第22話:半分エルフ呆れられる
遅くなりました。
今日は一話投稿です。
ラバル湿原、滞在二日目。
酷い目に遭ったが、何とか解毒魔法が効いてくれたようで、無事に下痢が収まって良かったと思う。
オレは何食わぬ顔で準備を済ませて、先に準備を完了していた二人と合流した。
しかしこんな事で、まさか新しいスキルが手に入るとは……。
実は腹痛が治ったあとに確認したら「状態異常耐性」が追加されていたのだ。
内心の動揺を悟られぬよう、意識して表情を取り繕い、今日の行動指針を確認する。
一先ず、戦闘や採取に問題は見当たらなかったし、せっかく昨日より多くの時間を使えるので、今日は行動ペース自体も上げていこうという話になった。
今日はシタバ草の刈り取りは無しで、モンスター討伐に重点を置くことにした。
今回のラバル湿原滞在の日程は三日間。
シタバ草採取の依頼にしても、アシッドモールドやジャイアントリーチの討伐依頼にしても、最低限のノルマは昨日だけで達成出来たので、後は上乗せ分となる。
これらの依頼は三件とも、成果を挙げれば挙げるほど、報酬額が上がるようになっていて、一定の水準以上の条件を満たせば、その分だけ依頼達成件数も稼げる。
要領が分かった今なら、モンスター討伐を優先してこなせばこなすほど、シタバ草採取に重点を切り替えてからの効率が良くなるハズなのだ。
そういうわけで、今日は精霊魔法の身体能力付与を、全員に掛けることにした。
身体能力を強化して、踏破速度を上げていくのだ。
フィリシスには筋力付与、エルフリーデには敏捷付与、自分には体力付与を選択する。
昨日は様子見として、素の肉体での戦闘経験の必要性を考慮したが、今日はあくまで効率重視だ。
もやしを切るのに、馬鹿デカい中華包丁を使うみたいで、かなり気が引けるが、ここは無理やり気にしないことにする。
今日はさらに、火魔法でフィリシスの武器に火属性を。エルフリーデの武器には風魔法で風属性を。オレの武器には、神聖魔法で聖属性を、それぞれ付与しておくことにした。
ジャイアントリーチの粘液対策だ。
今日は昨日のように、のんびり様子見というわけにはいかないので、武器の刃に魔法で属性を付けることで、損耗を最低限に抑える。
予備は持ってきているが、一応は念のためだ。
一定時間ごとに、身体能力強化も、武器への属性付与も、魔法を掛けなおす必要があるが、最近だいたい一回の魔法行使で三時間は効果が保つように、なってきているので、魔力的な負担はそれほどでもない。
ラバル湿原滞在の日程が三日間と言っても、昨日と明日は帝都への移動の時間も有るので、実質的には今日が本番なのだ。
オレ達は、お互いに一つ頷き合うと、湿原に足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
やっぱりカインズは面白いヤツだ。
それと同時に恐ろしいヤツだとも思う。
エルフリーデも規格外だし、そこそこオレだって場数を踏んで来てるのに、明らかにカインズはオレ達の中で別格だった。
ま、甘っちょろい部分も有るには有るけど、十五歳っていう年齢を考えたら、むしろ出来すぎかもしれない。
カインズの師匠連中も化け物揃いだったから、当然かもしれないけど、ヤツらにしたって、皆どっかでカインズに抜かれるのを、むしろ待ってる雰囲気すら有るもんな〜。
これは『天才』ってヤツかもな。
しかも全く努力を惜しまないから、ほんとタチが悪い。
オレも負けてらんないね。
今日はオレの得意な闇魔法で、蛭公どもをプチっと潰すのも有りだってさ。
闇魔法には重力っていうんだったかな?
そんな名前のヤツを操る魔法が有るけど、シタバ草とかって草が倒れて刈りにくくなるから、昨日は封印。
今日は草刈りしないって話だから遠慮は要らない。
異常なくらい元気な草だから明日には起き上がって来るんだとさ。
しっかしまさか、傭兵やめてまで草刈りさせられるなんて思わなかったから、昨日はげんなりだったよ。
傭兵ん時は、敵サンの領地の麦の穂を、草刈り鎌で刈り取って、自分たちで頂いちまったり、作戦によっちゃ枯れ草集めさせられたりで、オレとしちゃ草刈り正直ウンザリな感じなんだよね〜。
時々、潰し洩らしたらしい蛭っころが跳びかかって来やがるけど、こいつらなんて良いウサ晴らしの相手だ。
今日は潰した蛭どもの、証明部位しか切って無かったからちょうど良いや。
せっかく魔法かけてもらったってのに、カビはカインズが遠目からヤツらに食われて枯れたシタバ草だっけ?
