第18話:加速していく半分エルフ
本日、一話目の投稿になります。
ダンディなオジサマは、お察しの通り……サナラさんの、お父さんでした。
いくらオレでも十二歳という若い身空で、いきなり『お嬢さんを僕に下さい』なんて言えない。
いや言いたい気持ちは山ほど、有るけどね。
お互いに自己紹介をすると、すでにナシュトさんはオレのことを知っていたようで……
「ああ、さっき娘からも聞いたところだよ。イングラムの長男だってね。一見、まんま幼くしたイングラムだけど、顔立ちは少しアマリアにも似ているね。良かったらサナと仲良くしてやって欲しいんだけど、ダメかな?」
……と、とても好印象な人だ。
内心、オッサンなんて言ってすいません。
「そ、そんな! ダメなんて、とんでもない! サナラさんは凄く綺麗ですし!」
「まあまあ、落ち着いて。サナは君とお友達になれて嬉しいそうだよ。今日は君に挨拶がしたかっただけだから、これで失礼するね。本当は、ゆっくり話したいことも有るんだが、さっきから娘にしつこく念押しされててね。君に挨拶したら、すぐに帰れってさ」
「お父さん!」
「怖い、怖い。サナ、あんまり怒るとこ見せたらカインズ君が逃げちゃうぞ?」
「もう! 誰のせいで……」
「変なとこ見せてすまないな、カインズ君。娘は怒ると怖いんだ。また今度……」
「いいから、お父さん早く帰ってよぅ」
ナシュトさんは、はい、はいと頷いて席を立ち、サナラさんの頭を、ポンっと軽く叩いて立ち去っていく。
なんて言うか……大人だ。
ナシュトさんと比べると、ソホンさんも、アステールさんも、うちの父でさえも、まだ青さが残っている若者のように感じてしまう。
さすがにリーダーとして、あの個性的すぎる面々をまとめていただけのことはあるらしい。
「もう! お父さんたら、いつまでも子供扱いして……カインズさん、お見苦しいところを、お見せしてしまい、本当にすいませんでした」
ナシュトさんと話す時のサナラさんの、いつもより少し砕けた口調も可愛らしくて良かった。
「いえいえ、素敵なお父様ですね。今度はサナラさんのお母様にも、お会いしたいです」
「それって……い、いけません! それはさすがに、まだ早いです。そ、そそ、そうだ! カインズさんは何か飲まれますか?」
あ、何か言い方間違ったか。
今までにも赤面するサナラさんを見てきたが、今回は今までで一番分かりやすく真っ赤になっている。
今日のサナラさんは、僅かに胸元の開いた、薄い水色のワンピースを着ていて、綺麗な鎖骨のラインを覗かせているのだが、目に見える部分は全てが、これ以上は無いぐらいに紅潮していた。
ハーフアップに纏められた髪の毛のせいで、遮るものの無い特徴的な可愛らしい耳も、まるで内心の動揺を示すかの様に、赤く染まりピクピクと揺れ動いている。
「……カインズさん?」
ヤバい。
見とれてしまっていたようだ。
「では、紅茶を頂きますね。それから……いきなりですけど、サナラさん、僕と付き合ってくれませんか?」
「っ!」
サナラさんは、声を押し殺すかのように両手を口にあて、潤んだ瞳を一度閉じると、次第に眉と目尻が下がっていき……そこから透き通った涙が頬を伝って、ゆっくりと滑り落ちていく。
……そしてサナラさんは、一度だけコクンと頷いてくれた。
オレが手渡したハンカチを使って涙を拭くと、それから恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに、輝く様な笑みを見せて、こう言ったんだ。
「もぅ、カインズさんがびっくりさせるから、涙でお化粧が台無しです。……これから、ヨロシクお願いしますね」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ついにオレにも彼女が出来た!
