夏の日
太陽の光がコンクリートに反射して、日本の気温を上昇させる。
夏の晴れ間は、私たちの体力を奪う。気持ちを重くする。
今日は、夏休み中の小学生にはお決まりの地区ごとの勉強会。
「あっついな〜」
私が大好きな先輩は宿題を投げ出して愚痴を言った。
先輩は6年。私は4年。
今日の私の服装は、白い半袖のパーカー。私の1番のお気に入り。
「今日はこれでお開き」
先輩がそういうとみんな宿題を鞄に入れて帰る準備を始める。
「稟。帰ろうか」
私は、今年1年になったばっかりの妹に声をかける。
「うん」
稟が私の方を向いた瞬間に、稟の筆箱が床に落ちる。
「しっかりしないと…」
私が稟の筆記用具を取ってあげようとする前に、先輩が拾い始めていた。
「はい、どうぞ」
先輩が全部を拾い上げ稟に渡した。
先輩の笑顔と共に・・・。
「ありがとう」
稟は少し顔を赤くしてそう答えた。
そんな稟の姿を見て、私は胸の中がギュッとした。
私がもし筆箱を落としても、先輩は私に笑顔を見せてくれるだろうか?
稟の帰る準備が終わったので、私と先輩と稟で家のほうに向かう。
勉強会の後はいつも一緒に帰る。たいした意味はない。ただ、家の方向が同じだけ。
去年は先輩と2人きりだったのに・・・。
ついさっき、稟の駄々によって先輩は稟を肩車をしてあげている。
稟は先輩の肩の上で上機嫌だ。
私は稟とは違って、先輩に迷惑をかけることはしたくない。でも、何でも言える稟はいいと思う。気が楽で・・・
私は稟に嫉妬しているのかもしれない。
3人で道を歩く。田舎道のために足元は良くない。
そんな道であるにもかかわらず、稟は先輩の上で遊んでいる。
先輩は稟に必死で、私のことは見てもくれない。
ふと、私は石に躓く。
体制を崩して前に倒れる。
地面が近くなる。
(い、いや)
心の中で、出した言葉は先輩にはきっと届いてない。
「うっっ」
不意に首が引っ張られる。
私は、転んではいないようだ。
でも、息ができない。苦しい・・・。
私が体制を立て直すと、苦しさは消えた。
どうやら、先輩が私が倒れる瞬間にパーカーのフードを引っ張って倒れるのを防いでくれたようだった。
「な、なにするのよ!」
自分でも思ってないことが言葉に出る。
「ごめん」
先輩は複雑な表情を浮かべる。
当然だ。助けてあげたつもりなのに、怒鳴られたのだ。
「苦しかったんだから・・・」
そう、私は苦しかった。息ができないくらい。
さっき引っ張られる前からずっと・・・
稟と仲良くする先輩を見てずっとずっと・・・
「でも、ありがとう」
次に出た言葉は、心からの言葉だ。本当の気持ち。
助けてくれてありがとう。
稟の面倒を見てくれてありがとう。
そして・・・私を見ていてくれてありがとう。
先輩は、呆気に取られた顔している。
肩車されている稟も同じ顔をしている。
私はそんな2人を置いて歩き出す。
「早く帰ろうよ」
そうだ、私もかえろう。
いつもの私に・・・
嫉妬する前の私に・・・
ただただ先輩が好きな私に・・・
私には関係ない。
私は先輩を好きでいれば良い。
その後を決めるのは先輩なのだから。