その草ごと燃やしちまうし、今日はエルフリーデも敏捷上げて貰って先頭で張り切ってるから、オレんとこには、あんまり蛭野郎どもが来なかったからな〜。
しかし、尋常じゃないペースだな、コレ。
小さな町なら二個ぐらい建てられそうな湿地を、どんどん駆け巡って化け物どもを狩り尽くす勢いだ。
オレも昨日は泥が重たかったり、水の深いとこで苦労してたけど、今日は楽ちんだ。
効いてるね、筋力付与が。
凄いスピードで移動し続けてるから、獲物を処理する時以外は、全く止まらず走りつづけてる。
オレ達の中では足の遅いエルフリーデも、飛び跳ねるようにして走ってやがるし、比較的バテやすいハズのカインズも、元気なもんだ。
ちょくちょく他の冒険者連中が目に入るけど、み〜んな目ん玉、丸くしてらあ。
ん〜? そろそろ、休憩かな?
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夕刻、活動終了するまでには、オレ達は湿原地帯を隈無く回り終え、目についたモンスターは、一通り狩りきった。
目標のアシッドモールド、ジャイアントリーチ以外にも『ポイズンフロッグ』と言うまんま毒蛙と『コンストリクター』とかって言う、地球で言うならアナコンダみたいな、デカい蛇も何匹か居たが、気付かれる前に見つけることが出来たので、サクッと風魔法で急所を闇討ちしといた。
個体数は大したこと無いし、動きも決して早くも無いから無視でも良かったのだが、一応はFランクのモンスターなので、危険は排除しとくに限る。
一匹ずつ討伐証明部位以外の部分の肉を切り取って、昼飯の時に食べたのだが、蛇も蛙も美味かった。
蛇は食用にもなるらしく、売却用にフィリシスに頼んで持ってきているが、蛙は毒が有るので、オレだけ味見……どちらも鶏肉みたいな味で、蛙の方が柔らかくて好みなのだが、やはり見た目の問題でスキル効果獲得に十分な量を食べたら、残りは燃やしておく。
昨夜のうちに説明を読んだが、一回だけ食べたら充分らしい。
あまりゲテモノを主食にしたくないオレとしては有難かった。
翌日、めっきりモンスターの減った湿原で能力付与をフル活用し、シタバ草を刈りまくって、一面見通しを良くしたオレ達は、預けていた馬に乗って、意気揚々と帝都に戻った。
予定より少し長居したせいで帝都に着く頃は、夕方と言うより、夜になってしまっていたので、報告は翌日に回し、かねてよりの予定通り、サナさんと待ち合わせしている、いつもの店に向かった。
今日は打ち上げを兼ねているので、フィリシスとエルフリーデも一緒なのが少しだけ残念だ。
無事に帰ったオレ達をサナさんは、満面の笑みで迎えてくれた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「え? もうそんなに?」
私は呆れてしまいました。
カインズ君達は、何でもないことの様に喋っていますけど、とんでもない成果です。
その数の報告を明日すれば、早くも彼らはGランク卒業確定ですね。
「狩り尽くす勢いで、頑張ったんだけどね」
カインズ君……私の彼氏は、この三年で背が伸びて、すっかり私より大きくなっちゃいました。
カインズ君はデートのたんびに、私を家まで送ってくれます。
そんな風にしてくれる男の人の話を、私は聞いたことが有りませんでしたから、最初はとても驚きました。
嬉しくて、カインズ君の頬っぺたにキスをした私は、その時どうかしてたんだと思います。
今は、何だか恒例みたいになっちゃって、恥ずかしいんですけど、嬉しい気持ちも有るんです。
最近、頬っぺただけじゃなくて、私から彼の唇を奪ってしまいました。
あの時は、お米のワインを飲み過ぎてしまったせいか、何だか彼がいとおしくて、堪らない気持ちになっちゃいまして……はい。
もう私が背伸びしないと届かない、格好が良いカインズ君。
驚いた顔は、いつも大人っぽい彼が年相応に思えて、可愛かったのです。
「カインズは凄い。強いし、賢い。」
いつも素直に自分の思いを、ためらわずに口に出来るエルフリーデさん。
背も高くって、スタイルも良くって、何よりも胸が大きいのです。
これって、私の頭ぐらい有りますよね。
祖国では気楽な立場と言っても、王女様は王女様です。
どう見てもカインズ君のことが好きなのですが、カインズ君は気付いていません。
本当は鈍感なのかな?
「カインズはね、化け物だよ、ほんとに」
フィリシスさんは外見からでは、想像がつかないのですが、歴戦の傭兵さんです。
普段は、全く使いませんが『転移(短距離)』は、今まで数々の武勲を、フィリシスさんの頭上にもたらしたそうなのです。
カインズ君も、ジャクスイさんも、口を揃えて言いますが、一対一で魔法無しなら、フィリシスさんの短転移後の急所狙いの一撃は、恐らく相当な戦士でも対応不能だという話です。
魔法を使ってでは有っても、対応して見せた二人は本当に凄いと思うのですが……。
カインズ君達が来年の春までにCランクに上がったら、私も学院を辞めて仲間に入る約束をしましたが、にわかに現実味を帯びてきました。
私の新しい『力』は彼の、彼らの役に立つのでしょうか?
楽しい夜は、あっという間に更けていきます。
カインズ君は、今夜も私を家に送ってくれました。
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