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第23話:故郷へ

お待たせ致しました。

本日は一話投稿です。

 ラバル湿原に異変が起きたらしい。

 今日の私は、いわゆる早番というもので、早朝から、昼が近づきつつある今になっても、急変した事態の対処に追われ続けている。


「ピット、補償金については大丈夫なのよね?」


「もちろん、すでに手配は完了しています。アサノ商会の担当者も到着済みのハズです」


「ピトちゃん、追加の馬車は〜?」


「すでに依頼済みですが、返答はまだです」


「ピットさん、一昨日のうちに依頼を受けた方々が今こちらに戻って来て、状況を説明しろって言ってますが……」


「なんとか、貴女が対応して下さい。私は今、とても動けませんので」


「ピット君、まだ彼らは来ないのかね?」


「はい、未だに来訪されていません」



 私は出勤直後から、ずっとこの様な状態で、忙殺ってこんな時に使う言葉なのだろうかと、どうでも良いことばかり考えてしまう自分に、内心で大いに呆れていた。



 一昨日から始まったラバル湿原での異変は、昨日はまだ噂と言う段階だったが、今朝になって、完全に表面化していた。


 ラバル湿原中に鬱陶しいほど、繁茂(はんも)していたシタバ草が、昨日ほぼ壊滅。

 開拓事務局を散々に悩ませていた、アシッドモールドやジャイアントリーチも、一昨日から激減したため、いつもより多く湿原に送り込んでいたG〜Eランク冒険者や、臨時の職員達が、昨日から馬車で、大量に帝都へと引き上げて来ている。

 帰還希望者が大変に多くなってしまったため、昨夜から馬車の夜間護衛を、有志の冒険者に依頼してまで、撤収作業が行われている。

 当座しのぎに、緊急依頼として開拓の手伝いや、人夫の護衛依頼を開拓事務局から出して貰うことで、帰還希望者を少しは減らすことが出来ているようだが、それにしたって焼け石に水。

