第二話「ルカの友達」
ルカ・ベルトリオは一人ぼっちだった。
性格が暗いわけではない。意地が悪いわけでもない。しっかりと友達だっていた。
それでも、ルカ・ベルトリオは一人ぼっちだった。
理由は至極単純。
魔法の使える世界に生きる身でありながら魔法が使えなかったからだ。
ルカは『レビーノ』と呼ばれる世界の住人だった。レビーノに住む者は皆その身の内に魔力を秘め、その魔力を『魔法』として外部に解き放つことが出来た。そしてその魔法の力を行使し、人々は思い思いに日々を過ごしていた。
レビーノの人間にとって魔法とは、自身の名前のように持って当たり前の物であった。故に魔法の使えない人間は同じ人間ではない――そのような風潮もまた当たり前のように存在していた。
当然ながら、ルカにも魔力は備わっていた。しかし彼女の場合、何故かその魔力を外側に放出することが出来なかったのだ。内側で燻らせ続けているだけでは、その身に秘めた千年に一人の逸材と目されるほどの膨大な魔力も、宝の持ち腐れだった。
ルカの同級生は、その全員が当たり前のように魔法を使っていた。ルカは常に明るく振舞っていたが、その光景を目にする度に、言いようのない疎外感を感じていた。
子供の頃はそれなりに仲良く付き合っていた者たちも、歳を重ねるにつれて次第に彼女を疎ましく思い、憎しみに近い感情さえ抱く者も現れるようになった。
それまで味方と思っていた人間が次々と消えていき、自分に白い眼を向けてくる。しかしそんな中で常に明るく振舞えたのは、最初に会ってから今に至るまでずっと友であり続けた二人の存在――ベリー・カーチスとキール・ボルトがいたからでもあった。
二人はルカが十の時からの知り合いであり、魔法を使えないルカを色眼鏡で見ることなく接してきた良き友達であった。
「魔法の使えない者相手に、しかも二人がかりて襲うとは……覚悟はできているのでしょうね?」
「ま、待ってくれよ。もうしないから。反省してるからさ。だからもう許してくれよ」
「そ、そうよ。それに大体、魔法も使えない癖にこの学園に堂々と居座ってるあいつにも責任が」
「黙りなさいッ!」
何かにつけてルカに因縁をつける連中を、年齢性別問わずベリーが得意の電撃魔法で叩きのめし、
「……うん、これで大丈夫かな。痛みは無いかな?」
「ええ、もうすっかり良くなったわ。ありがとね」
「いいえ、どういたしまして……ふふっ」
「えへへっ」
キールが得意の治癒魔法を使ってルカの傷を治す。
「で、ここはこの数式を使えばいいんだよ」
「ああ、なるほど。そうすればいいのか」
「ふ、ふん。この程度、私一人ですぐにでも解けましたわ」
「じゃあベリーには次の問題教えてあげない」
「な……それとこれとは話が違いますわ!」
「素直になりなよ」
「ぐうっ……」
秀才で物わかりの良いルカはそんな二人に勉強を教えたりして互いを助け合い、しっかりとした友情を築き上げていた。ベリーとキールも次第に友人の数を減らしていったが、他人を気にして友人を止めるような奴などこちらから願い下げだった。