第28話:原因の所在は
本日も一話投稿に、なります。
※途中、主人公がレベルアップの成果に調子に乗ってます。
苦手な方は、その部分を読み飛ばして下さい。
ファレ村にやって来たナパイアイの分霊体は、自らを『セスト』と名乗った。
彼女の話を簡潔に纏めるならば謝罪と要請。
それが谷間のニンフ、ナパイアイからの使者、セストの要件のようだ。
曰く、古くから守護してきた秘宝が奪われたこと。
昨日までは秘宝の気配は間違いなく、ファレ村から独立した新集落に存在したこと。
暴走した下僕の妖精達が邪霊と化し、昨夜の悲劇が起きてしまったこと。
深く反省し、被害を受けた者達に直接、心からの謝罪をしたいということ。
レッドキャップを退けた存在が、このファレ村に居るのが分かったということ。
新集落から逃亡し、気配を絶ったらしい犯人を、見つけ出すのに協力して欲しいということ。
デシモと違い、より本体に近い存在らしく、ナパイアイの分体であるセストは、一言一句はっきりと使者としての口上を述べた。
セストが話を締めくくる際のセリフは、こうだった。
『特に貴方からは、途方もないほどの魔力の波動を感じます。我が本体の魔力をも上回るほどに……どうか貴方達には盗賊どもの捜索に、御協力をお願い致したく存じます』
セストの言う通りで、レッドキャップ達との戦闘を経て、レベルが上がったオレのステータスが、本当にヤバいことになっている。
特に魔力については、そろそろ人外クラスだろう。
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『名称:カインズ』
『種族:ハーフエルフ』
『年齢:15歳』
『職業:冒険者(Fランク)』
『LV14』
《能力》
生命: 4198
魔力:59409
筋力: 2920
体力: 4577
知力:14237
敏捷: 4930
器用: 5650
精神: 7201
統率: 1456
――――――――――
余りにも壊れた伸び具合に、さすがのオレも実は、ちょっとドン引き気味なのだ。
だって、昨日の戦闘前までは、こうだったんだから。
――――――――――
『名称:カインズ』
『種族:ハーフエルフ』
『年齢:15歳』
『職業:冒険者(Fランク)』
『LV6』
《能力》
生命: 1154
魔力:16976
筋力: 772
体力: 1286
知力: 4111
敏捷: 1362
器用: 1581
精神: 2053
統率: 365
――――――――――
はっきり言って、同じレベルに限って良いならば、この世界でも恐らく最強クラスだろう。
たった一晩にして、まるで別の生き物にでも、なってしまった気分だ。
そりゃね、恵まれた島は難攻不落にもなるよ。
サナさんから時折感じるプレッシャーが、父を上回っていたのも頷ける話だ。
これは素質の底上げは重要だという話。
もちろん『解析者』の成長補正が有ってこその、オレの現在の能力値であるのも、間違いない話なのだが。
そして派生スキル『存在強奪』も地味に見えるのだが、実は物凄いスキルだった。
何しろ「斧術」のスキルレベルが、昨夜の戦闘では一度も、斧など使ってないのに上がってるうえに、明らかにレベルアップ法則以上に能力が上昇しているのだ。
斧を使っていたのは、レッドキャップの方なのに……。
ヤツらを倒したことによって、存在を強奪。
オレの能力値や「斧術」スキルの熟練度に変換した、ということになるのだろう。
これ、どこかのチート主人公まっしぐらですよね。
さて、閑話休題。
セストの謝罪の対象だが、もちろんオレ達では無い。
襲われそうになったファレ村の住人達。
そして誰よりも、子供や妻、仲間達を、一夜にして全て失ったトマスが対象になるだろう。
セストに同行を促し、オレ達は村長の家に向かう。
村長も、その家族達も、それからトマスも、黙ってセストの話を聞いていた。
谷間のニンフの使者、セストの話は、古の盟約の部分にも及び、同じく盟約を知る者としてデシモも、セストの語る内容を、たどたどしくではあるが精一杯、補足している。
村長は瞑目し表情を変えない。
