜人等とほざいた上に、アタシの手足を落とすみたいな宣言をした馬鹿に、こちらこそ思い知らせてやる。
軽装で、目に見える範囲では武器も持っていない様子から、何らかの魔法をメインにしているのか、それとも体術使いか……。
威勢の良いことを、べらべら喋っていた割には、一定の間合いを保ったまま、待ちの姿勢を崩さない。
ならば、こちらから仕掛けるまでだ。
軽くダッシュして接敵し、最低限の動作で右腕を狙って、バルディッシュを振るう。
酷く驚いた様子で何やら慌てていたが、不様な格好では有るものの、左前方に自ら転がって、アタシの攻撃を避けたあたりは、口だけでは無いのかもしれない。
まぁ、それでも回避動作は、遅すぎるぐらいだ。
すれ違い様にヤツの顔面に蹴りを放つと、鼻から血を吹きながら、盛大に吹っ飛んでいく。
ずいぶん飛んだが、アイツ軽いな。
何やら転がりながら、右手の中指に嵌めた指輪を外そうとしてたみたいだけど、何がしたかったんだか?
あんな趣味の悪い指輪は、貰いたく無いものだが……。
カインズの方は、冷静さを取り戻したのか、挑発を繰り返しながら、相手の攻撃を完璧に避けまくっている。
あーあ、相手のおっさん涙目じゃないか。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お〜い、カインズ。いつまでも遊んでんなよ?」
「フィリシスは容赦無さすぎだろ? 一瞬で終わりって。」
「エルフリーデに言われたく無いよ! 思いっきり蹴りすぎ。あのブス、鼻の骨折れてたんじゃん?」
「少しは見れる顔になるかもしれないだろ?」
「……かもね。あ、そういやコイツら、南方生まれみたい。訛りは、まぁ上手く隠してたけどな。言い回しでバレバレ」
フィリシスとエルフリーデは、相手を気絶させて、いつもの軽快なやり取りを始めた。
オレの目の前の男は、ショートソードとバックラーを上手く使うが、まぁ腕前は中堅クラスと言ったところだろうか。
しかし、オレが能力的に成長し過ぎたせいか、非常にトロくさい動きに思えてならない。
「半端エルフって言ったっけ? 大口叩いていたわりに、お粗末ですね。雇い主が可哀想だこと。」
「くっ! ちょこまかと避けまわりやがって! 卑怯だぞ!」
「いや、遅すぎるんで……。本気で掛かって来ても良いんですよ?」
「半端エルフがぁ! 人間様に偉そうな口をきいてんじゃねぇ! 大人しく殺られてろよ!」
当たらないというのに、延々と繰り返される斬撃……ハエが止まりそうに思える。
あ! 良いこと思いついたぞ!
オレは、おもむろに短鎗をエルフリーデに向かって、山なりに放り投げる。
エルフリーデは一瞬、驚いた顔になったが、危なげ無く鎗を受けとめると、こちらを見て微笑を浮かべる。
「カインズ。早く終わらせて、口を割らせてやれ。獲物を玩ぶのは、本当ならネコの得意技なんだぞ?」
「はいはい、実験が終わったら、ね! よし来い! ……口だけ男さん」
「武器を捨てて降参かと思えば……お前だけは許さん! 行くぞ! 疾風斬!!」
お、いくらか速いかな?
この垂直の斬り落としは剣術スキルの武技『疾風斬』といって、普段の二倍近い速度で斬撃を繰り出す技だ。
一度ソホンさんに見せて貰ったが、凄まじい速さで威力も十分な、まさに奥の手と言うに相応しい技だった。
まさか、この男の口から、同じ技名を聞くことになるとは思わなかったが、同じなのは名前だけで全く別のものに思える。
ノロノロした先ほどまでの攻撃よりは、いくらかマシ、という程度。
オレが思いついた実験には、全く影響無い。
むしろ縦に斬り落としてくる軌道は、おあつらえ向きと言ったところだ。
ぱしっ、という乾いた音を立てて、男の剣撃はオレの目の前で止まった。
次いで、パキッと音を立てて男の剣が折れる。
……どうも、力加減を間違えてしまったようだ。
慌てて折れた剣を手放し、距離を取る男を横目に、オレは自分のスキルが増えていることを確認していた。
この戦闘中に「挑発」「見切り:上」「武器破壊」を習得していたようだ。
むぅ、真剣白羽取りとか、無刀取りとか習得出来たら、格好良いと思ったんだけどなぁ……。
まぁ、壊しちゃったからかも知れないし、次は気を付けよう。
「なんなんだ、てめぇは! 半端エルフのクセに!」
「ワンパターンな悪口だなぁ。もう良いや、寝てください。」
フィリシスが居てくれて、本当に助かった。
内戦、小競り合いから、本格的な戦争まで、フィリシスは様々な戦場に傭兵として雇われていて、この大陸の中なら大体の地域に、行ったことが有るらしい。
工作員の所属国に、おおよその見当をつけるには、頭に血を昇らせて喋らせてやれば、フィリシスが見抜いてくれると踏んでいたが、その試みは大成功だった。
あとは無力化して、尋問してから、口を割る割らない関係無く、しかるべきところに引き渡して、お仕舞いだな。
重要なのは、帝国に対して策動してる国が有るということを、帝国の上層部に認識してもらうことなのだから。
剣を失った男は、咄嗟に予備の得物らしきダガーを取り出して構えるが、先ほどよりも隙が多いように思える。
短剣スキルは全然ダメだな、このオッサン。
あとは単純作業だ。
不恰好な突きを繰り出してきたオッサンの手首に手刀を食らわせて、短剣を叩き落とし、続けて軽く足払い。
転倒した男を後ろから、優しく締め上げて失神してもらう。
オレ達の完全勝利だ。
「セスト、デシモ。終わったぞ!」
『本当に!?』
『とに?』
状況が良く分かっていないハズのニンフ達に声をかける。
しかし、その時……
「カインズ! まだだ!」
エルフリーデの、珍しく緊迫した声が聞こえた。
この時、オレの背中に、ヤツらの悪意が迫っていたのだ……。
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