第30話:邂逅と遭遇
本日も一話投稿となります。
『どうして貴女達が、ここに?』
『ここに?』
セストとデシモは、非常に驚いている様子だった。
あの後オレ達は、セストの案内でルスタ山の中腹、見上げるような巨岩の前に到着したのだが、そこには既に先客が居たのだ。
オレ達が追っていた、他国の工作員のヤツらでは無い。
セストやデシモと同じように、盟約の宝珠を保持したニンフの分体が、さらに二人も居たのだ。
ルスタ山のニンフも、ここに本体が存在するので、いにしえの盟約を守り続けて来たニンフ達が、ここに揃ったことになる。
セストからの紹介が有るまでは、僅かに身構えてしまったが、良く見れば細部の特徴こそ違うものの、顔立ちなどは似かよっていて、五人はまるで姉妹のようにも見えた。
山のニンフ、オレアデスは眠たそうな眼をした、おっとり美人といった風で保育園の保母さんのような印象だ。
とても女性らしく豊満に発達した体型と、綺麗な赤茶色の長髪と同色の瞳は、どこか慈愛を感じさせる。
ファレ村からここまで同行した谷のニンフ、ナパイアイの分体セストは、頭の良い小学校低学年の女の子といった感じだが、ハッとさせられるほどに造形が美しく、その薄く青みを帯びた金髪は地球には存在し得ないが、全く不自然さが感じられない。
森のニンフ、アルセイデスの分体デシモは、前に述べたので割愛。
そういう趣味の人には、辛抱堪らないであろう、絶世の美幼女だ。
残る二人(二体?)は、泉のニンフ、ナイアデスと、柏の樹のニンフ、ハマドリュアデスの分体だという。
ナイアデスが宿るセダの泉は、ここルスタ山から南東に位置する。
そして、ハマドリュアデスが宿る柏の巨樹は、惨劇の起きた集落の側の物では無く、ここから南西に位置する、帝国軍の駐屯地の至近に有るのだという。
そう言われて見れば、オレも見たことの有る樹だったハズなのだ。
帝都とエスタ村を繋ぐ甬道からでも、帝国軍の駐屯する砦と、それに倍する高さの巨木は遠望出来た。
頭の中で位置関係を整理すると、ルスタ山を頂点に、丁度良い間隔で五つの場所が存在し、まるで大きな五芒星を描くような、絶妙な配置になっているのだ。
これには何かしらの意図を感じる。
ハイエルフに陰陽道の五芒星や、西洋的な魔除けとしてのペンタグラムの知識が有ったかどうかは、今や知りようがないのかもしれないのだが。
『視えたのです。谷から盟約の宝珠を奪った者達の姿が。そして山を昇る貴女達の姿も……』
そう不可思議な言葉を、呟くように述べたのは、初対面の二人のニンフのうち、泉のニンフ、ナイアデスの分体の方だ。
『お得意の未来視……ということね。安定しない力だって言われてても、相変わらず勘所は抑えるのね』
『のね』
セスト達が聞き捨てならないことを言ったので、オレが問い質そうとすると、寸前でもう一人に割って入られた。
『私は適当に、ね。ほら私の宿る樹のすぐ近くには、ウェルズ帝国軍の駐屯してる砦が有るでしょ? だから泥棒も、最後に来るだろうって思ったんだけどさ。私達の盟約の地を狙う不届き者達なんて、いつまでも放っておけるわけないじゃない?』
明るい口調で割り込んで来たのは、柏の樹のニンフ、ハマドリュアデスの分体だ。
『二人とも、貴女達が到着する少し前に来たばっかりなのよ』
これは、山のニンフ、オレアデスの言葉。
『貴方達が……邪悪に堕ちた妖精達を止めてくれた人ね? 私はナイアデスの分御霊の……そうね、シェニと呼んでくれたら嬉しい』
このシェニと名乗った物静かな女性は、泉のニンフの本体に近い存在なのだろう。
綺麗な水色の髪を肩のところで揃え、美しい碧眼を持った、スレンダーな美女の姿をしている。
見た目の年齢的には、新任の女教師か就職活働中の女子大生ぐらいが、イメージに近い。
『じゃ、私はトリアって呼んで貰おうかな? 柏の木に住んでるハマドリュアデスの分体ってとこだね。改めて、よろしく〜』
この快活な印象を受ける娘も割合、本体に近い存在に思える。
日本の女子高の陸上部にでも居たら、山ほどラブレターを貰っていそうな感じだ。
黒に近い深い茶色の髪を後ろでポニーテール状に結っていて、髪と同色の瞳は、まるで好奇心旺盛です、と訴えるかのようにキラキラと輝いている。
『……盗賊は三人。人族の男女と、子供を装ってはいるけど、恐らく地這族の男だと思う。……ここに揃った戦力なら、よほど油断しない限り対処可能なハズよ』
