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第13話:現実と現状

本日一話目の投稿となります。

 早くも場に慣れてしまったのか、トリスティアさんは良く喋る。

 同じエルフでも、父とは正直違う人種に見えてしまう。

 まぁ、種族なんて問わずに考えれば、若い女性らしいと言えるのかもしれないが。

 しかし、もう一人の若い女性の方は、とても物静かだ。


 時々、表情だけで笑って見せたり、頷いていたりするが、最初に名乗ったきり、ほとんど声を聞いていない。


 おっとりした口調で優しく響く声は、聞いているだけで心地良かったのに、少し残念だ。


 色々と偶然が続いて、少し麻痺してしまったが、実はこの人ともオレは魔法試験中に会っていたらしい。


 あの時、アステールさんと一緒にいた副試験官の女性だったのだ。


 あの時は目深(まぶか)に被られたフードのせいで、眉から上がすっぽり覆われていて、綺麗なアーチを自然に描いた眉も、その白金に輝く豊かな長髪も、何より特徴的なハーフエルフ特有の少しだけ尖った可愛らしい耳も、何一つ見えていなかったのだ。


 ……なんて、勿体無いことを。

 こうしてフードを取った状態で全体像を見ると、また違った印象を受ける。

 傍らで喋り続けるトリスティアさんは、どちらかと言えば、キャリアウーマン風の美貌の持ち主だが、サナラさんは小動物的な可愛らしさといったところか。

 こぼれ落ちそうなほどに大きく、僅かに垂れ気味の、黒目がちな瞳。

 高過ぎず低すぎず、スラリと通った鼻筋と、控えめで可愛らしい小鼻の調和。

 桜色のプックリとした美しい唇。

 これ以上ないほど理想的なカーブを描く(おとがい)から耳朶(じだ)にかけてのほっそりとした造形と細く白い首筋。


 細身の体躯には十分すぎるほどの双丘の膨らみ。


 しばらく、マジマジと観察していると、ふと目線が交錯した。

 途端に目を伏せ、何やらモジモジとし始める。

 すると顔も、首も、人族のそれより少し長い耳も、等しく真っ赤になっている。


「おーい、カインズ君。あんまり見つめてると、サナラに穴が空いちゃうよ?」


「二人とも真っ赤だね。ここはアレかい? 僕らは席を外して……」


「「やめて下さい!」」

 思わずハモってしまった。


「いやいや、相性バッチリじゃないの。カインズ君聞いてよ、サナラったらさ〜」


「トリスティアさんだって! 昨夜はソホンさんの話をしながらニヤニヤと……」


 女性二人で何やら言い争いを始めてしまう。


 取り残されたソホンさんとオレは、お互いに顔を見合わせて苦笑を交わすばかり。

 こうなってしまっては、男達には正直お手上げだ。


 食事後に運ばれてきた紅茶を、まったりと口にしながら、沈静化するのを待つ。



 鈴を鳴らすような綺麗な声音は、興奮して少し早口になっても、些かも損なわれることは無かった。


 サナラさんとトリスティアさんは、元々本当に仲が良いみたいで、先ほどまでの引っ込み思案なサナラさんも良かったが、生き生きとしている今の彼女も、とても素敵だと思う。


 知らず知らず微笑ましい光景に頬を緩めていたが、ふと見るとソホンさんも、元から涼やかに細い目をさらに細めて、まるで姉妹のような二人を微笑みながら眺めている。


 本当に種族の違いさえ無ければ、仲睦まじい姉妹にしか見えないほどだ。


「ところでサナラさん。何で昨日はフードをかぶっていたんですか?」


 終わりの見えない小競り合いに、話題の転換を図ってみる。


「え? あ、私ったら……お恥ずかしいところを。昨日は試験でしたからね。万が一、森を出たてのエルフの方や、人族至上主義の方が居ないとも限りませんし、一応の用心のためです」


「用心?」


「はい、用心です。街中は帝国内で暮らす分には、帝国法により魔族以外は如何なる種族でも、公的には平等な扱いを受けられますが、ああいった閉鎖空間では、騒ぐ人が居ないとも限りませんから……」


「カインズ君……あのね、サナラもハーフエルフなのは、もう分かってるわよね?」


「はい」


「街中とか人の目がある場所なら良いけど、中には貴方達ハーフエルフを、故なく嫌う人もいるわ。一番ひどいのは産まれた森を出たてのエルフと……」


「人族至上主義のヤツらだな。カインズ、お前は何か感じることは無いのか?」


「いえ、今のところ特には……あっ、今日ソホンさん達に会う前に、少しだけ不思議に思うことは有りました」


「そうか……帝国では少数派では有るが、混血種を毛嫌いする連中も、中にはいる。恥ずかしい話だがな」


「カインズさん。私は、見ての通り、貴方と同じハーフエルフです。しかし、実は私の両親は二人とも人族なのです。」


「知識としては知っていました。チェンジリング……いわゆる『取り替えられた子供』ですよね?」


「ご存知とは、話が早く進められますね。私の父はナシュトと言います。以前は貴方のお父様や、アステール導師、今ここに居られるソホンさん、それからジャクスイさんと言われる方と組んで、冒険者をしていました。」


「ナシュトさんとべティちゃんの娘さんだったのか! そう言えば、名前はサナラ……君が、あのサナラちゃんだったのか。」


「サナラ、あんた昨日はそんなこと……」


「私も今朝、母から初めて聞いたのです。母の口からソホンさんの名前が出た時は、心底驚いちゃいました」


「父の……お噂はかねがね聞いていました。」


 万神教の高位の神官で有りながら、時折旅に出ては孤児を保護して回り、自らが運営する孤児院に連れてくるという、非常に尊敬出来る人のハズだ。


「はい、私の父は私が生まれるとすぐに、ある覚悟を決めたそうです。私を強く育てると……」


「父さんも……僕の父も同じだと思います」


 サナラさんは、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干すと、ゆっくりした語り口調で自らの生い立ちを話してくれた。

 その話は、とても聞き覚えがあるような気がした。

 似ている。

 その話はオレが今まで、カインズとして過ごした九年間と、細部にこそ違いは有るが、大筋では非常に似ていた。



お読み頂き、誠にありがとうございました。


早ければ昨夜中には投稿出来るかと思いましたが、チェック作業完了前に寝落ちしてしまい……

大変に失礼致しました。

今日中には必ず、もう一話投稿したいと思います。


入学試験から時間が動くのが一時的に緩やかになっていますが、重要な出会いを済ませたならば、そこから一気呵成に話が動き始めます。


ご意見、ご感想ございましたら、ご遠慮無くお寄せください。


今後とも拙作を、どうぞヨロシクお願いいたします。

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