 圧倒的に馬車が足りず、開拓事務局を通して帝国に、臨時の馬車の派遣を要請しているところだ。

 もう昼前だと言うのに、騒動の原因と判明している新人冒険者達は、報告に訪れない。

 そう、もう犯人達は名前も顔も判明しているのだ。

 帰還した者達が口々に、犯人の特徴を話すのだから、それも当然と言えば当然と言える。

 まずリーダー格の、ハーフエルフ。

 彼については、実はギルドでも期待の新人として知られている。

 あの『渡り鳥』のイングラムの子息にして『哄笑』のアステール・ペリエの弟子。

 そして若い頃、ギルドで最も美しく有能だった、アマリア先輩の息子さんだ。

 彼が『帝立大学院』に入学して冒険者を志しているという話は、冒険者ギルド側が送り込んだ講師の者達によって、早くから伝わって来ていた。

 十五歳にして既に最低でも、Bランク上位程度の実力は、間違い無く持っているとの噂だ。

 彼の冒険者登録の手続きを出来た私は、ギルド職員として誇らしい気持ちにもなってしまう。


 地這族(ミニラウ)の元傭兵の実力も底が見えない。

 噂によると五年前のラクバナス戦役を終結に導いたのは、侵攻軍側の大将を参戦初日で討ち取った彼の功績に依るものだとか……。

 大変に気紛れで『突然死(サドンデス)』の異名を持つ歴戦の勇士。

 まさか、あんなに可愛らしい容姿だとは、思わなかったけど。


 猫人族の末の王女、私達のような犬人族は帝国にこそ多いが、獣人族としての帰属意識のようなものは、いくら代を重ねても、未だにアンダ獣王国にこそ在る。

 獣人族中の二大氏族と言われる猫人族と犬人族。

 帝国が建国された際に犬人族の長は、侯爵身分で帝国に根を張り、倦属たる私達の祖先も大多数が一緒に移住した。

 猫人族の長は当時、獅子人で、猫人族が本国を治めることに、異存は誰からも無かったと言われている。

 猫人族の王族には固有スキル持ちが多いと有名だが、末の王女も御多分に漏れず、大変に強力な固有スキルを保持していると聞く。

 母である女王エマに瓜二つだと言う美貌もさることながら、巨大と言うのも生ぬるい程に立派な双丘を誇り、ある意味では先の二人より有名人だ。


 帰って来た者達の話では、初日から来て早々に、相当なペースでシタバ草の刈り取りと、アシッドモールド、ジャイアントリーチの討伐を平行して行っていたらしい。


 ある売り出し中の新人冒険者達は、彼らを見て自信を喪失してしまったと私に話した。

 何でも、強靭な生命力を誇ることで有名な大蛇の魔物『コンストリクター』をも、初級の風魔法一撃で瞬殺するのを目撃したのだとか。


 本当に、規格外なんていう陳腐な表現しか浮かんでこない。


 シタバ草採取、アシッドモールド討伐、ジャイアントリーチ討伐、湿原巡回による魔物の発見討伐……これらのラバル湿原における各依頼は急遽、取り下げられることになった。

 それも当然だろう。

 文字通り蹂躙された湿原には、それらの依頼の 対象が、皆無に近い状態だと言うのだから。

 まだ、この騒動の犯人達は報告に来ない。

 大殊勲を挙げたと言うのに、のんびりしているものだ。

 彼らが報告に来ないと私は、お昼休みが取れないというのに……。


 今朝方、少し慌てた様子のギルド長に、執務室に同行を求められた。

 また何か起きたのかと思ったが、単に彼らの登録時の様子と、報酬額の予測を尋ねられた上で、彼らへの対応を一任されただけだった。

 私は今の冒険者ギルド職員の中では、結婚後も働いているため古株で、こういう事態が起きた時に、どうも便利使いされやすい。

 新人冒険者としては、異例なことだが、報酬には白金貨が用意されている。

 私は今『スリーピングオウル』というパーティの名前を思い出していた。

 今回の騒動の主犯格、彼の父が在籍していたパーティの名前だ。

 彼らが結成された当初も、今回と同じように、帝都のギルド中が大騒ぎになった。

 世界中を見回しても最も平和な部類に入る、ウェルズ帝国内には、あまり優秀な冒険者が居ない。

 居ても、ほとんど『元』が付く。

 唯一の例外は迷宮都市オーウィズに居る冒険者達だろうが、彼らは迷宮探索に専念するばかりの人種が多い。

 本当に久しぶりなのだ。

 将来的に必ず名を上げるだろう冒険者が、帝都近辺で活躍したのは……。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 昨夜は少し飲み過ぎたらしい。

 酒豪、ウワバミ、ザル……エルフリーデは、以前から良く食べるとは思っていたが、酒もかなりの量を飲む。

 いくら食べても、いくら飲んでも、腰の(くび)れは変わらない。

 むしろ(えぐ)れていく。

 逆に、ある一ヶ所だけが膨らんでいく。

 本当に、一体どういう仕組みなんだろう。


 フィリシスは食べるよりも酒好きでマイペースながら大量に飲むが、本当は自分で飲むよりも、人に飲ませる方が好きなのかもしれない。

 エルフリーデやオレのジョッキが空になる前に、大きな声で店員を呼び出し、追加の注文を済ましてしまうのだ。

 話題も豊富で例えば、戦場あるあるみたいな笑い話や、世界各国の本では分からない部分を話してくれたりする。

 彼と飲む酒は楽しくて、気を引き締めないと量を過ごす。

 昨日はサナさんの顔も見れたし、気が緩んでいたのだろう。

 立派な二日酔いだ。


 あまりに気持ち悪くて、また解毒魔法のお世話になってしまったのだが、その理由が二日酔いだと、何だか魔法の発動に力を貸してくれる神様には、申し訳ない気持ちで一杯になる。