『シェニ、気を付けて。私の本体は、奴らの存在を事前に感知出来なかった。異変に気付いた時には、谷の奥深くの台座から、盟約の宝珠が持ち去られていた。私達ニンフの感知能力すら、誤魔化す何か……強力な隠蔽系の魔法具か、スキルなりを持っている筈よ』
『ナパイアイ、えっと今はセストだっけ? 私やアンタはともかく、姉さん達の能力なら大丈夫なんじゃないの?』
『……どうかしらね。私の未来視でも、宝珠を盗んで逃走する姿しか見えなかった。こんなことは初めてだから油断はしない方が良いわ。……何か、嫌な予感がするの』
『げっ! やめてよね〜。姉さんの予感って百発百中じゃない。こないだ……二百年ぐらい前だっけ? 大干魃が起きる前に姉さんが、やっぱり今みたいに――――』
その後も、ニンフの姉妹(?)達の会話は、しばらく続いていたが、徐々に本題を離れていくばかりなので、たまらず今度こそ割って入った。
「すいません、皆さん! 楽しそうに話しているところ、申し訳ないんですが、時間的には恐らく既にヤツらが、山に到着する頃のハズなんです」
「お、カインズ勇気あるね〜。今、オレも言おうかどうしようか悩んでたとこ」
『とこ』
「女同士は集まると、喋り続けるものな。まるで故郷の、姉上達を見ているようだった」
調子の良いフィリシスとデシモ、呆れた様子のエルフリーデ。
『あらあら、ごめんなさいね〜。久しぶりに姉妹が揃ったものだから、ついつい……勝手に盛り上がってしまったみたいで、ごめんなさい。妹達を許してあげてね』
……いや、アンタも途中からノリノリだったじゃないか、山のニンフのナイアデスさんよ。
もちろん、そんなことは口に出せないので、快く謝罪を受け入れ、再度この場の全員に警戒を促す。
今は時間帯としては、夕刻が近い。
来るとすれば、間もなくだ。
夜の闇は、オレ達にとっては心強い味方だが、ヤツらにとっては、有り難くないだろう。
種族的な特性で、ハーフエルフのオレにはインフラビジョンと言う、赤外線を映像化して見通す能力が備わっている。
これは、エルフやドワーフにも共通する。
まぁ、ゴブリンやコボルトなんかも持っているらしいから、あんまり声を大にして言いたくは無いのだけど。
エルフリーデは猫人族だ。
どうしても目立つ耳とか尻尾に注意が向くが、猫人族は猫と一緒で、闇の中での行動を苦にしない。
フィリシスも地這族という、非常に夜目の利く種族だ。
最後にデシモ達だが、ニンフは『精霊視』といって、この世界において万物が有する『精霊力』の流れを視覚情報に変換出来る。
つまり、昼夜を一切問わない、強力な視覚を有しているのだという。
全員が暗闇を問題にしないこちらと較べて、ヤツらには人族が二人、日常的に暗い場所で訓練をしていたとしても、向こうの不利は否めないだろう。
来るなら完全に日が暮れる前。
来ないなら、明日以降か、別の場所で空振りを喰らっているか。
昨日レッドキャップ達の襲撃を受けて、ヤツらもあまり悠長には、構えて居られなくなったハズだ。
そんなことを考えながらも、各々が五感を研ぎ澄まし、ヤツらの来襲を待ち構えていたオレ達だったが、しばらくして、眼を瞑って耳をすませていたエルフリーデが突然、警告の言葉を叫んだ。
「カインズ、来たぞ! 遠くで微かに、鎖の擦れる音がする!」
『えっ!? 私の感知には引っ掛かっていないわ!』
『私もよ!』
トリアとセストが慌てていた。
他の三人のニンフ達も、僅かに動揺を見せながら、首を縦に振って同意している。
やはりヤツらは、何か視覚情報や魔力、精霊力を隠蔽する、能力か魔法具を所有しているようだ。
ただ、エルフリーデの鋭敏な聴覚感知能力の前には、完全な隠密行動は手練れの工作員にも、不可能だったようだ。
エルフリーデの次に、聴覚が鋭敏なオレの耳にも、微かな物音が聞こえてきた。
もう敵は近くまで来ている。
どんな能力を使おうが、絶対に捕まえてやる。
オレ達は、目顔でお互いに合図を交わすと、それぞれに物陰に姿を隠した。
完全に隠密行動が成功しているとでも思っているのか、それとも自信がよほど有るのか。
ヤツらが姿を表したのは、それから間もなくのことだった。
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※明日も一話投稿予定なのですが、仕事の進み具合によっては、明後日になるかもしれません。
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