第9話:入試①槍と目を合わす
本日は一話のみ投稿予定です。
※今回は主人公が少々、内心で調子に乗ります。
※苦手な方は斜め読みに読み飛ばして頂いても、続きを読まれるのに不都合は出にくい内容となっております。
入学試験当日。
午前中は筆記試験が行われた。
内容は、この世界の一般的な歴史、算数(数学の間違いではない)、魔法知識、大陸共通言語の読み書き、卒業後の進路と抱負についての小論文だった。
小論文に書く内容については頭を悩ませたが、無難に冒険者として活動する予定であること、困っている人々の助けになりたいこと、大陸中に名を馳せるような活躍をしたいことなどを書いて、お茶を濁すに留めた。
そして午後からは実技試験だ。
明確に職人を目指す者には各分野ごとの作品の提出、または実演がもとめられた。
それ以外の受験生には、等しく武術・魔法の試験が課され、試験も中盤に差し掛かると、早くも自分の合格、あるいは失格を確信しているであろう受験生達の、悲喜こもごもな情景が映し出されている。
いよいよ次は、オレの番だ。
まずは武術の試験。
得意な得物を選ばされ、選んだ武器に応じて違った形の試験が行われる。
オレは少しだけ悩んでから、短槍の形をした木の槍をその手に取った。
複数いる試験官の中で、オレが当たったのは現役の騎士団員だった。
近衛騎士団員フレンジャーとの名乗りを受ける。
オレも他の受験生より心持ち丁寧に名乗りを上げ、お互いの武器を軽く合わせる。
フレンジャー試験官の持つ武器は、片手剣としては少し長目の木剣と、円形の盾だ。
守りの固さと膂力に優れた騎士ならではの、堅実なスタイルと推測される。
試験開始の合図がされても、あちらからは動きが無かった。
ならば先手必勝といこうか。
小細工無しで、まずは正面から軽く突きを繰り出す。
相手は驚いたような顔を浮かべて、慌てて突きの軌道に盾を合わせようとするが、その動きはオレの剣の師匠ソホンさんと比べてしまえば、随分と緩慢に思えた。
……これなら!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
目の前の受験生は、今まで相手をしてきた中では最も小柄だ。
一瞬だけ年齢の詐称を疑ったが、ふと相手の耳に目をやったオレは、即座にその考えを捨てた。
どうやら目の前の少年はハーフエルフのようだ。
短槍を選んだ少年を見て、オレは素直に珍しいものだ、と思った。
エルフにしろ、ハーフエルフにしろ、近接戦闘が苦手な種族で、武術の試験を受験する時は、弓術を選択する者が大多数だ。
弓術を選択すれば、引ける弓の強さを確認するのと、的当ての飛距離、命中率を測定する試験になるので、大半のエルフ、ハーフエルフはそちらを受ける。
実際、ドワーフや獣人など近接戦闘が得意な種族は別として、人族や地這族でも半数以上は弓術であるとか、投擲の技術の試験を選ぶ。
有り体に言えば怪我をしかねない模擬戦闘の試験など、避けられるものなら避けたいのだろう。
それだけ試験官と直接武器を合わせる事は、心理的障壁が高いということでもある。
エルフの中には槍も得意な者が居るのは知っていたが、そのような者でも身体的能力には劣るので、弓術試験を選ぶものなのだが……。
なんとか戸惑いを押し隠し、オレが名乗ると少年は、妙に洗練された物腰で丁寧に名乗りを返してきた。
カインズ、それが少年の名前だった。
儀礼的に軽く武器を合わせ、開始線に戻るとほどなく、補助試験官から合図の声が掛けられる。
まずは相手の出方を見ようと、油断無く身構えていると、おもむろに動き始めた少年は、驚くほどの速さで突きを繰り出して来た。
そのまま帝国騎士でも通用しそうな刺突に、オレも内心大いに慌てて、突きの軌道に盾を合わせようとしたが、瞬時に見抜かれたのか、突きの軌道を二度、三度と変えてきた。
あまりの速さに付いていくのが精一杯で、なかなかこちらから攻撃することが出来ない。
そうこうしているうちに、盾を槍の柄で絡めとるようにして飛ばされ、やむなく剣で打ち掛かるも、苦し紛れの攻撃は酷くあっさりと回避されてしまう。
それどころか気付いた時には、回避の動作に連動して凪ぎ払われた、少年の槍の穂先が、オレの目前でピタリと止められている。
誰が、どう見ても負けだろう。
オレは、しばし呆然と木製の槍の穂先を眺めていた。
木目まで見えてくるぐらいの距離でだ。
試験終了の合図は随分と遅れて出された。
オレは、どこか他人事の様に試験会場を包む歓声を耳に、戦慄しながらその場に立ち尽くしていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
数分と掛からず、あえて陳腐かつ大袈裟な表現をするのであれば『秒殺』での勝利だった。
父の方針で、小さい頃から模擬戦形式での訓練を受けているオレにとって、この試験は事前に心配していたほど高い障害では無かった。
どうしても相性の悪い相手と当たることも考えられたが、フレンジャー試験官の動きは、散々オレをしごいてくれたソホンさんの、いわば劣化版コピーのようなもので、ソホンさんの動きに慣れたオレにとっては、非常にやりやい相手だったのだ。
寸止めで勝敗が決したのも良かった。
木で出来てる槍でも思いっきり突いたら、場所によっては大怪我をさせてしまう。
もちろん、万が一に備えて会場には多数『万神教』の神官が控えているが、怪我は神聖魔法の恩恵で治ったとしても、誤って殺してしまうことも無いとは限らないし、何より痛いものは痛いのだ。
フレンジャー試験官は、あんまり強く無かったから良いけど、これが本当に強い人だったり、相性の悪い人だったら、寸止めしてる余裕なんか無かっただろうから……。
終了の合図が、なかなか聞こえてこない時に、内心大いに焦っていたのは、言わなきゃバレない……ハズ。
明日も一話投稿予定です。
お読み頂きありがとうございます。
魔法試験と分けて描きたくて、短めな話になっております。
『地這族』
『万神教』
などの新語につきましては、本話中では重要性が低いため、後日の説明となります。
それから、今朝の活動報告にも記載しましたが、本日より何故か日間ランキング100位以内に入っております。
これも、これまで応援頂いた方々、また新しく目を通して頂いた皆様のおかげです。
作中の主人公と違い、調子に乗らぬよう心掛けて、努力し続けますので、どうぞ今後ともよろしくお願い申し上げます。