 幸いにして、今日はエルフリーデに母国から来訪者が有るらしく、ギルドへは昼から報告に行くことになっている。


 微妙な罪悪感を振り払うべく、空いた時間で精一杯の鍛練をして汗を流す。

 しかし、レベルアップの恩恵というものは、本当に凄まじい。

 自分の体が、ある瞬間から、突然何の違和感も無く造り換えられてしまうのだ。

 危うく全能感のようなものに浸りそうになるが、その都度、猛烈に自分を戒める。

 高々、レベルが六になったぐらいで調子に乗っていては、この先が恐ろしい。


 残った時間で身支度を整えたオレは、待ち合わせ場所に向かう。

 フィリシスは既に来ていて、何やら屋台で買ったらしい串焼き肉を食べている。

 エルフリーデも、時間までには集合場所に来た。

 意外に思われるかも知れないが、この世界には普通に時計が存在する。

 腕時計のようなものこそ、未だに発明されていないようだが、それは生活魔法で代用が可能なのだから、この先も発明されたとして、需要が有るかは怪しい。

 祖父は魔法が使えないせいか、懐中時計のような魔法具を持ち歩いていたが、祖父のような人は少数派も良いところだ。

 帝都には『からくり仕掛け』という表現がぴったり来る割りと大型の時計が、そこかしこに点在しているし、帝都内ならどこに居ても、時を告げる鐘の音は聞こえてくる。


 無事に時間通り三人揃ったところで、冒険者ギルドに向かう。



「シタバ草採取の報酬額が約十六万フェウルに、アシッドモールドおよびジャイアントリーチ討伐の合計報酬額が、およそ三十一万フェウル……それから、ポイズンフロッグにコンストリクターの素材買い取り額等も合計しますと、多少の色を付けさせて頂いた上で、総額は六十万二千フェウルとなりますね」


 その金額だと、一人頭約二十万フェウル(白金貨二枚)にもなる。


「あれ、そんなになりますか?」


「ポイズンフロッグとコンストリクターは、本来ならFランク以上の魔物ですので、これでも少し安いぐらいです。それと開拓事務局から連絡が有りましたが、残敵掃討と哨戒にあたっていた帝国軍の駐留部隊が、数多くのぺしゃんこに潰れた魔物の死骸を見つけたそうです、それも未処理のものを……」


 あ、途中から面倒になって放置してた分かな?

「相当に高度な重力魔法と言うことですので、まず間違い無く貴方達の倒した分ですよね? 確認中ですが、未処理、未回収のための減額は、有ってもお支払いした分以上の価値にはなります」


「分かりました、そういうことでしたら、遠慮無く頂きます。それで、次の依頼なのですが、帝都東部地域の農村地帯に目撃情報の有る未確認の魔物の調査、あれを受けたいと思います」


 エスタ村の有る方角だ。

 最近、妙な魔物の目撃情報が頻発しているらしく、調査依頼が複数の村の連名で冒険者ギルドに出されていた。

 この達成報告前に、依頼掲示板を確認したところ、『推奨ランク不定・パーティでの受注推奨』と言う依頼書を発見。

 二人にも了承を得た上で、ギルド側から文句が出ないようなら、受けることに決定していた。


「それは、貴方達なら受けて頂くのに問題はございませんが、何日掛かるかは不明ですよ?」


 確かに、この依頼は『拘束期間不明・日当有り』と有るが、そこは仕方がない。

 野生動物の見間違いと言う線も有るが、それなら帰り足で東部地帯の手頃なダンジョンにでも寄れば良いだけの話だ。

 幸いなことに、想定より懐も暖かくなったし、ランクもFに上がったのだから、多少の日数を浪費しても問題無い。

 また短期の出張依頼になってしまうため、サナさんと会う時間が減るのが、問題と言えば問題だが。


 結局は正式に依頼を受けて、オレ達は依頼側の代表者の住んでいる村へ向かう。

 懐かしいエスタ村へ……。

お読み頂き、誠にありがとうございます。


明日も一話投稿予定です。


ご意見、ご感想、読みにくい点など御座いましたら、ご遠慮なくご指摘下さい。

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