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吸血鬼に関わるべからず  作者: 葉月
イケメンに恋する女の子。の話
2/5

「吸血鬼って翼も生えてるんだ」

転校生、二宮匠は滞りなくクラスに馴染んでいった。特に目立つでもなく、虐められるでもなく。迫害されるでもなく。遠巻きにされるでもなく。普通に。

至って普通。普通すぎてつまらない。

つまらないよ、こんな話。



転校初日とその数日。

その間はさすがに色々聞かれたり質問されたりちやほやされたりと、二宮は人気を一身に受けていた。


などと言った転校生らしい『転校生』なことも二宮匠には実はなかった。


これが現実だ。

皆、現実を見ろ。

転校生が騒がれるとか、マジないから。



今では立派なクラスの一男子生徒となった二宮匠。彼は普通に平凡に滞りなく学校生活を日々送っていた。





「吸血鬼なのに」




華斗はそんな『普通男子学生二宮』に向けていた、決して熱くはない冷めきった視線を教科書へと戻す。

ああ、いい忘れていましたが今は地理の授業中。ただでさえ苦手な教科なのに他のことに気を散らしていたら、次の小テストでは赤点を取ってしまうかもしれません。

マズイです。


そんな華斗は全く頭に入ってこない先生の話と内容の教科書をパラパラとめくった。



華斗が二宮の『正体』に気付いたのは転校初日のあの日。そう。あの日です。



では、またここからは回想シーンといきましょうか。









華斗が廊下を歩いていると、後ろから二宮が声をかけてくる。不振に思う華斗。二人は屋上へと向かった。

屋上は鍵がかかっていて入れなかったのだが、二宮はそれをいとも容易く破壊し屋上へと侵入した。


いやいや。

そりゃ駄目だろ。


華斗はびっくりしながらも仕方なく二宮の後を追って屋上へと足を踏み入れた。


「屋上、立入禁止だよ」


そう一応言っておいた。


「バレなきゃ大丈夫だろ」


二宮は言った。


え、意外と不良君だったの?君。と華斗は目を丸くする。教室の雰囲気とは異なる二宮の態度。口調。物腰。


猫かぶり、か。

華斗は確信した。



「それより、体は大丈夫か?」


二宮に意味不明に体調の事を心配された華斗は、は?と間抜けな声を出してしまった。


「体だよ体。昨日俺に血吸われただろ?大丈夫だろうとは思ってたんだが、一応確認しておこうと思ってな」

「……………」




血を吸われた。


その言葉に華斗は目をぱちくりさせる。



と、いう事はこの目の前にいる二宮匠と名乗る転校生は、昨日の放課後に私が教室で出会い血を吸われた吸血鬼、ということになるのだろうか。

そう彼は言っている。


「…………」


んなアホな。

そもそも二宮はイケメンでなし。

眼鏡を取ったらイケメン?

ないない。

と心の中で突っ込みをいれつつ二宮には、「はぁ」と適当な気のない返事を返しておいた。


もし本当ならベタすぎるだろ。

この展開。

ないない。ありえない。



「ま、一応社交辞令ってやつだからな」


二宮がそう言う。

「で、こっからが本題なんだが」とさらに二宮は切り出す。


「俺が吸血鬼だってこと、黙っててくれねーか?」


はぁ、ととりあえず気のない返事をした華斗に、二宮は聞いてんのかと眉間に皺を寄せながら凄む。凄まれてもイケメンじゃない。

そんなに怖くない。


だから言ってみた。



「二宮君が吸血鬼だって言っても誰も信用しないと思うけど」


二宮は眉間に皺。


「何でだよ」


そんな二宮に、華斗は上を指差す。

そこには夏も終わりに近いというのにさんさんと照りつける暑い太陽と、所々に白い雲が泳ぐ真っ青な青空が広がっていた。いい天気だ。和みます。和みたいです。


「今、真っ昼間だよ?」


太陽の光サンサン。

消滅、しないのだろうか。


「お前は大正時代の人間か」


二宮はそう突っ込んできた。

そんな古臭い話、今の世の中の吸血鬼に通用するわけねーだろがと華斗は二宮に小バカにされる。



まぁ、今のは冗談半分だったんだけど。



「じゃあ、にんにくとか聖水とか十字架は?」


とりあえず聞いてみる。


「それは……どうなんだろうな。俺は平気」

「ふーん」

「……お前、まだ信じてないだろ」


信じろって方が無理な気がする。

華斗はそんな気持ちで二宮を見返した。



その後も、牙を見せてもらったり吸血鬼についての話を聞いたり、試しに血を吸ったり吸われなかったりしてみたりと色々あり、華斗は二宮が本物の吸血鬼なのだと信じるにいたったのだった。

