第27話:闇夜の防衛戦
本日も一話投稿です。
※久方ぶりの予約投稿となります。
レッドキャップの第二波は、どんどんと数を増し、何がおかしいのか汚ない声で笑いながら、スキップでもするように、軽快な足取りで、こちらに迫ってくる。
具現化した狂気。
狂った小妖精の群れが、新たなる獲物を求めて、ファレ村に真っ直ぐ押し寄せて来た。
もう、大規模な魔法を行使する時間は与えて貰えまい。
「フィリシス、エルフリーデは群れの先頭を狙って魔法攻撃! 速射出来る魔法な! デシモは、行軍を遅らせる魔法を頼む!」
「りょーかい!」
「分かった!」
『あい!』
仲間達に指示を出した後、オレは自分、フィリシス、エルフリーデの武器に属性付与の魔法を掛ける。
今回は全員に聖属性付与を選択した。
物理攻撃無効の敵に対しては、魔法で攻撃するか、こうして属性を付与した武器で戦わなければ、有効打にならない。
ついでに、全員に不可視の魔法の鎧を付与しておく。
そうこうしているうちに、レッドキャップの群れが、ファレ村の開け放たれた門に迫ってくる。
よし、今だ!
「フィリシスはデシモの護衛に回って、魔法攻撃続行! デシモは門の両サイドとオレ達の背後に土の壁を! エルフリーデは、オレと一緒に突撃! 全滅させるぞ!」
当然だが、村人達には被害を出さずに、オレ達に敵を引き付け無くてはならない。
デシモの持つ宝珠も渡すわけには、いかない。
オレはエルフリーデと共に、邪悪な笑い声を上げながら前進してくる、レッドキャップの群れの先頭を目指して、各々の武器を手に走り寄った。
エルフリーデの得物は、バルディッシュと言う長柄武器の一種だが、両利きの彼女に合わせて、斧頭が両面に付いている上、普通のバルディッシュには無いハズの錐状の穂先も長大なものが追加されていて、それらの分だけ非常に重たい。
柄もエルフリーデの長身に合わせて長く、しかも頑丈な金属製で、尚更に重たく、彼女の圧倒的な膂力が有って初めて実用が可能なほどだ。
エルフリーデは持ち前の怪力と卓越した武技でもって、当たるを幸いとばかりにレッドキャップ達を薙ぎ払っていく。
突き、潰し、割る。
ひたすらに、その繰り返しだ。
……しかしアレ、本当にバルディッシュって言って良いのかね?
オレの今回持参した武器は、十五歳の誕生日に父から貰った短鎗だ。
鎗と言うぐらいだから、これも柄まで全てが金属製だが、驚くほど軽い。
何でも『魔法銀』で出来ているらしく、貰った時は久しぶりにファンタジーな異世界に来ている実感を覚えた。
エルフリーデが豪快な戦いぶりを見せている一方で、オレは地味に、しかし的確に、敵の眉間や、鎖骨と鎖骨の間の窪み、胸の中心などを一突きにしていく。
レッドキャップは狂気に侵されているためか、それとも阿呆なのか、ひたすら直線的に向かってくるので、対処がしやすい。
奴らの斧が、オレやエルフリーデに当たりそうな気配は無い。
デシモは魔力が切れたのか、しゃがみ込んでいるが、フィリシスは依然として元気一杯の様子で、たまにしかレッドキャップが来ないせいか、不満そうにしているぐらいだ。
エルフリーデの勢いも少し衰え始めたし、ここは……
「フィリシス、前進してエルフリーデと交代! 交代時の討ち漏らしを、デシモに近付けるなよ!」
言われたフィリシスは嬉しそうに、瞬時にエルフリーデの背後に翔び、にこやかに笑いながら、エルフリーデの肩を叩く。
あいつ……転移使いやがったよ。
よほどフラストレーションが溜まってたのかな?
嬉しそうなフィリシスとは対照的に、どこか無念そうに、肩を落としながら後退していく、エルフリーデ。
そんな光景を横目で見やりながら、淡々とレッドキャップを倒していくと、ついに後続が途切れた。
最後尾には、真っ黒い帽子を被った、レッドキャップよりは、よほど大柄な邪妖精の姿が見える。
ブラックキャップとでも言うのかね?
オレは、目前のレッドキャップ達を突き刺しながらも、おもむろに魔法の詠唱を始めた。
実戦で使うのは初めてだが、やれないことは無いハズだ。
「大いなるマナ、万物の核よ。我求め形造るは氷雪伴いし嵐なり。顕れよ氷嵐! アイスストーム!」
出来た!