時折、頷く程度だった。
村長の家族達は半信半疑と言うより、話の内容に理解が追い付いていない様子だ。
そしてトマスは、その表情こそ怒りを顕にしているが、とりあえずは最後まで話を聞いていた。
『大変に申し訳ございませんでした。この償いは谷間のニンフ、ナパイアイの名にかけて、陰に日向にファレ村が存続する限り、未来永劫に渡って行わせて頂きます。』
『アルセイデスも、つぐないをします』
「……話は、そんで終わりか?」
『……はい』
「テメエが言いたいことは分かった。だがなオレは、許さないぞ! そんなもん許せないに決まってる! この、ちっぽけな命が終わるまで、いや終わったって、許してたまるか!!」
『申し訳ございません』
「うるっせーんだよ、化け物が! テメエらが償いたいってんなら勝手にしやがれよ! だがな、オレは何をされても、何を言われても許さないって言ってんだよ! そういうヤツがいるってこと、そのクソ長い一生の間、ずーっと覚えてやがれ! 分かったな? 分かったならとっとと帰れ、帰れモンスター!」
「ト、トマス! いくら何でも、お前……」
『村長殿、良いんです! トマス様に許して頂けないのは当然です。この償いは、対価を求めるためのものでは有りません。ただ、この先ナパイアイの名誉にかけて一切の妥協をせずに、償い続けさせて頂きます。……この度は大変、申し訳ないことを致しました』
「まだ言いやがんのか! さっさと帰れ! 頼むから、もう帰ってくれ……」
『……はい。それでは、失礼致します』
セストは、最後に深々と頭を下げて、村長の家を後にした。
セストに続いて、デシモも席を立つ。
オレ達にもトマスに掛けられる言葉は無い。
やはり、村長に一礼して、セスト達の後を追った。
オレも許せない。
ナパイアイにも当然ながら非はある。
それは否定出来ない。
だが、家族や仲間を失ったトマスには冷たいかもしれないが、オレの怒りはナパイアイやレッドキャップにでは無く、むしろ宝珠を奪い、未だに逃走を続けながら、次の宝珠を奪う機会を虎視眈々と窺っているで有ろう、まだ何者かすらも見えてこない犯人にこそ向けられていた。
「なぁ……フィリシス、エルフリーデ」
「オレは付き合うよ?」
「当然アタシもだ!」
「オレ、まだ何も言って無いよ?」
「カインズは犯人追うんだろ? オレも行くってば」
「犯人どもを八つ裂きにしないことには、収まらんだろう!」
「ありがとうなフィリシス、エルフリーデ。よし! オレはセストに話を付けてくる」
「じゃあ、オレ達はトマスから犯人どもの特徴を聞いてくるな」
「あぁ、そうだな。頼んだよ」
「りょ〜かい」
「任せておけ!」
今、退出してきたばかりの村長の家に戻っていく、フィリシスとエルフリーデ。
頼もしい大小の後ろ姿を見ながら、オレは得難い仲間を持ったことを、この時、痛いほどに実感していた。
そもそもオレ達が冒険者ギルドから受けた依頼は、既に達成したと言える。
依頼書に有った正体不明の魔物は発見し、その正体であるレッドキャップも、昨夜の戦いで討伐し尽くしたのだから。
このまま、帝都に戻ってギルドに報告したとして、誰にも咎め立てされる謂れは無いのだ。
……だが、このまま帰って依頼達成なんて、オレの小さなプライドが許さない。
平穏だった農村地帯を恐怖に陥れ、ニンフ達の名誉を汚した犯人達も、それを指図した者が居るならばソイツも、絶対に許さない。
本当に悪いのは、ソイツらだと、オレは思う。
決意を固めセストとデシモに追い付いたオレは、この事件の犯人の捜索と真相の究明に協力することを、ニンフの分体である二人に告げる。
先ほど村長の家では沈痛な表情を浮かべていた二人の顔に、心なしか明るさが戻ったように思えた。
こうして、オレ達は手掛かりを求めて、まずはトマスが住んでいた、集落の跡地に向かうことになる。
惨劇の舞台となった場所へ……。
お読み頂き、誠にありがとうございます。
もう少しだけ、この事件の話が続きます。
明日も一話投稿予定です。
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