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第25話:半分エルフとニンフの幼女

本日も一話投稿となります。

『あれは二週間ほど前のことだったかしらね。私は古きアルセイデスの定めにより、半覚醒状態のままに、その日も、森とその周囲を見守っていたの。魔素が高まりだしたのは、その日の夕刻。……私の森から僅かに東の領域から、魔素を大量に含んだ霧が、地面を這うように徐々に流れ込みだしたのよ。』


「魔素が! では魔物の発生は、見間違いでは無いと言うことですか?」


『いいえ、魔物では無いと思うわ。とは言えこのままだと、今後そういうことも起きてくるでしょうね。この異変は恐らくコロ峡谷で始まったものよ。私達、妖精は精霊に近しい存在では有るのだけど、中でもニンフは本来なら、人の営みに干渉をしない定めを与えられているの。でも、この件にはナパイアイ……谷間のニンフが関わっていると思うわ』


「ナパイアイ? 最も静かなるニンフでは無いのですか?」


『貴方、本当に良く知ってるわね。そうよ、私達ニンフの中でも、ナパイアイは殊更(ことさら)おとなしい。この辺りのニンフで彼女は最も若くもある。役目に疲れての暴走は考えにくいの。』


「では?」


『恐らくは外的要因ね。平穏を脅かす存在。何者かが、彼女を怒らせてしまった。この現象は多分、自ら盟約の封印を解き、従僕たる小妖精を走らせていることが、原因になっていると思う』


「何が、いえ……誰かが悪意を持って関わっていると?」


『ええ、守護していた宝珠を奪われそうになったのか、あるいは既に奪われたか。いずれにせよ犯人、ナパイアイを怒らせた存在は、恐らく未だに、この近くにいる筈よ。もし、盟約の宝珠が目当てなら、この一帯のニンフ達からも同様に、宝珠を奪ってまわっていないと、矛盾するのだから……』


「盟約の宝珠? そもそも盟約とは何のことでしょうか?」


『……この辺りには、古のハイエルフの集落が有ったの。過度の発展、享楽を善しとしない、守旧派と呼ばれていたハイエルフ達。彼らと私達ニンフとの盟約。ハイエルフは自然を無闇に壊さず、ニンフに魔素を調節するための宝珠を与える。ニンフは宝珠を用いて魔素を抑え、弱き生き物が暮らせる環境を整え……見守り続ける。盟約の宝珠は、全部で五つ存在し、それぞれを私達ニンフが守護しているわ。ナパイアイの走らせている妖精達のおかげか、今のところ他の宝珠は無事みたい。もちろん、ここのもね。』


「じゃあ、奪われたかもしれないのは、一つだけってことになるな。付近の村人達が見かけた小人ってのは、ナパイアイだっけ? そのニンフの使い走りの妖精達のことだよね?」


「よし! それも幽霊の類いでは無いということだな! カインズ、フィリシス、とっとと犯人を捕まえて、谷の妖精を鎮めに行こう!」


『待って! 貴方達には、ここの宝珠を守って欲しいの』


「守る? ここに留まれということですか?」


『違うわ。私達アルセイデスは、一人でありながら同時に十人でもある』

「では、一緒に行くと?」


『そうよ、私の分け御霊(みたま)の一人を同行させる。その子に宝珠を持たせるから、一緒に連れていって欲しい。』

『ほしい』


「うわ! いきなり増えた! この子、オレより小っさいじゃん」

「急に出てくるの、やめてよ〜! ……アタシは何だか苦手だな。今回の事件は。」


『驚かせて済まなかったわ。この子は私の分霊体よ。小さくても、邪魔には成らない程度の、力は持たせてあるから安心してね』

『してね』


 まんま十分の一サイズのアルセイデスは、何ていうか『美幼女』だ。

 その筋の人が目にしたら、瞬時に持ち帰りを考えるかもしれない。

 白銀の長髪に、美しい緑の目、色素の全体に薄い肌、身体的な特徴は、大人バージョンと一緒だ。

 単に小さく幼く見える。


『まずは、コロ峡谷に向かって、ナパイアイに協力を申し出て欲しい。急がないと従僕の妖精達が、邪霊化するかもしれないの。そうなったら村々に被害が出るのも、遠い話では無いわ』

『ないわ』


「急ぎます。」


「だな! エルフリーデは、ここに残る?」


「行く! カインズ達と離れる方が怖いよ……」


『くれぐれも気をつけてね。妖精達の暴走は、もう始まっていても、おかしくないわ。デシモ、貴女も頼むわよ。宝珠を守り、彼らを助けなさい』

『あい』


 アルセイデスの分け御霊は、デシモと言うらしい。


 オレ達は、デシモを加えた四人で、一度エスタ村に戻り、ウォルトン村長に報告をすることにした。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「なんと! にわかには信じられん話だな……その幼子(おさなご)がニンフの分身と言うのもな。だが今は、信じる他は無いか。それでは、カインズ達は今からコロ峡谷に行くのだな?」


「はい、念のためエスタ村の皆さんは、数日は家から不用意に出ない方が良いかと……」


「うむ、やむを得ないか。今朝、調査した結果はウォルターが先ほど馬を走らせて、近くに駐屯している帝国兵に伝えに行った。異変がきちんと伝われば、徐々に警備体制も整うだろう」


「では、先を急ぎますので、これで失礼します」


「待ってくれ。コロ峡谷へは今から、如何に馬を走らせたとて真夜中になろう。それに一昨年、峡谷の間近に、新しい集落が出来てな。そこは甬道(ようどう)からも外れている。ファレ村から独立したばかりの連中だ。今回の異変を知らん可能性もある」


「分かりました。では、そちらに立ち寄り、可能なら宿を借りがてら、変を知らせて参ります」


「すまない、今はカインズ達だけが頼りだ。ファレ村に立ち寄り、詳しい場所を聞いてくれ。他の村落には、こちらで連絡を廻す」


「お願いします。では、失礼しますね。フィリシス、エルフリーデ、デシモ、まずはファレ村だ。急ごう!」



 オレ達は、村長の家に預けていた馬に飛び乗り、一路ファレ村に急ぐ。

 ファレ村までは馬を走らせれば、その日のうちに到着出来る距離だ。

 デシモはオレの前に乗っているが、まるで重さというものが無い。

 これなら、馬に負担を掛ける心配も無いだろう。


 ファレ村までは甬道も繋がっていて、道中は特に問題は無かった。

 辺りが暗闇に包まれ始めた頃、オレ達は無事にファレ村へ到着した。


 ……そこでオレ達が目にしたのは、失った左腕を押さえ、必死で助けを求める、若い男の姿だった。

お読み頂き、誠にありがとうございます。


ニュムベーはニュムペとも言うらしいですね。

作中では、ニンフと言う名称を、主に使用致します。


ご意見、ご感想、読みにくい点や誤字、脱字など有りましたら、ご遠慮なくお寄せください。



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