しかも、どストライクの見た目に、可愛らしい性格、非の打ち所なんてない。
サナラさんは、十二歳のオレが学校を出るまでは、お友達として仲良くしていきたい……そして十五歳になったら正式に交際を申し込むつもりだった、らしい。
あの後、少しだけ背伸びして、ちょっぴり豪華な夕食を堪能したオレ達は、夜の帳が落ち始め、暗くなっていた道を、手を繋いでゆっくりと歩いた。
食事中、そして帰り道、サナラさんは終始ご機嫌だったと思う。
ずっと、穏やかな笑みを浮かべてくれていたのだから。
他愛の無い話に笑いあい、オレの小さな頃の話に目を丸くし、これからの二人の交際について話をしたら、真剣な顔で頷いてくれたし意見もくれた。
エロい方面は残念だが、もう少し辛抱だ。
これは秘かに、まだ自粛することに決めた。
それから二人で決めたのは、当然ながら学校では彼女は先生で、オレは生徒だということ。
どんなに忙しくても、週に一度はデートをし、二人の時は彼女の家族が呼ぶように、サナと呼ぶこと。
学校を卒業してからのことは、それが近い時期になったら、また話をすることにする。
彼女の家まで送って行くと、去り際にオレの頬に、わずかに触れるくらいのキスをしてくれたサナラさんは、小走りで扉の中に隠れるようにして行ってしまった。
頭の中で何度も昨日の出来事を反芻していると、いつの間にか隣にいたフィリシスに突っ込まれた。
「何か良いことでも有ったの? ニヤニヤしてさ」
「何でもないよ。ただ、授業が待ち遠しいだけだ」
「さすが学年首席は違いますな〜。今から気合い入れ過ぎると後で大変だぞ?」
「かもね。でも、嫌々やってても身に付かないんじゃないか?」
「それもそうなんだけどな。気を抜くときは、抜いとけって話さ」
「なるほどね。そうだな、ありがとうフィリシス」
「良いってことよ、あっ、エルフリーデだ! エルフリーデ、ちょっと良い?」
フィリシスは、彼の知り合いらしい、背の高い猫人族の女子生徒に、大きな声で話しかける。
「ん? なんだ、フィリシスじゃないか、何の用だ? 小さいから探したぞ?」
振り向いた女子生徒は、サナさんほどでは無いものの、勝ち気そうな美少女で、スラっとした長身に、引き締まった肢体を露出の多い出で立ちで覆っていた。
一箇所だけ、とんでもない自己主張をしているパーツが有って、どうしても目が吸い寄せられてしまう。
「コイツが昨日、話してたカインズだよ。君と一緒で武術の試験の時に、試験官を圧倒したっていうハーフエルフさ」
「お! そうだったのか。しかし、本当に細いんだな……カインズと言ったか? アタシはエルフリーデ、アンダ獣王国の女王エマの末娘だ。」
「……ってことは、王女様? はじめましてエルフリーデ様。私はカインズと申します。仔細はお話し出来ませんが、ゆえあって姓は御座いません」
「カインズ、普通で大丈夫だよ。この娘、王女様って言っても22番目だから。」
女王様、子供産みすぎだろ!
逆なら、たまに聞くけどさ。
「母は女の鑑だからな。アタシも母みたいに沢山、産みたい。ところでカインズ、今から敬語とかやめろよ? 尻尾の毛が逆立つ。同い年って話だから、頼むから普通にしてくれ」
「そう言われましても……いや、分かった。エルフリーデ、よろしくな」
「ああ、よろしくだ。カインズ、ところで今は暇か?」
「いや、これから授業だろ? エルフリーデは受けないのか?」
「いや、せっかくだから手合わせしたいじゃないか? 授業はまた今度だ」
「なぁ……フィリシス?」
「面白い娘だろ? スゲーでっかいオッパイに全部、栄養行ってんのか、脳まで筋肉で出来てるか、どっちなんだろうね?」
「ばっ! お前、聞こえてるぞ!」
「大丈夫だって」
「ん? 目の前で、そんなに褒めるなよ。照れるだろうが」
「ほらね?」
「……うん」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
何だかんだで、この残念娘は、この後、オレを見掛ける度に手合わせを申し出てくるようになった。
断り続けるのも難しかったので、一度だけ相手をしてやったら、エルフリーデは同年代に初めて負けたらしく、それから何だか妙に、なつかれてしまった。
そうしているうちに、いつしか、オレ、フィリシス、エルフリーデの三人は、良く一緒にいる仲間の様になっていた。
一度だけ、エルフリーデに腕を無理やり組まれて、訓練場に引っ張って行かれるのを、サナさんに目撃されてしまい、その日のデート中、サナさんの機嫌が戻るまで、とても苦労した。
そうそう、神聖魔法なのだが、たまにナシュトさんが教えてくれることになってからは、メキメキ上達していた。
なんでも、神学校流のやり方だと、時間が掛かり過ぎるとかで、ナシュトさんが裏技気味な覚え方を教えてくれたのだ。
学院の授業で沢山のスキルを覚え、磨き、そして、ナシュトさん、ソホンさん、たまに父やジャクスイさん、それからアステールさんと、豪華過ぎる師匠から技術を盗み、教えられた。
サナさんからも召喚魔法の個人レッスンを受けたり、デートを繰り返したりして、お互いの仲を深めている。
この頃は、時々だが気を緩めたサナさんが、砕けた口調で話すようになってきていた。
二人の仲間達とも絶えず、お互いを高め合い、導き合い、大いに遊び、笑い合って過ごした。
妹のユーナは、とても愛らしく成長していた。
まだ舌足らずだが、オレに向かって時折……
「おにいたん!」
……とか反則にも程がある。
たまらず、撫で回して、ユーナに高い高いをしてやると、キャッキャと可愛い笑い声をあげて喜んでくれる。
母は、そんなオレ達を叱るでもなく、微笑ましげに眺めていることが多かった。
たまには学院や街中で嫌なことも有ったりしたが、こうしてオレの学生時代は、次第に充実したものとなっていく。
あ、そうそう。
ある意味オレのせいで、学院に第二図書館が新設されることになった。
その時だけは大抵のことでは動じない祖父に、珍しく愚痴を言われた。
オレが頑張っているのは、祖父のためでもあるのを、誰よりも分かっている祖父は、その後で頭を撫でてくれたが、オレの中身を思い出したのか、照れたように苦笑していた。
もう少しだ、もう少しで祖父や両親、師匠達にフィリシス、エルフリーデ、そして何よりサナと一緒に酒が飲める。
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