第19話:ねこまんまのために
遅くなりました。
本日、一話投稿です。
春。
この世界には様々な気候の地域がある。
一年中、冬の場所も有るし、反対に常夏の楽園も有るらしい。
この国には四季ならぬ五季というものがあり、春、雨季、夏、秋、冬のうち、春は日本と同じく出会いと別れの季節である。
昨日、学院を問題なく卒業したオレは、フィリシス、エルフリーデ(ギリギリ卒業)と共に、帝都にある冒険者ギルドの建物を、三人揃って見上げていた。
以前から三人で話し合って、卒業したら冒険者になることを決めていたのだ。
こうして改めて見ていると、冒険者ギルドの建物は、本当に大きい。
そして、ギルドに出入りする者も、非常に多い。
大半は、自らの得物を携え防具を身に付け、荒事に向いていそうな容貌をした、様々な種族の者達なのだが、時には何故に冒険者ギルドに出入りしているのかが、外見からは判然としない出で立ちの者達もいる。
「二人とも、いつまで口開けて見てんのさ? 通りがかったことぐらいあんだろ。さっさと登録しちゃおうぜ」
しばらく、そうしていたが、入試の頃と何ら変わらぬ容姿のフィリシスに促され、とても混み合っているギルド内に足を踏み入れる。
オレ達は比較的、待ち時間の少なそうな列に並び、雑談しながら順番を待つことにした。
「フィリシスは落ち着いているな。小さいのに大したもんだ」
「エルフリーデ、何度も言ってるだろ? 背の大きさとか関係無いし、これでも、お前らより年上だって!」
「だってアタシの真ん前に立ってても、フィリシスは見えないしだな」
「それはオレの身長より、信じらんないぐらい成長した、エルフリーデのオッパイのせいだろ?」
「そんなに褒めるなってば! でもホントは、もう少し欲しいんだけどな〜」
「二人とも、そろそろ順番だぞ?」
しかし二人と居ると、本当に退屈しないな。
よくも飽きずに昔から、小さいの大きいのと言い合っていられるものだ。
非常に有能では有るのだが、だいぶ変わり者なこの二人と、一緒にいることが多かったオレは自然と、この三人組のリーダーのようになっていた。
すると気付いたらいつの間にか、あれだけ読書をしても、鍛練をしても上がらなかった唯一の能力の値が、変化を見せ始めた。
そう、十歳から微増すらしなかった「統率」の数値が、どんどん高くなっているのだ。
オレは、軍隊にでも入って隊長みたいな仕事でもしないと、これについては、変わらないものだとばかり思っていたので、嬉しい誤算と言えるだろうか。
「次の方、どうぞ〜」
オレ達の並んだ列の受付をしている、ギルド職員の女性に声を掛けられ、彼女の目の前に進む。
彼女は柔和な笑みを湛えたまま、オレ達を少しだけ観察すると、ハキハキと話し掛けてきた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。ご依頼ですか? それとも、ご登録でしょうか?」
どうやら初顔だと分かったらしく、半ば断定的に用件を尋ねてきた。
「登録を、お願いします。私はカインズ、地這族はフィリシス、猫人族はエルフリーデ。三人とも初登録となります。」
「カインズ様に、フィリシス様、それからエルフリーデ様ですね。本日の手続きと致しましては、ご登録用紙への必要事項のご記入と、お一人あたり登録料として金貨一枚が必要ですが、問題はございませんでしょうか?」
「はい、大丈夫です。」
各自、促されるまま登録の手続きを取る。
「では、確認とギルドタグの発行を行います。本日は引き続き、私が担当をさせて頂きます。申し遅れましたが、私はピットと申します。どうぞ、お見知りおき下さいませ」
ピットと名乗った犬人族の女性職員は、奥に居た他の職員に声を掛け、持ち場を変わると、ギルドの二階へオレ達を誘う。
「それでは、ギルドタグを作成します。こちらのタグに、ご自分の体内魔力を流して頂きます。充分な量の魔力を注ぎますと、自然にタグが発熱して温かくなります。もし、全く魔力をお持ちでない方の場合は、専属の者が補助致しますので、事前にお申し出下さいませ」
ピットさんと向かい合わせに座らされ、四角い銀色の金属の板を渡される。
ちょうどオレの親指と人差し指で円を作った時と、大きさが同じぐらいになる。
片側に丸い穴が開いていて、そこに紐なり鎖なりを通せば、首などに掛けられそうだ。
ドッグタグに酷似していると言えば、分かりやすいだろうか?
あれを角張らせた形のものを手渡されたのだ。
さっそく三人三様に魔力を流して、温まったところで、順番に魔力を止める。
すると手元のタグは何だか少し光沢を増したような気がした。
「出来た!」
一番嬉しそうなのは、最も最後に魔力を通し終えたエルフリーデだった。
「では一度、タグをこちらに渡して頂きます。お三方、それぞれの魔紋にのみ反応するよう、魔法薬を噴霧し、今の状態を固定致します。すぐに処理して参りますので、このままお待ち願いますね。」
そう言って、足早に席を立ったピットさん。
ほどなくして戻って来ると、金属製のチェーンにタグを通したものを、持って戻ってきた。
「では、こちらがギルドタグになります。皆様は、今回が初登録ですので、Gランクからのスタートになりますね。改めて、申し上げます。ようこそ、冒険者ギルドへ。今日は何か依頼をお受けになられますか?」
「はい、とりあえず何かしら受けようと思っています。」
オレが代表して答えると、ピットさんは用意の良いことに、用意してきたらしい依頼書の束を、手渡してくる。
「では、こちらがGランクから受けられる依頼になります。個人向けから、パーティ向けの依頼のうち、危険度の比較的低いものを選んで参りました。三名様が一つずつ依頼を受ける形で処理致しますので、便宜的に最大で三つまで受注頂けます。」
しばらくの間、ああでもない、こうでもないと相談をした結果、オレ達は三人がそれなりに納得出来る依頼を選択出来ていた。
「ジャイアントリーチ討伐……アシッドモールド討伐……シタバ草採取ですか。全て、ラバル湿原での依頼ですのね」
「はい、それでお願いします」
「畏まりました。では、依頼書の控えになります。それと、こちらはギルドの細則となりますので、ご一緒にお持ち下さい。口頭での説明は、ご希望でしょうか?」
「いえ、大丈夫です」
「では本日は、以上で手続き終了となります。ラバル湿原へは、開拓事務局より毎朝、乗り合い馬車が出ておりますので、そちらをご利用されることを推奨させて頂きます」
「はい、ありがとうございました」
「いえいえ、くれぐれも油断なさいませぬよう……お気をつけて」
ピットさんに礼を告げてギルドを後にすると、オレ達は早速、購入していた馬に乗ってラバル湿原へと向かう。
実はオレ達のスタートダッシュは、ラバル湿原から始めることにしていたのだ。
ラバル湿原へは帝都から南に馬車で半日。
現在、急増してきつつある帝都の住民の食糧を確保すべく、祖父の進言により、新田開発のための開拓が行われている場所だ。
米はオレも好きだし、サナさんも『お酒は、お米のワインが一番なのです』と公言してるので、帝都近郊で水田が出来れば、万々歳。
フィリシスも酒目当てで、エルフリーデにいたっては何故か、ご飯に味噌汁を掛けて食べるのに、いたくハマっている。
オレ達は全員一致で、害虫駆除と雑草排除に燃えている。
殲滅、根絶が目標なのだ!
絶対に田植えに間に合わせてやる!!
お読み頂き誠にありがとうございます。
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明日も、最低一話投稿予定です。




