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後悔

 千幸さんと会った帰り道、暇だったのと久しぶりに伊賀さんに会いたかったので事務所に立ち寄ることにした。伊賀さんにも相談してみようかとも思ったが千幸さんに言われたことを思い出してやめた、自分の人生なのだから自分で決めよう、それが間違っていようが正しかろうが自分の責任である。


 「伊賀さん、こんにちは」

 「おう、久しぶりだな」


 新聞を読んでいた伊賀さんは顔を上げて僕を見た。そして引出から何やら一枚の紙を出して僕に見せた。


 「これ、お前に頼みたいんだが」

 「依頼?」

 「ああ、明日の予定でな。ちっと急すぎるが…いけるか?」

 「うん、大丈夫だ」

 「じゃあ、頼んだ」

 

 渡された紙にはターゲットの情報が書かれている。写真に写っているのは金髪にピアスをたくさんあけた若い男の顔だった。まだ若いのに殺されるのか一体何をしでかしたのか、それは僕には分からない。それは伊賀さんのみぞ知る。

 殺しの予定は明日の夜中、糸とは会うことができる。糸と会った後に待ち伏せして殺そう。大体の殺しのめどはついた、もう慣れたものである。


 「言うの忘れてたが、そいつはだいたい繁華街にいるらしい。だいたいは連れがいるらしいから気をつけろ」

 「分かった」


 連れがいるのは厄介だな、一人になるまで尾行するしかないのか。正直、尾行は苦手である。一度尾行したのがばれてひどい目にあったものだ、まあ何とか依頼はこなせたが。


 「尾行するの苦手なんだよな…」

 「やめてもいいんだぞ」 

 「ううん、やるよ」

 「…そうか」


 貰った紙を小さく折りたたんでポケットに入れると僕は時計を見た。今は夕方の6時である、糸との時間まで事務所で時間を潰すことにした。

 伊賀さんは新聞を読んでいる、僕はすることがない。静かな事務所に時計の音だけがやけに大きく響く。


 「お前は殺し屋になったことを後悔していないのか?」


 新聞から目を離さずに伊賀さんが言った。


 「してない」

 「…いつか、する日が来るんだろうな」

 「ないと思う、伊賀さんは後悔してるのか?」

 「たまにするな。やっぱり胸を張れる仕事じゃないしな」

 

 後悔する日が僕にも来るのだろうか、僕は特に今まで後悔したことがない。人に胸を張って言える仕事ではないことは分かっている、だけど僕は自分なりに誇りと信念を持ってこの仕事をやっているつもりだ。

 

 「後悔する日がおまえにもきっと来るさ…その時はいつでも相談しろ」

 「…うん、ありがとう」

 

 お礼を言うと伊賀さんは照れ臭そうに笑った。やっぱり伊賀さんは頼れる人だ。


 「この前、尾行がばれてひどい目にあっただろう。怖くないのか?」

 「怖いよ、けど今度はばれないようにするから大丈夫」

 「…油断するなよ」

 「うん」

 

 その後僕ら二人の間に会話はなかった。伊賀さんは新聞を読んだ後、ベランダに行って煙草を吸っていた。夕日と煙草の先から出る煙が妙にきれいに見えた。


 「じゃあ、帰るね伊賀さん」

 

ベランダにいる伊賀さんの背中に言うと伊賀さんは片手を挙げてひらひらと振った。


「じゃあな、殺されんなよ、生きて帰ってこい」

「うん」


伊賀さんの力強い声に励まされて僕は事務所をあとにした。


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