黒帽子の邪妖精を中心に、魔法の氷嵐が吹き荒れる。
精霊魔法だと、威力が強くなり過ぎることも有るので、制御の利く属性魔法を選択した。
氷嵐は、水と風の複合魔法だ。
狙い違わず、ブラックキャップと周囲のレッドキャップだけを対象に、魔法の嵐を叩きつけボスを倒すことに成功した。
親玉を潰された邪悪な妖精の群れは、算を乱して逃げ散ろうとするが、それを見逃すオレ達では無い。
残敵掃討は、一度後退していたエルフリーデも加えて、速やかに行われた。
オレ達は、討ち漏らしや後続が居ないことを念入りに確かめ、ようやく一息をついた。
いつの間にやら、レッドキャップ達の死体や手にしていた斧などは消え失せ、後には赤い帽子だけが残る。
奴らの邪悪さを表す、赤い、血の臭いがする帽子。
中には例の返り血で黒く染まりきった、ひときわ大きな帽子も残っていた。
事件の顛末を報告する上で、証拠の品として持って行かなくてはならない。
ひとまず回収するが、山と積まれた帽子を、フィリシスの魔法の背嚢に仕舞おうとしても、さすがに拒否反応を示された。
それも仕方がない。 ボロ布なり、ずだ袋でも譲り受けて、それに包んでから収納することにしよう。
そう考えたオレは、フィリシス、エルフリーデ、デシモに声を掛けて、作業を中断する。
門前に精霊魔法で土の壁を築いてから、他の壁を解除魔法で崩し、それから村長の家に向かった。
「村長、終わりました。敵は全滅です。危険は、もう有りません」
「ほ、本当かね? 魔物が化けているんでは無かろうな?」
「そこは、信用して頂くしか有りませんね。あ、そうだ。トマスさんは、大丈夫そうですか?」
「トマスなら、毛布をひっ被って震えておるよ。……そうじゃな、トマスの名を知っておるなら、大丈夫か。」
まだ、おっかなびっくりの様子では有るが、ファレ村の村長は、ガタゴトと音を立てて閂を外すと、玄関の扉を細く開け、こちらの様子を窺う。
それでも、しばらく躊躇していたが、こちらが一向に襲い掛かって来ないと見るや、勢い良く扉を開け放ち、掻き抱くようにしてオレ達を中に招き入れた。
「まずは、良くやってくれた。しかし、随分と時間が掛かったものだな。そんなに化け物どもは、手強かったのかね?」
「いえ、どちらかと言えば数ですね。倒しても倒しても、押し寄せて来て……」
「そうそう、あんなに来るなんて思わなかったよ」
「ああ、さすがに疲れた」
『れた』
「長としては、現場を確認せねばなるまいて。……冒険者さん達、同行を頼めるかの?」
「はい、それと確認が済みましたら、村の人達に声を掛けて、安心させてあげましょうね。」
「そうじゃな。おーい! 化け物どもは、全滅したらしい。今から冒険者さん達と一緒に、確認に行くから付いて来てくれ!」
恐る恐る、といった様子で村長の家族らしい中年の夫婦と、あのトマスと言う男が顔を覗かせる。
「ほ……本当に、大丈夫なのか? 嘘じゃないだろうな?」
錯乱していた男、トマスが半信半疑といった声を出す。
「こうして僕達が無事で居るのが何よりの証拠、ですかね。あとは一応、この帽子。まぁ、とにかく信じて貰うしか無いかと……」
村長が信じてくれない場合を想定して、念のために持ってきた帽子が、思わぬところで役にたった形だ。
未だに警戒はしているようだが、村長にトマス、村長の息子らしき男性が同行してくれた。
「こ、これは!」
「こんなに!?」
「よくもまぁ、無事で。……依頼を受けたのが、お前さん達で良かったのう。この村を救ってくれて、ありがとう。心から礼を言わせてもらおう。本当に、助かりましたわい」
あまりに多くの証拠の山に、驚くばかりのトマスと村長の息子さん。
対照的に、さすがは年の功と言うべきか、村長は事の重大さを把握しているようだ。
これだけの数の邪悪な妖精に蹂躙されれば、ファレ村は一夜にして廃墟になっていただろう。
その後、篝火の灯りで照らされながら、村の有志に手伝ってもらい、帽子の梱包と数のカウントが行われた。
ボスの『ブラックキャップ』が一体に『レッドキャップ』がニ百七十六体。
今回、フィリシスのレベルが一つ上がって五十三になった。
エルフリーデも三つ上がってレベルニ十五に、オレは一気に八つも上がってレベル十四になった。
実はオレは、ついに念願の他人のステータスの一部が見えるスキルを手に入れたようで、二人のレベルをチェックすることが出来た。
デシモもついでに、見ようとしたら何故だか……
『えっち!!』
……と叱られてしまい、魔力で抵抗されたためなのか、結局彼女のステータスは見えなかった。
どうやら、スキルレベルを上げないと無理みたいだ。
作業が終わる頃は既に深夜で、気丈な村の女衆が用意してくれた温かい食事と、僅かながらの酒とを口にしたオレ達は、睡眠が不要だというデシモに見張りを託し、短い眠りにつくことにする。
念のため、自警団の詰所だという、コロ峡谷側の門前の建物を借りたのだが、結論から言えば杞憂だったのだが。
翌朝、太陽を無事に拝み、伸びをしていたオレは、ゆっくり近付いてくる人影を、その目に捉えた。
レッドキャップよりは大きいが、フィリシスよりは小さい、丁度デシモぐらいの女の子だ。
当然、普通の女の子であるハズが無い。
既に起き出して、顔を洗っていたフィリシスと、まだ詰所の中で寝ていたエルフリーデに声を掛けて、オレ達は油断無く身構え、幼女の到達を待つ。
ナパイアイ……谷間のニンフからの使者を迎えるのだ。
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明日も一話投稿予定です。
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