そして眼鏡を外すとイケメンだと言うこともこの時知った。

ありえない。そんな現実。

ヤラセだ。




兎に角回想終了である。










「華斗ーっ!」


地理の授業が終わり、次の授業の準備をしていた華斗に、親友である林葉杏が叫びながら小走ってきた。

強者の杏の髪型は毎度の如くツインテールだ。似合わなくもないから凄い。


「杏、どうかしたの?そんなに慌てて」

「これっ!見て!!」


ばっ、と華斗の目の前につきだされた白いA4紙。それには地理の問題、その回答、その回答に赤いペンでつけられた歪な赤い丸。

そして右上に同じく赤いペンで書かれたのであろう100点の文字。


うむ。

これはまごうことなく、先程返された地理の小テストではないですか。

しかも100点。


満点。

100点満点。

間違いない。


「ちっ」

「今、舌打ちした!?舌打ちしたっ!?」


してないしてないと華斗は惚けた。

それにしてもよく100点なんて取れたねーと杏の小テストをじっくり眺める。

採点ミスとかないだろうか。


「奇跡だよねっ、奇跡すぎだよね!どうしよー、この後悪いことが起こったら………」

「まぁ、雨は降るかもね」


窓から外を見上げる。

空はどんより曇り空。天気予報では一日中曇りだとの予報だったが、この様子では雨が降っても不思議ではなかった。


「傘、持ってきてない…」


杏が呟く。


「私も」


濡れ鼠にはなりたくないよね、と二人して空を見上げ続けた。このまま現状維持でお願いしますよお空様、と祈りを捧げるかのように。


「……そういえば、二宮君どこ行ったんだろうね?」


杏が空から視線を戻しポツリと呟く。

祈りは終わったらしい。

そんな杏に、華斗はさぁ?と気のない返事を返す。

内心では「あの吸血鬼、何処かで誰かの血でも吸ってんじゃないだろうか」と考えながら。


吸血鬼二宮匠は目立たず騒がず普通一徹を転校初日からずっと貫いてきていた。それは吸血鬼だとバレないため、誰にも注目されないため、だろう。

その二宮が、先程の地理の授業を無断で欠席した。地理担当の教諭が二宮がいない理由を聞いてもクラスの誰も理由を知らない。

教室中がざわめくなか、保健室にでも行ったのだろうと先生は結論づけ、皆もそれに納得した。


納得するな。



だが、この時華斗だけは違うだろうな、と考えていた。もし本当に二宮が保健室に行っているのならば、二宮は必ず誰かにそれを言付けるはずだ。無断で保健室に行くなど、吸血鬼である事を隠してこそこそと人間社会に紛れ込んでいる彼が、そんなちょっと目立つ行為など絶対にしないだろうと考えられた。


では何故。

何故彼は教室にいない?


考えた所で真相は華斗に解るはずもなかった。


もしかしたら屋上にでもいるのかもしれない、とふと思った華斗は杏にちょっとトイレにと言い教室を出て屋上へと向かった。



屋上には鍵がかかっていた。二宮が鍵を壊すまでは、の話だが。

二宮は転校初日、当初あった鍵を破壊した。その後そのままというわけにもいかなかったので、二宮は自分で用意したナンバー式の錠前をつけて施錠。バレたら洒落にならんと思っていたのだが、これが不思議とバレずに今現在にいたっている。


どっちにしろ洒落にならん。


新しく付けた鍵はナンバー式の錠なので、解除番号を知っている二宮は無論出入り自由。


かくいう私も番号を知っているので出入り自由。




屋上にいるのだろうか。


華斗は錠を開けて、屋上への扉を開いて一歩踏み出し…………





そこねた。





そこに踏み出すための地面が無かったから。


「……っちょ……とぉっ!?」


がくっと体がそのまま傾きまっ逆さまに落ちていく。悲鳴をあげる隙もなく、華斗はお腹に巻き付いた蔓のようなものに助けられた。

反動でがくっと体が傾ぐ。


「……うっ…お腹が締め付けられる……」


内臓が、内臓が。

そんな言葉を発しながら華斗は下に広がる暗闇を見つめた。何、この深淵。いつから屋上は異次元空間に繋がるようになったんだ。

異空間に飛ばされる設計になったのか。


「何故人間がここに入ってこれる!?」


頭上高くから聞こえたそんな声に、華斗が頑張って上を見上げてみると、そこには背中に黒い翼を生やした異国風の服を着た金髪長髪の男と、これまた背中に黒い翼を生やした制服姿の見覚えあるメガネ男子がこちらを見下ろしていた。



っていうか、翼って。


「吸血鬼って翼も生えてるんだ」


そんなすっとんきょうな華斗の質問に、遠く上空にいるメガネ男子『二宮匠』は当たり前だろう?と普通に返してくれたのだった。

耳がすこぶる良いらしい。



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