表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/46

第24話:懐かしき場所

本日も、一話投稿となります。

 帝都を出発してから二日後の早朝。

 道中は特に何事も無く、オレ達はエスタ村へと到着した。

 ウェルズ帝国内の主要な街道は甬道(ようどう)と言って、馬車が余裕を持ってすれ違い出来るだけの幅の道を、大人の背より高い板塀が両側を囲っている。

 しかも主要な拠点ごとに、馬に乗って毎朝、甬道を点検して廻る役目の兵達まで居る。


 帝都から東部農村地帯の中心である、エスタ村への街道も同じく甬道化が済んでいるので、よほどのことが無ければ、安全は保たれているのだ。

 途中に寄った宿場で一泊はしたものの、必要最低限の小休止以外には無駄な休憩も寄り道もせず、真っ直ぐエスタ村へと向かって馬を走らせた。

 村に着いてすぐにオレ達は、ソホンさんの父である村長の元へと向かう。

 村長は意外そうな顔をしたものの、オレが来意を告げ、フィリシスとエルフリーデを簡単に紹介すると、すぐに表情を改め挨拶もそこそこに、本題を切り出した。


「まずは良く来てくれました。私はエスタ村の村長ウォルコットです。今回の件に限り、東部農村地帯の代表と思って頂いて構いません。ここらは直轄領ですから、領主は居りませんので。さて、あの依頼書を読んだ上で、来て頂いたのは嬉しいのですが、今朝になって新しい目撃情報が出て来たのです」


「新しい情報……ですか?」


「そうです。以前から目撃情報の有った魔物らしき小人の姿に加え、新しく、とても人間とは思えない怪しい女の姿が目撃されました。今朝、私の長男が森に調査隊を率いて行った時の話なのですが、ペーターと言う寡黙な男が、突然に一点を指差し叫んだのです。女が居る! と。」


 ペーターさんはオレも良く知っている。

 温厚だが物静かな人で、彼が大きな声を出す姿は、ちょっと想像がつかない。


「息子が言うには、確かにそこには半ば透き通った物言わぬ美しい女が居て、こちらに何かを訴えかけてくるような表情だったと。ただ、その不思議な女は、しばらく皆で指差し合って騒いでいるうちに、まるで諦めたように首を振って、その場から瞬時に掻き消えてしまったらしいのです」


「ゆ……幽霊?」


 いつも無表情なエルフリーデが、表情を変えている。

 お化けとか苦手なのかな?


「いえ、どちらかと言えば精霊の様な姿だったと……ペーター以外の者も、調査隊に参加した全ての者が目撃したと言うのです。もちろん、私の息子も。カインズは、あの森に良く入っていただろう? そんな女を見たことは有るかい?」


「ええと、あの森には精霊は確かに沢山居ます。ただ、ペーターさんや、エルトンさん、それに、村長のところのウォルターさんに精霊の姿を見る力は無いハズですよね? 精霊以外で魔物らしき姿を見たことは、僕にも有りません。それはソホンさんや父も同じだと思います」


 いくら父がスパルタでも、さすがに三歳のオレを、魔物が居る様な森には入らせないハズだ。

 第一この辺りには極めて魔素が乏しく、自然に魔物が発生する事も無いらしいのに。


「ああ、ソホンにも手紙を出して意見を聞いたのだが、見間違いの線が濃厚だろうと言って寄越した。実は依頼も取り下げようかと相談していたところだ。今朝までは……な。カインズ、それからフィリシスさんに、エルフリーデさん。改めて、まずは森の調査から、お願い出来ないだろうか?」


