第26話:赤き帽子を朱(あけ)に染めしは
遅くなりまして……本日も一話投稿です。
「助けてくれ! 子供が! 斧を持った子供が!」
「とにかく落ち着け! 子供が何だと言うのだ!?」
「襲って来るんだ! 皆、みんな殺された! リラも! バルクも! ソールも! オレの子も! 奴ら、みんなを殺して笑い転げてやがった!」
「何だって! そりゃ魔物じゃないのか!」
取り乱す新集落から来たらしい男と、周りを囲むファレ村の住人達。
元はファレ村の仲間だった移民達の訃報に、ただ戸惑うばかりの者達もいれば、その場で顔を覆って泣き崩れる者もいた。
オレ達は考えられる限り最短で、ここに到達したが、それでも少しばかり遅かったようだ。
「あ、あんた達! その格好は、冒険者なのか? 頼む、助けてくれ! 奴らが、赤い子供達が、きっとこの村にも来る!」
取り乱した男は、こちらに気が付くと、必死の形相で助けを求めてきた。
周りのファレ村の住人達も、オレ達に気付いたようで、口には出さないが、期待の籠った眼差しを向けてくる者が多かった。
「まずは落ち着いて下さい! 僕達は、冒険者ギルドで依頼を受けて来た者です。出来る限りは、貴方達の力になります。まずは、新集落までの距離と、場所を教えて頂けませんか?」
オレの名乗りを受けた村人達の中から、代表者らしき老人が歩み出てくる。
エルフリーデは、この間に錯乱していた男に、神聖魔法により止血と回復、次いで精神を鎮める魔法を施していった。
「コロ峡谷は分かるかな? このファレ村と峡谷の中間辺りに、柏の大木が有る。明るいうちなら、良く見えるのじゃが……ほれ、あちらじゃよ。あの大木の根元に新集落が有る。いや、有ったと言うべきかの」
近い。
夜の暗がりの中でも、その大木は僅かに視認出来た。
こうも暗くては、馬を急がせるのは危険を伴うが、仮に昼間と同じペースで走らせたとしたら、一時間とは掛かるまい。
オレが懸念を口にしようとした、ちょうどその時、例の左腕を失った男が、先ほどよりは幾分、落ち着いた様子で、その場の面々に向かって訴え掛けてきた。
「あいつらが、赤い子供達が来るぞ。このままでは、あいつらにファレ村も飲み込まれる。」
「トマス、お前そう言えば、どうやって村まで逃げて来たんだ?」
「馬だ。畑を耕すために一頭だけ借りていた、あの……」
「それじゃ化け物が、いつ来てもおかしくないんじゃないか! あの駄馬じゃ普通の馬の、半分以下の早さでしか走れない。」
「いや、待て! それよりトマス、馬はどこじゃ?」
「途中で奴らに追い付かれたから、くれてやったよ! その前に腕を持っていかれたがな……あぁ、クソ! 痛てぇ!」
「早くそれを言わんか! 冒険者さん達、もう一刻の猶予も無いかもしれん。儂らは、どうすりゃ良い?」
俄に慌ただしさを増す広場。
悲嘆にくれる者も有れば、逃げて来た男に怒号を浴びせる者もいた。
「ひとまず、それぞれの自宅に退避を! ここにいない人達にも、声を掛けて、自宅に立て籠って下さい!」
「わ…分かりました。おい、トマス! お前は儂の家に来い! 早くしろ、急ぐぞ!」
蜘蛛の子を散らすように、その場を立ち去り、何やら言い交わしながら、走っていく。
「カインズ、オレ達はどうする?」
フィリシスは、こんな切迫した状態でも、いつもと変わらぬ様子だ。
エルフリーデも、緊張こそしている様だが、やる気満々の表情でオレの指示を待っている。
よし! これなら未知の敵が相手でも、やれる。
「エルフリーデは、門の近くの家の屋根に登って、遠方を監視してくれ。フィリシスは、オレと一緒に待機しておいてくれ。敵が視認出来次第、広範囲魔法を撃ち込む。詠唱開始は、エルフリーデが敵を発見してからだ。エルフリーデ、敵を発見したら、すぐ合図を出してくれ。」
「りょーかい!」
「任せろ!」
『デシモは〜?』
あ……忘れてた。
「デシモは魔法が使えるのかい?」
『デシモもアルセイデスだから』
「分かった。じゃあ、オレとフィリシスの後ろに待機。一緒に魔法で攻撃しよう。」
『たぶん、ようせい』
「そうか……間に合わなかったんだな」
『しかたない。でも、きをつけてね』
「うん? 何にだい?」
『ぶつりむこうだよ』
物理攻撃無効か。
それは、かなり厄介な相手だ。
「カインズ! 来た、赤い子供達!」
「了解! エルフリーデは、降りて来てデシモを護衛してくれ! フィリシス、デシモ。詠唱開始だ!」
「はいよ〜!」
『はよ〜!』
「偉大なるマナよ……」
「不動の大地の友垣達よ……」
「厳しき神よ……」
見えた! 子供? いや、あれは……返り血で染まったあいつらは!
「……我は求める。穿て、見えざる重き穂先で! グラビティランスサークル!!」
「……逞しき腕持て回せ、捻切れ! グランアラウンド!!」
「……数多の光輪、疾く敵を討ち懲らし給わんことを! ディヴァインライトエッジ!!」
夜の闇より黒き魔力の槍が、上空から敵に降り注ぐ。
円環の内に隈無く配置された黒い槍が隙間無く敵を刺し貫く。
地面が回る、廻る。
時計回りに、反時計回りに。
それぞれの敵の足下に、逆方向の回転により生じた魔力の渦が、敵を捻切る。
月夜の神に捧げた祈りが、光の戦輪を数多呼び寄せ、敵を切り刻み、そして浄化していく。
フィリシスの槍は縦方向から、オレの光輪は横方向から、デシモの渦は足下から迫り、それぞれの魔法が逃げ場無く敵を撃つ。
闇、精霊、神聖魔法、上下左右。
三人の即興連携で放たれた範囲魔法
それぞれの魔法が放った光が収束した時、その場には敵の姿は残っていなかった。
これで終わりだといいのだが……。
「殺ったか!?」
『たか?』
……エルフリーデ、デシモ。
それ言っちゃいけないセリフだ。
ふと見やると、フィリシスが呆れたように、ため息をついている。
この世界でも『あるある』のようだ。
……案の定と言うべきか、しばらくすると何も残っていなかったハズの場所には、一体、また一体と赤い帽子を被り、手に血塗られた斧を持ち、全身を朱に染めた連中が到来してくる。
まぁ、お約束的に倒せなかった訳じゃなかったんだけど。
……第二波だ。
邪妖精レッドキャップの大群が、今再び集まり、そして前進を続ける。
醜悪な、狂気を孕んだ邪霊の群れがファレ村に……迫って来る。
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明日も一話投稿予定となります。
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