「もちろん、そのつもりで来てんだから、オレは構わないよ。カインズも、大丈夫に決まってるし。エルフリーデも別に問題は無いだろ?」


「あ、ああ。幽霊じゃないなら大丈夫だ。」


「幽霊かもよ?」


「う……大丈夫だ! 違うに決まってる!」


「じゃあ、決まりだな。フィリシス、エルフリーデ。オレからも、よろしく頼む。故郷の皆を一日でも早く安心させてやりたいんだ。」


「りょーかい!」

「ああ、任せろ!」


 エルフリーデは無理している様に見えなくも無いが、ここは頑張って貰おう。

 オレ達は、エスタ村の側に有る森へと足を向ける。

 オレの生家の前を通り過ぎると、そこはすぐに森の入り口だ。

 魔物は勿論、危険な野生生物も居らず、腰の曲がった老婦が、野草を摘みに立ち入ることも有る森。

 今はロープが張られていて、注意書きの記された立て札も見える。


 それぞれロープを跨ぎ(あるいは潜り)、森に足を踏み入れたが、オレはすぐに違和感を感じた。


 半実体化した精霊達が、こちらに集まるでもなく、慌ただしく空中を飛び回っているのだ。


 この状態の精霊は、精霊魔法の素養が有れば、目に見えるのだが、あいにくとフィリシスにも、エルフリーデにも精霊魔法の素養は無い。


 あえて、精霊に水場を訊ねる初級精霊魔法を使うと、ようやくオレの存在に気付いたのか、過剰なぐらい精霊達が集まってくる。

 精霊達の言葉になっていない思念を、注意深く拾っていくと、何となくだが、一番多く精霊達の意識が向いているのが、オレが生まれて初めて魔法を練習した場所の近くに有る、樫の巨木であることが分かってきた。

 集まってきた精霊達に思念で感謝を伝え、オレはフィリシス、エルフリーデに目顔で合図し、注意深く森の中を進んでいく。


 すると、ほどなくして拓けた場所に出る。

 あちこち(へこ)んでいたり、そちこちの岩が砕けていたり、当時は無かったハズの池のような物が出来ていたりと、初めて来た時とは様相が変わっている。

 まぁ、ここの様子を変えたのはオレなんだけど。

 懐かしい場所に思わず感慨に浸りたくなるのを、ぐっと堪えて先へと進む。

 しばらく昼でも僅かに薄暗い道を歩いていると、先ほどとは別の精霊達が騒いでいる場所に出た。

 あまりの思念の波に、耳鳴りがするぐらいだ。

 目的の巨木は、もう目の前に(そび)え立っている。


「フィリシス、エルフリーデ、この巨木が今回の事件に関係しているハズなんだ。少し、周囲を調べてみよう」


「でっかい木だな〜。これって、樫って言うんだっけ?」


「樫……これが、そうか。私は、木の種類とか分からないんだがな。確かに太い木だ」


「多分、この木の周りに何かが有るハズなんだ。精霊達が騒いでいるんだが、皆この木に意識を向けている」


「精霊は見えないんだよな〜。……って、おい! あれ!!」


 いつも暢気なフィリシスが、血相を変えて木の梢を指し示す。

 反対の手には、いつの間にやら、投擲用のダガーまで握られている。

 オレ達がフィリシスの指差した方に視線を向けると、そこには確かに異変が起きていた。

 村長から特徴を聞いていた通り、体が半分透けている美女が……ふわりと、まるで重力を感じさせない動きで、オレ達の目の前に降り立ってくる。

 フィリシスが、すかさずダガーを投げる。


 鋭く正確に、眉間に命中する軌道を描いていたダガーが、唐突に角度を変えてフィリシスの足元に、ふよふよと戻ってきて、そのまま地面に落ちた。


「なんだと! え? ほ……ほんとに幽霊なの?」


 顔面蒼白のエルフリーデ。

 オレもフィリシスも、警戒して武器を手に身構える。


『怖がらなくて良いのよ? 聞こえる? 怖がらないで欲しいの』


「む! 何だ? 耳鳴りがする」


 耳に手をあて、顔を歪めるエルフリーデ。


「え、なに?」


 対照的に、何も感じていない様子のフィリシス。


 二人には聞こえていないのか?


『はぁ……今度の人達も駄目かしら』


 次第に存在感自体が薄れていく美女。


 悲しげに首を左右に振っている。


「待ってくれ! オレは聞こえている。貴女はいったい何者なんだ?」


『本当に!? あら、貴方……良く見たら知っている顔ね。ここらへん、良く走ってたでしょ? 私はアルセイデスという存在。貴方達にはニュムベーかニンフと言ったら、分かりやすいのかしらね?』


「アルセイデス、意味は森のニンフだったかな。この森にニンフが居るなんて、聞いたことが無かったけど……」


『初めて人前に出てきたのだから当然ね。お願い、私の話を聞いて。大変なの』


「カインズ、害は無いんだな?」

「カインズ、幽霊じゃないんだよな?」


 その後、オレは不安がる二人を宥め、アルセイデス、森の貴婦人の話を聞くことにした。


 二度手間を避けるために、彼女の話が分かるようにすべく、オレは精霊力探知の魔法を二人にかけて、三人で同時に話を聞く。



 彼女の話が、オレ達の表情を驚愕に染めるのに要した時間は、それほど長いものでは無かった。


お読み頂き、誠にありがとうございます。


明日も、この続きの話を投稿予定です。


ご意見、ご感想、読みにくい点など御座いましたら、ご遠慮なくお寄せください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